『M・I・A』日本語・特別編集版 ⑧
『ScarletーLine』
「手と手つないで、優しい気持ち
笑顔と笑顔、想いとどけたいの
こころとこころ、つながればいいのに
わたしのこの気持ち、伝えきれないのよ
あなたとわたし
こころとこころ
通じあうしあわせ、伝えたい
みんなが、信じあえればいいのに
あなたとわたし、
想いと想い ♪」
〝愛する気持ち〟とか〝切なさ〟って、
これほど鮮明に伝えられるもの?
歌の力を侮ってた… というか、
〝今まで何も知らなかったんだ〟と
観ていた誰もが思った。
明るさ満点、元気一杯のみのりちゃんは、
そこにいるだけで周りを元気にする。
ただ、彼女の武器はそれだけじゃなかった。
歌声は、独特の抑揚と節回し、
コブシや強弱が絶妙にブレンドされ、
時に優しく、時に激しく、時に狂おしく、
胸の奥にまで響くようだった。
「なにかを得るために、
なにかを捨てたりできない
だれもがしあわせに、
なる途をさがしたいの
互いを思うこころ
わたしたちの『緋色い糸』
大好きよ、あなた、
いつまでもそばにいて ♪」
歌声は何もかもが神がかっていて…
どこまでも心に染み渡る心地がした。
「あなたとわたし
こころとこころ
通じあうしあわせ、伝えたい
ただ、みんな、信じあえればいいのに
あなたとわたし
こころとこころ
あなたとわたし
想いと想い ♪」
「表されてる愛って、
近しい人との愛だけじゃなくて、
隣人愛とか人類愛とか
〝博愛〟の領域に入ってる気するね」
「歌の中に、なんか
力強い生命の息吹を感じる」
「コレが言霊ってヤツ?」
会場でツイート見る余裕なんてなかったけど、
ネットの人々と同じ気持ちだったと、
後で確かめ合えた。
静かな後奏は、その余韻を残しつつ、
次の曲にすーっとつながった。
『悠久〜Eternity〜』
「遊びをせんとや生れけん
戯れせんとや生れけん
遊ぶ子供の声きけば
我が身さえこそ動がるれ ♪」
曲は、たったひとつのフレーズだけが、
ゆるーく何度もくり返す、
ほとんど楽器曲のような曲。
原典は『梁塵秘抄』という書物に収録された、
日本の大昔〜平安末期の有名な歌のひとつらしい。
「今様」という形式で、
中世の民衆による流行歌〜
今風に言えば〝新しさ満点の歌謡曲〟とでもいうか。
それを、楽器とコーラスが綺麗に調和するよう
編曲してある。
イザナミがこれから生きる、
永い永い刻をイメージした…
生きることそのものが、
童たちの遊びのように
純粋であればいい… というか。
「あ、まさか… 雪?
雪だ!」
観客の女の子があげた声につられて見上げると、
本当に雪が舞っていた。
屋内会場に降る雪は、照明の変化と相まって、
色彩豊かに変転した。
桜吹雪に変わり、
新緑の木の葉に変わり、
紅葉の落葉に変わった。
四季が舞い踊る景色を背負って、
天女の衣裳動画を纏った
みのりちゃんをメインヴォーカルに、四人がハモる。
曲は、時に豊かに、時に雄大に、時に繊細に。
美しい旋律をたっぷりと湛えながら、
ラストに向けて盛り上がっていった。
「遊びをせんとや生れけん
戯れせんとや生れけん
遊ぶ子供の声きけば
我が身さえこそ動がるれ ♪」
曲の変転に乗せられた歌詞は、
同じ詞とは思えないほど様々な表情を見せる。
さらに、みのりちゃんの歌唱力が加わって、
果てしない高みにまで、
舞い上がっていくようだった。
会場も…
イザナミですらも、嘆息を漏らしていた。
「遊びをせんとや生れけん
戯れせんとや生れけん
遊ぶ子供の声きけば
我が身さえこそ動がるれ ♪」
最後には荘厳さすら感じさせながら、
曲は大団円を迎えた。
耳の中に快感を伴った残響がこだまする。
感動の余韻が後を引く。
このステージがいつまでも終わらないといい…
このままずっとこの快感に浸っていたい…
誰もがそう思ったのだろう。
波が寄せるように、
会場から拍手と喝采が起こった。
それは四人が退場した後も、
なかなか鳴り止まなかった。
それを納められたのは、
この催しの主役…
イザナミだけだった。
「なんだか名残惜しい…
こんなに盛り上がるなんて、
思ってもみなかった…
これにて…
審査プログラム、すべて終了です!」
イザナミも完全に涙声だ。
会場の観客も、すっかりもらい泣きしていた。
「イザナミ・カルテットのみんな、ありがとう!
そして、見てくれたみんな、ありがとう!
では、審査員の皆さま!
別室にて審査、お願いします!」
前列の特設席から、審査員が立ち上がり、
観客に手を振ったり、会釈をしたりしてから
別室に向けて歩き出した。
このステージ、四人とも最高だった。
キャラ立ちまくってて、この上なく素敵だった。
彼女たち、それぞれの魅力をたっぷり味わって、
会場と世界中、全ての観客が感情移入しまくりだった。
誰か一人に絞るなんて、とんでもない。
審査員が、いかにその道の権威だとしても、
自分の投票した娘以外に決まれば、
誰も納得しないだろう。
だから得票順以外にないと思うけど、
ホントどうなるの? コレ。
たぶん会場の誰もが、そう思っていたが、
投票以外にできることはない。
観客も、視聴者も、
ただ、手をこまねいたまま、
なりゆきを見守るしかなかった。




