『M・I・A』日本語・特別編集版 ②
「な、なんだコレ?
なんも見えねぇ!」
光で幻惑されている間に
濃くなったアイススモークが舞台を覆い、
ホワイトアウトから立ち直った観客の視界を漂白していた。
次の瞬間、
その霧は、どこからともなく吹いてきた風に巻き上げられ、
竜巻のように旋回・上昇しながら晴れていった。
「ええっ!
そ、そんな… ウソぉ!」
晴れる霧の中から現れたのは、
眩しく、健康的な肌と肢体…。
「これより、水着アピールに移りま〜す!」
イザナミの場内アナウンスでようやく我に返った観客は、
四人に大喝采を浴びせた。
たぶん見失ったのは、ほんの数秒だったはずなのに…
こんな鮮やかな衣裳替えにお目にかかった事はない。
まるで変身だ。
隠せない驚きが、興奮に変わり、
さらに熱狂に変わっていく。
静止した立ちポーズを解いた四人は、
モデル歩きで水着姿を惜しみなくアピールしながら、
まずステージを二周。
それから花道を端まで歩き、
会場を見渡すようにゆっくり一回転して、
踵を返して戻っていく。
コードB・由宇さんは、
明るい青のビキニ。
高く張り出した形の良いバストを主張するように、
堂々と胸を張って歩く。
キュッとくびれたウエスト、
美しく張りのある小さく締まったヒップ、
そしてスラッと長く伸びた脚。
完璧としか言いようのないプロポーション。
スーパーモデルのような美しさに、
会場の女性からため息が漏れる。
コードC・あきらさんは、
黄色に近い明るいオレンジのワンピ。
実に一般的でおとなしめのデザインなのに、
この人が着るとまるで別物。
プロポーションは由宇さんに一歩譲るものの、
そのボリュームは圧倒的。
蠱惑的な… 肉感あるバストとヒップに、
男性客の視線は釘付け。
ただ、それがあまり嫌らしくない。
彼女の人柄がにじみ出た
堂々とした態度と朗らかな笑顔が、
男どものスケベ心など吹き飛ばしてしまうかのようだ。
太陽のような大らかさを感じる姿は
〝なぜか癒やされる〟という評判通りだ。
コードA・みのりちゃんは、
赤いビキニのトップスに、ジーンズのショートパンツ。
胸は見事にペタンコだが、
全体にスラッとしたボディは
中性的な魅力に溢れている。
そして、飛び回るように歩く彼女の
ローライズのショーパンからは、
脚の隙間から赤いビキニのボトムが、
ときどき… ほんの一瞬のぞく。
「おおっ!」
男性客の興奮した鼻息が聞こえる。
天然で、あざとく見せつけるつもりはない…
という性格が、よりソソるのかも。
その中性っぽさは、対の神さまである
ナミ・ナギを両方表せる可能性すら感じさせた。
コードD・はるかちゃんは、
フリルなどの飾りが一切ない、白のワンピ。
実にオーソドックスな出で立ちと未成熟なプロポーションでは、
見応えのないおとなしい印象になる所だが、そこはハーフ。
スラッと伸びた手足の美しさでカバーできている。
「はるかちゃん、まるでヌードモデルみたいね。
妖精みたいに神々しいわ…」
好感を持ってウットリと眺める女性客と、
興奮を隠しきれない男性客との反応は
まさに対照的だった。
白人系で抜けるように白い肌に白のワンピ…
服と肌の区別がつきにくいと、
微妙に膨らんだ胸とか、すっと細い尻とか、
なんか異様にソソられたりするかも…。
アピールウォークで遍く観客に見えるよう、
東西南北すべての花道を順繰りに回った後、
ステージ中央に勢ぞろいした水着美女たちは、
スタッフから丈の短いガウンを着せられて、
席に案内された。
そして、対談インタビューが始まった。
「実は事前に、皆さんにはふたつ、宿題を出してました。
ひとつ目は、
あなたにとって、私『IZANAMI』はどんな存在ですか?
ふたつ目は、
『世界慈善基金』の活動をどう思いますか?
という問いです」
イザナミのRAを決める審査であることを考えると、
かなり核心に迫る質問と言えるだろう。
普通の美少女コンテストとは一線を画している事が窺える。
「皆さんには、お答えをご準備いただいてます。
では、どうぞ〜!」
スクリーンに四人の答えが一斉に表示され、
そのうちの、みのりちゃんの部分がアップになった。
話を聞く人の答えが大きく表示されるのだ。
「それでは、まずひとつ目からお聞きしましょう。
アルファ・みのりさんは
『なんでも相談できるお姉さん』ですね?」
「はい!」
「なんでもというと?」
「そりゃもう、ホントなんでも。
晩ご飯の献立から、宿題の答え合わせから、
恋の相談まで。
…なぁんて、最後のは見栄張っちゃいましたけど。
てへ」
「日常の細々したことも全部?」
「はい!
まさかこんな事知ってるはずないよね〜
と思って聞くんですけど、
ホント答えられなかった試しがなくて。
あたしの質問が浅いだけかも知れないけど。
でも、最初ダメ元と思ってたけど、
今じゃ、もう頼り切っちゃってるというか…
小・中・高みんな、そんな感じなんじゃないかなぁ」
「欠かせない存在って感じ?」
「そうですね〜。
さなちゃんベッタリですよ〜」
「さなちゃん?」
「イザナミの〜、中ふた文字取ってサナ。
安直ですかね〜?
もしあたしがイザナミになったら、
そうとう頼りないですよね〜(笑)」
「ブラボー・由宇さんは
『頼れるマネージャー』ですか?」
「はい。
ひとりでアイドル活動してると、とにかく忙しいんで、
マネやってくれて、ホント助かってます。
支えてもらってる感じがします」
「ひとりで何かをやるって、
想像以上に大変ですもんね」
「はい。
学校とレッスン、動画投稿、そして週一くらいで出演。
ひとりじゃ身動き取れなくなります。
マネは、ロケーションや移動時間まで考えてくれるし、
移動手段や経路に至っては、
私の思いつかない事まで教えてくれますから」
「やっぱ、側から必要に応じて声をかけてくれる方がいいと?」
「はい。やはり全然違いますね。
他の事を考えないで済むと活動に集中できるので、
結果が出る感じです。
だから、ここに居られるのも
マネのおかげだと思います」
「普段から〝マネ〟とお呼びに?」
「はい。
敬意を込めて。
ご機嫌取る時はマネちゃん… とか、マネさま?(笑)」
「チャーリー・あきらさんは
『無敵の練習相手』?(笑)」
「ええ。
勉強や技能の練習に必要な事を、
どっかから揃えてきてくれます。
痒いところに手が届くので、
もう、なんていうかホント無敵なんです。(笑)
例えば、楽譜を用意する時とか、
曲名がわからなくても、
私のハミングを頼りに見つけてくれたり。
初見でわかりにくいところは、
人や楽器の音で歌って聞かせてくれたり。
男声でも女声でも、ピアノでもギターでも
〝歌える〟のには、最初びっくりしました!」
「なるほど、なるほど」
「歌を練習する時なんかはコーラスパートまで
全部教えてくれます。
大編成でもイケるので、
合唱団とか聖歌隊の練習だって出来ますよ」
「ふむふむ」
「あと、園児役もできますから、
読み聞かせの練習とかにもつきあってもらいます」
「ええっ!」
「けっこう可愛いんですよ?
園児役はなんというか、もう真に迫ってて。
うちのナミヘーちゃんにはお世話なりっぱなし(笑)」
「デルタ・はるかさんは…
ええっ!
『恩師に抱かれて夢見心地を味わえる至福の機会』?(驚)」
「え? おかしいですか?」
「だ、だかれて… とか、かなり刺激強いかな〜と」
「あ!」
はるかちゃんが、
イザナミの言わんとする所に気づいて、
耳まで真っ赤になった。
「まさか…
そちらの意味は考えもしなかった… とか?」
コクコク!
必死で肯くはるかちゃん。
「なぁ〜んだ。
お姉さん焦って損しちゃったよ〜」
「〝いだかれて〟って読んでくださいよ〜。
優しくハグされるというか、
お父さんに抱擁されるような心地というか。
もっ、もう、やだぁ!」
赤面しながら慌ててるせいで、
もう半ベソになってしまった。
「ああ、もう!
しっかりしなさいハル!」
俯いて小声で呟きながら
自分の頬を叩き、気合いを入れ直して彼女は続けた。
「さ、最初にも言いましたけど、
『IZANAMI』は
恩師の最高傑作かつ、私の目標なんです。
しかも、未完ですから、
その完成に少しでも関わりたい。
そう思って、いま色んな事を勉強してる最中ですけど…」
「そういう意味でも〝いだかれてる〟ワケね?
にしし!」
「んもう! いじわるっ!(赤面)
そ、そこに、この話があったので。
世界最高級AIのRAになれる機会なんて、
今を逃したら一生ないと思うから…
ぜったい後悔したくなかったんです」
「ホント、みんなに愛されてるってのを、
ひしひしと感じられて嬉しいわ。
さて、もうひとつの質問に移りましょうか」
もうひとつ…
『世界慈善基金』の活動についてだ。
隠してないにも関わらず、案外知られていないのだが、
VGは公営ではなく、一般企業が運営している。
本来、営利団体であるはずの私企業が
「世界中の慈善活動を経済的に支援する」
という理念を持つのは大それた夢と言っていいし、
活動内容を疑問視する向きもある。
けれど、VGはいつも公言しているから、
この質問は誰もが予想できたはず。
最終選考候補者ともなれば、
普段からイザナミと深く話し込んでいるだろうし、
なにか考えがまとまってそうだ。
難しい理屈を並べられると右から左…でも、
可愛い女の子たちの言葉なら聞こうか…
となるのが人情である。
そうした効果こそがキャンギャルの威力なのだから、
彼女たち自身が何を考えているのかは何より大切だろう。
ガウンから健康的な太ももをのぞかせた美少女たちは、
どんな意見を披露してくれるのだろう。
会場一杯の観客はみな、
のめり込むようにトークに聞き入った。




