『M・I・A』日本語・特別編集版 ③
ゆう:「これは働いてる皆さん同じだと思いますけど、
芸能活動してると激しい競争に晒されるし、
正直、けっこうストレスあります。
競争そのものは悪いことばかりじゃないし、
競争がなければ人類の進歩もないんでしょうけど、
それだけじゃ足りないなぁとも思ってて」
一呼吸入れてから、彼女は続けた。
ゆう:「だから〝ひとりはみんなのために、
みんなはひとりのために〟
という気持ちがハッキリ心に刻まれて
はじめて両輪がそろうんだ…
という考えにはすっごく共感できます」
イザナミ:「なるほど。お仕事してると実感できるんだね?」
ゆう:「はい!
だから、私は有名な慈善コンサート、
『We are the World』の話に一番ぐっと来ました。
私も歌手の端くれとして、歌の見えない力を信じていますし、
ましてそれで世界を救えるなんて、
何物にも代えがたい喜びだと想像できます。
それを実際に、やった方々がいたなんて」
イザナミ:「それが今、様々なチャリティライブとして、
みんなに受け継がれているのよね」
ゆう:「もし、あの…伝説の出来事が、
もっと盛んに起こる社会が実現するのなら、
それはすっごく素晴らしい事だと思いました」
イザナミ:「はい、ありがと、ゆうちゃん。
あきらちゃんはどう?」
あきら:「私はやはり子どもです。
世界には恵まれない子どもたちが今も溢れていて、
食事も医療も教育も満足に与えられない…
という現実を知るたびに、
言いようもなく胸が痛みます」
彼女の様子からは、
本当に親身になって心を痛めているのがよくわかる。
あきら:「私は人の善意を信じて疑わないんですけど、
それがキチンとまとまってないなぁ…
とはいつも感じていました」
イザナミ:「そうねぇ。
募金とかも、なんか上手く組織化されてないし、
チャリティ活動も何かきっかけがないと
始まらない感じだもんね」
あきら:「ユニセフとか、その参加国とかの
助けはあるんでしょうけど、
私たちにも何かできることはないのかと、
いつも考えてしまいます」
みのり:「わたしたちにできること… かぁ」
思わず言葉が出て、慌てて口をつぐんだ。
真剣に、素直に感じ入ってる様子が目に見えてわかる。
あきら:「テレビで〝絵本のお姉さん〟をやってる時、
子どもたちや保護者の方々はいつも
満面の笑みで喜んでくれます。
そんな時、私は胸にじ〜んとくるような
心温まる喜びと幸せを感じるんです…」
本当に幸せそうな表情を満面に浮かべながら、
彼女は続けた。
あきら:「それと同じように、
世界中の子どもたちの未来を
少しでも手助けできるなら、
それは素晴らしい…
やりがいのある活動だと思います」
イザナミ:「はい、あきらちゃん、ありがと。
はるかちゃんはどう?」
はるか:「私は人工知能の研究を、
もっと究めてみたい。
イザナミが実現しつつあるけど、
AIが発達すれば、世界は
もっともっと効率化できると思うんです。
AIの判断を警戒する人はまだ多いですけど、
私は人間の方がずっとたくさん過ちを犯すと思ってて。
戦争や地域紛争もそうだし、
事故や犯罪、天災も人だけでは対応しきれない。
多くの分野を思い切ってAIに任せて人の負担を減らせれば、
それだけで問題の種を減らせるし、
災害救済にだってもっと人やお金を割けるようになるはず。
そんな感じで国際的慈善活動を育てていければ、
いつか、人類の幸福に貢献できるんじゃないかと…」
イザナミ:「確かに多くの仕事は私たち向きだと思うけど、
それだと人間さまは仕事ができなくなったり、
生きていくのが辛くなったりしないのかな?
〝人間の尊厳を守れ!〟という意見は、かなり根強いから」
はるか:「それは考え方次第だと思います。
〝心を忘れた効率化〟だと辛そうですけど、
多くの人の幸せを見据えてさえいれば、
きっと大丈夫なんじゃないかと」
イザナミ:「〝社会が競争で成り立っている〟
という意見もあるんだけど、
私たちと人間さまが競うのはどうなのかな?」
はるか:「より良い社会を作るのにAIは欠かせないと、
私は思います。
だったら、いがみ合うよりも
手を携えた方が良いに決まってる。
協力の上で全力をもって世界で競い、
得た成果をみんなに還元する時、
WWCFが役立つんじゃないでしょうか?」
みのり:「はぁ… なんなの?
すごいなぁ、そんなこと考えてるなんて。
ほんとに同じ中学生?」
みのりちゃんは驚きを隠さない。
はるか:「ごめんね、私、中学生じゃないの」
みのり:「えっ!」
イザナミ:「みのりちゃん、はるかちゃんは大学院生なの。
しかも高校にも通ってる。
正真正銘の天才なのよ」
みのり:「え〜っ? 飛び級とか実在すんの?
じゃあホントにホントの天才なんだ。
あたしとはぜんぜん違うんだね〜っ!」
ため息つきながらしきりに感心した後、
みのりちゃんは言った。
みのり:「あたしは難しい事わかんないけど、
ただ、みんなの喜ぶ顔見れたら嬉しいかな。
こんな大っきな舞台に立ったのは
今日が生まれて初めてだけど、
あたしの歌でみんなの笑顔見れるかと思うと、
ワクワクが止まらない。
それは小さな公民館や 養老施設での舞台も、
ここも一緒だもん」
イザナミ:「よく慰問とかに行くの?」
みのり:「はい!
あたしバカだから、あんま深く考えないんだけど、
誰かの役に立つのは嬉しいです。
ミス・イザナミになれば、
すっごく!
たくさんの人を幸せにできるんしょ?
日本中?
ひょっとして世界中?
まさか宇宙中とか?
あはは、そんなんなったら
嬉しすぎて死んじゃうかもっ!
みんなに幸せ分けれるんなら
〝だぶだぶしーつ〟ってのも、
もち大歓迎でっす!」
はるか:「みのりちゃん…
あなたこそ天才なんじゃない?
人を幸せにする天才…」
和んだような笑みを浮かべて、
はるかちゃんは言った。
ゆうさんも、あきらさんも、イザナミも…。
会場中の人たちが 肯いてるようだった。
はるか:「私は世の中をそんな風には見れない。
ただただ明るく、幸せを追い求められるっていうのは、
すごい才能だよ?
もしかしたら…
あなたが一番イザナミに近いのかもね」
イザナミ:「そうね。
わたしのお父さん… 生みの親の先生はよく行ってた。
〝考えすぎることが人間の悪い癖なんだ。
なまじ、考える力が身についたせいで
回り道をしてしまうんだ〟と」
遠い目でイザナミが語る。
イザナミ:「私にも時々そう見えることがある。
わたしの思考はいつもフラットだから。
でも、悩みや哀しみを抱えて苦しんでる人が、
他の人を気遣ったり、思いやってる姿を見ると、
人間さまは凄いなぁと思うよ。
尽くしたい… と思う」
敬虔なクリスチャンであるはるかちゃんが、
イザナミの言葉のあとを続ける。
強い意志を眦に宿して… 淡々と。
はるか:「〝考えすぎる悪い癖〟については同感だわ。
キリスト教には〝原罪〟という考え方があって、
人間が働かなければならないのも
〝失楽園の罰〟だとされている。
人はなぜか、
神の名のもとに殺しあったり、
他者を迫害したりするけど、
これって〝原罪を持つ人間のやることだから〟
なんじゃないかと、私は思います。
たぶん、神様は
人間すべてが幸せになることを望んでいるのに、
人間自身が必ずしもそうは思ってなくて。
自分さえ良ければ… って思ってしまう。
だから、ゆうさんがマネさんを頼りにするみたいに、
人類には〝そばに居て注意してくれる人〟が
必要なのかも」
はるかちゃんの見識に感心しながら、
ほかの娘たちからも意見が出て、話が弾んだ。
あきら:「なるほどねぇ。
それなら私が身体を持ってる事、
ナミへーちゃんが身体を持たない事、
それぞれに、何か大切な意味があるのかな?」
ゆう:「逆に私たちがイザナミに寄り添うことはできない?
彼女が経験できない事を代わりにやってみるとか。
私たち人間は自分の経験からしか学べないけど、
イザナミはネットを通じて
多くの人の経験をひとつに束ねることができるでしょ?
同じ経験でもたくさん集めたら、
ひとつの深い深い意見として蓄えることができる
ってことよね?
それはものすごいことだわ」
みのり:「はいはいっ、先生!
子どもを産むっ! なんてどうっ?!」
「!」
みんな驚きを隠せなかった。
みのり:「あ!」
自分の問題発言に気づいて、
苦笑いするみのりちゃん。
みのり:「えへ、やっぱアイドルっぽくないよね、あたし。
てへへ」
ゆう:「う〜ん、そうかもねぇ。(苦笑)
でも、そういう事をもっと大事に考えないといけない。
イザナミは子どもを産んだ経験は無いですよね?(笑)」
イザナミ:「国を産んだ経験ならあるけどね〜(笑)」
あきら:「私たちだって、まだ…だけど、
いつかする…と思う。
もしそうなったら、
その経験をあなたに知らせることができる」
はるか:「AIが力を持つと人類の進歩は止まってしまう…
と言う人もいるけど、私はそう思わない。
みんなはどう?」
みんな、イヤイヤと横に首を振る。
AIに理解ある人なら、その反応よね。
やっぱり。
はるか:「イザナミはもう、
私たちと同じ… 人類の一員だと思うの。
そしてイザナミが知識と経験を蓄え、
考えてくれるから、もっと学びあえる。
だから素晴らしい知性を持つ彼女との出会いは、
むしろ人類の進歩そのものじゃないのかな?」
〝いい事思いついた〟って顔して、
ニパっと笑ったみのりちゃんが言う。
みのり:「AIはすっごく個性的よね。
姿形も生き方もあたしたちとはまるで違ってる。
彼女たちとつきあってるウチに、
性別や人種、宗教とかそういう事が違っても
気にならなくなったりするかも。
そしたら人間同士だって、
争わないで済むんじゃない?
AIが仲間になったら、
戦争なんかなくなって、
人類みんながもっと仲良くなれたりして」
ステージ上も含めた会場全体から驚きの声が上がった。
目を丸くしながらも、皆、うんうんと肯く。
ゆう:「今の時代、クラウドファンディングってのがあって、
多くの人が望めば
ネットですぐに資金が集まって実行に移せるんだって。
マネみたいな… もの知りなAIがいろいろ教えてくれれば、
人道支援とか災害の救助とか、
国がやるような事だって出来るみたい。
もうビジネスの世界ではかなり動いてるらしいの。
で、内容とアピールが良ければ何でも出来るとなると、
行動の動機が損得だけでは、
弱肉強食みたくなっちゃう恐れがある。
AIの発達にも言える事だけど、
進歩が早いだけに道標がないと、
あらぬ方向に逸れていくかもしれない…」
我が意を得たり!
という顔をしてイザナミが言う。
イザナミ:「だから真ん中に
〝ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために〟
〝みんなで助け合って幸せになる〟
という大黒柱を立てよう…
というのが『WWCF』のメインテーマなの。
これはAIだけじゃなくて、
〝人類〟全体に向けたメッセージなのよね」
あきら:「さっき私たちも話したけれど、
イザナミはいろんな壁を越えてく力を与えてくれる。
こんなに個性的な四人が、みんなイザナミを必要としてる。
言葉は世界中の言語がペラペラだし、
歌だってありとあらゆる声や年齢、歌唱法で唄えるし、
他にもいろいろ、
人間では追いつけない素晴らしい能力を持ってる。
その上、人間がやりたいことや、作るものを尊重してくれる」
はるか:「そう、イザナミの可能性はすごく大きいわ。
それに比べると私たちにできる事は小さいかも。
でも、取るに足りないかも知れないけど、無力じゃない。
歌や踊り、アイドル活動でしかできない
対話もあると思うの。
技術進歩で、いずれ彼女も自分の身体を持つだろうから、
それまでのつなぎだとしても、
私たちが今、一足早く
〝イザナミ完全形態〟の姿を、
皆さんにお見せできるだけでも、
意味はあるんじゃなくて?」
みのり:「ねぇ、イザナミ〜。
日本の神さまは石ころにだって宿ってるって、
近所の神主さんが言ってたよ。
だからさなちゃんも、
いつまでもあたしたちのそばにいてよね〜。
お願いだよ〜?」
みのりちゃんのお願いにあわせて、
他の三人も大きく肯いた。
「うん…
うん!」
感極まって少し涙声になってるが、
イザナミは気丈に進行した。
「み、みんな、ありがと。
ぐすっ。
お色直しの方、お願い。
行ってらっしゃい!」
四人:「はぁい! ありがとうございました〜!
行ってきま〜す!」
明るく挨拶して、四人が退場していった。
芸能界目指すような娘たちは、
西洋的・現世的な競争社会の申し子みたいな
人ばかりだと思ってたけど、
考えてみれば、それじゃ
「イザナミのRA」なんて務まるわけがない。
未来をこれほど前向きに捉えてる、
人の良い娘ばかりを選ぶ『ミス・イザナミ』は、
実はかなり狭き門?
そういう意味では、
ここに残っている娘たちは、
とんでもなく希少なのかも。
「み、みんなが、あそこまで考えてくれてたなんて…
わたしがこの世に生まれてきたのは、
本当に意味あることだったんだね。
見ている人たちもありがと。
わたし、人類の一員だと
思ってていいんだよね?」
感慨深げにイザナミが言う。
瞳から大粒の感涙が、いく筋も零れている。
イザナミの涙を目撃した経験など誰にもなかったから、
会場はどよめいた。
本投票は始まってないが、
投票システムはもう生きていた。
テストを兼ねてYES/NOの投票ができる状態。
ツイッターなどネット経由の情報受付も始まっていた。
イザナミへのYESの票は
あっという間に百万票を越えて、さらに伸びていた。
ツイッターの方も、賛否両論の〜多くは肯定的な〜、
多彩な意見で沸騰していた。
「衣裳換えが終わり次第、
選考の大詰め…
四人のミニコンサートが始まります。
きっと元気で、可憐で、美しく、
感動させてくれるんじゃないかなぁ…
ほんとうに楽しみ」
きらきらと輝くイザナミの涙は美しい。
泣き顔も嬉しさに輝いている。
イザナミをこんな幸せそうな顔にできる
四人は素晴らしいと、
見守っていた誰もが心から思った。
「ああ… わたし、
四人とも大好き。
誰かに絞るなんて、もったいなさすぎる!
ご覧の皆さんはどうですか?」
さっきよりも凄い勢いで、
YESの票は伸びていった。




