俊さまの女難 ④ 〜酒池肉林?四面楚歌?〜
昼間から酒入るとタチ悪いわねっ、
人間って。
吹っ切れた3人も乾杯に加わって、
高機動軽装甲車は移動宴会場と化した。
家から持ってきた日本酒「高砂」は、
あっと言う間に完売。
酒屋に寄って買い増すこと、数回。
道の駅で地場の名産品調達して、
山海の珍味をつまみにさらに呑む。
昼食は呼子近くの鎮西町で
「イカの活き造り&ゲソ天定食 伊勢エビ味噌汁つき」
その後、波戸岬の屋台で、
「さざえのつぼ焼き&イカの一夜干し」
食い倒れながら、
も〜お酒、進む進む。
さんざん飲み食いし倒して、
これで色にまで溺れてたら、
まさに「酒池肉林」って感じよねぇ。
これだけ美女を侍らせてんだから、
何の不足もないのに、そっちの方はサッパリ…
やっぱナギりん、詰め甘い。甘すぎ。
わたしは常に素面なんで
運転手として何の不都合もないし、
ある意味、自動運転の正しい利用法なんだけどさ。
「食後、風に当たりたい」ってリクエストを受けて、
海と島との素晴らしい景色を見晴らせる、
「風の見える丘公園」で休憩。
「あぁ、
喰った喰った〜!」
「呑んだ呑んだ〜!
風が気持ちいい〜♪」
ナギりんも隊長もへべれけ〜。
でも、楽しそ〜。
「ああっ!こんなの初めて!
こんな贅沢、許されていいのかしら?」
「さすがに強いですわね〜!
ウォッカの国の娘は」
客人も副長もご満悦だ。
「今日は、通り雨の後の好天だから、
対馬見えるね」
「それどころか韓国も見えますよ。
うっすらと…」
流れのついでみたく、
軽い口調でリリューシャが言った。
「…で、いつなんです?」
「何が?」
「“北”ってか、朝鮮半島行きっすよ。
別に秘密でもないっしょ?
時間の問題なんだから」
「VGの事だから、
なるたけ早くって腹づもりだろうけど…」
「根回しや仕込みも少しは…
要るだろうからねぇ」
「佐賀空港からなら、
オスプレイであっちゅう間でしょ? 」
「まぁね。
佐賀と福岡に、臨時編成の輸送・施設部隊の
資機材が集結してるらしい…
というトコまでは聞いてますわ…」
「毎度言うけど、どっから仕入れんの?
そんな情報」とナミ。
女性3人の会話を端然として聞いてたナギりんは、
風をはらんだシャツの裾をなびかせながら言った。
「まぁ、
いつでも動けるつもりではいるけどね」
「まさか、俊さま
また直に乗り込む気ですか?」
「無茶ですわねぇ」と副長。
「無茶かな?」とナギりん。
「無茶ですよっ!」とリリューシャ。
「私は無茶しないで…と言いましたよ?
俊さま、それでも行くと?」
隊長に一瞥くれて、
不安げな表情から目を逸らしながら言った。
「うん。
たぶんココが正念場だよね。
それに、そんなに心配ないかなぁ…とか思う。
根拠ないけど、てへ!」
「てへ!じゃありません!
俊さま死んじゃったら、
私だって生きてられないんだからぁ〜」
「ホントよっ!
日は浅いけど、私だって本気なのよっ!
自分をもっと大事にしてっ!」
「あんま無茶して私ら泣かすってんなら、
私が殺して差し上げますわっ!」
もう、わぁわぁ泣いたり騒いだり脅したり、
みんな子どもみたい。
「ああ…怖い怖い、
敵に回したら怖いなぁ。
さぁ、土産に甘夏ジュレー買ったら、
史跡見物して、夜は“焼鳥一番”だよっ!」
「まだ、呑み食いする気
なんですのね?」
「まさか、噂の“ドライブイン鳥”?
アニメで観ました〜。
一度、行ってみたかったんですぅ〜」
「食べ物で誤魔化されないんだから。
俊さまぁ〜っ!」
泣きじゃくる隊長に近づき、
髪を撫でながら優しく抱き寄せる。
愛おしげな声でナギりんは言った。
「約束するよ。
大丈夫、無茶はしない。
貴女たちを悲しませたりもしない。
だから、笑ってて?」
明るい未来を信じて疑わない微笑み。
眼鏡の向こうに覗かせる少年のような表情に、
吸い込まれそうになる。
心奪われる。
高鳴る胸の鼓動は美酒のせいだけじゃない。
「俊さま、ずるい…
そんな風に言われたら…
逆らえるわけ… ない…」
ナギりんの胸の中で隊長が言った。
副長も、リリューシャも、
蕩けるような… うっとりした表情で、彼を見ていた。
きっと、同じ心持ちだったに違いない。
「隊長、覚悟決めてお供しますか。
天国だろうと地獄だろうと」
「なぎさま、私もお忘れなきよう。
ロシア軍派遣武官としてお供するよう、
大統領から仰せつかってます。
いくらかは抑止力になれるはず…」
「特命、帯びてましたか。
薄々感じてましたけどね」
「うん、よろしく、武官どの。
また、お世話になるよ。
でも、佐賀にいる間はウチのお客さま兼
ぼくの友人だよね?リリューシャ」
悪戯っぽいウインクをナギりんに投げて、
リリューシャはとんでもないセリフを口走った。
「愛人でも構いませんけど?」
「あ、なんかめまいが。
飲みすぎたかなァ…」
「なぎさまっ!
愛してる〜っ!」
「ロシア語わかんな〜い、なに言ってんの〜?」
笑いながらはぐらかすナギりん、
いつもの純情っぷりが嘘みたい。
あしらい上手ってか…「ジゴロ上戸」?
けっこうタチ悪りぃ〜。
まぁ、聞き入れちゃったら他の女性たち、
敵に回しちゃうからねぇ。
ホントの四面楚歌んなっちゃう。
しかも、なんだかみんな嬉しそう…
いつもより構ってもらえてるから?
「仕方ない、治療のため迎え酒すっかなァ。
飲み直そっか?」
「は〜いっ!」
***
無礼講な夕食の宴が終わり、
帰路は、座席をぜんぶ倒して雑魚寝状態に。
いい気分で酔い潰れた女豹三人に膝枕しながら、
ナギりん、ひとり盃を傾けてた。
「昼間寝たから、目ェ冴えちゃって…」
実は一番のウワバミなのね〜、ナギりん。
意外〜。
そこへ携帯が鳴った。
「はい、凪です。
おや、珍しいですね、貴一っさん。
ええ、もうじき帰宅しますけど…。
ええ、構いませんよ。
わかりました、では後で」




