俊さまの女難 ③ 〜酒池肉林?四面楚歌?〜
「あんな迫り方したなんて、
遊梨子が知ったら激怒するぞ」
「そうでしょうね。
同行できないってだけで、
あんなに悔しがるんですもの」
「ふふっ!
あははっ!」
ゆったりと大きい浴槽の縁に腰掛け、
火照ったカラダを冷ましながら
リリューシャが楽しげに笑う。
「可愛い〜♪
うらましいなぁ、遊梨子。
俊さまに容赦ないテレ隠しもねっ…」
「打撃系スキンシップでしょ?
ですよね〜
私たちがやったらシャレになりませんもの」
マジ、殺しちゃうからねぇ。
それにしても、
力ずくなら俊さま組み伏せるなんて楽勝な3人が、
まるで乙女のように指をくわえて、
ただ選ばれるのを待ってるだけだなんて。
「やっぱ、普通の女の子は強い…よなぁ。
さすが一号。
私、ロシアで仕事あるし、日本の常識ないし」
「私も…
妻…となると、難あるかなァ?」
「隊長、戦闘力は超人的だけど、
色事とか家事とか、からきしですもんね〜。
しかも恋愛となると、奥手ってか…乙女だから」
「悪かったなっ!
ど、どうせ、トウの立った乙女だよっ!
だから、い、色仕掛けとか?
リリューシャのようには出来ないよ、私はっ!」
「私だって…
ただキモチ良くするだけならいいけど、
どうやって心を掴むか…とかは、
その…、さっぱり…ですよ?」
「?!」
リリューシャも、性に開放的なだけで、
いざ好きな人と…となると経験も免疫もない…
純粋培養…ってコト?
「じゃあ、二人とも、
正妻の座は…難しいですわねぇ」
「で、でも、
私は諦めたくないぞ!」
「ですよねぇ〜」
その生暖かい目はやめろ、副長。
それにひきかえリリューシャは
実に優しげな表情で見てた。
それだけにセリフの落差がスゴかった。
「私は…
四号さんでもイイかなァ」
「いいの?」
「憧れの方との夜伽とか、
それだけで幸せ過ぎますよ〜
独り占めなんて、とても…畏れ多いし。
もし、未来の奥さまが黙認してくれれば、
それでもイイかな…ふふっ」
ん?
リリューシャは何か目配せしてるようだった。
さっきからおかしな素ぶりだと思ってたが。
うっとりした表情のまま、彼女は呟いた。
「ところで、ココ…
何もないです…よね?」
「ん?」
「そうですわね。
完全に… オフレコ…
両陣営ともに…
もちろんナミにもね」
副長の眼にも怜悧な光が宿っていた。
「そうか!
それであの脱衣?」
私は軽い驚きと共に、声のトーンを落とした。
味方から…されるかも知れない盗聴を警戒して?
「なぎさまのお背中流したかったのはホントですよ?
ついでに、ちょっとだけ…ね。
だから、これは独り言…」
悪戯な眼差しに似つかわしい、
意地悪そうな口調でリリューシャは言った。
「なぎさま周辺の、得体が知れぬ謎…
探ってみろとは言われました。
長期休暇の代償にね…」
やっぱ油断ならない。
あの市長か!
「それで?」
「何か知り得たら…報告せざるを得ません。
だから…知らずにいたい。
本音です…よ?…お姉さま」
微動だにせず、眼だけで見つめて来た。
打って変わった真剣な眼差し…
さっきまでとは、まるで別人だ。
どちらの味方か判断しかねるが、
こんな時…俊さまなら信じるだろう。
そう思った。
甘いと言われても甘受しよう。
「わかった、信じるよ四号。
善処する」
「約束ですよ?
副長さんも」
「知っててトボけるのは、
隊長より得意です」
副長の… 人の悪そうな笑みを見て、
リリューシャはニ〜ッと笑った。
屈託のない笑み。
これは国家の枷から放たれた
信頼の証だと信じたい。
「さ〜て、なぎさま、
どうしてるかな〜」
ザパっと湯から上がったリリューシャの後ろ姿は、
神々しいほど美しく、潔かった。
これに色気が伴ったら敵わないな…と思った。
素直に。
休憩室に戻ると俊さまが…
酔い崩れて寝ていた。
「な、なぎさま…」
「あ〜あ、お銚子こんなに」
「ナミ、どうしたんだ?
俊さま?」
「それはコッチのセリフ!
あなたたちナギりんにナニしたの?
ハダカで部屋に戻るなりお酒注文して、
来るまでに衣服を整えたかと思うと、
来たお酒をただただ呷ってたわよ?」
ただひとりの目撃者であるナミが教えてくれた。
そんな事とはつゆ知らず、
長々とガールズトークに興じてたとは。
「わ、私のせい?
そ、そんなに刺激強かった…ですかね?」
「そう…みたいだな」
リリューシャ、涙目になってる。
ご愁傷さま。
良かれと思ってやった色仕掛けが裏目ったな。
そんなに心配なら、次からは気をつけなよ?
「あれ?
でも、うなされて…ってか、
寝言で口走ってたのは、七・三で隊長だったけど?」
「え?
わ、私?」
「え?
私のせいじゃない?
さすが、お姉さま」
「まぁ、負けた…みたいですから、
悔しがるトコじゃないですか?
リリューシャ」
「あ、そうか。
で、どうするんです?お姉さま?
責任取ってよっ♡」
「……か、
河岸を変えるか」
移動時間もある事だし、
予定繰り上げて、少し早めに次行く事に。
俊さまを三人で高機動軽装甲車に担ぎ込むと、
私たちはそそくさと出発した。




