鹿野屋家の受難 ③
急に家を飛び出し、
駆け出したトッシュを、あたしたちは追った。
ひかりんと一緒に。
着いた先は鹿野屋さん家?
なんで?
「私が頼んだのよ。
鹿野屋さん家で行き場に困ってる人が
いるから泊めてあげてって」
ひかりんのお願いかぁ〜。
ウチらでも断れないから、
ヘタレのトッシュが断れるワケないか。
それにしても熱心過ぎじゃね?
ピポ!ピポ!ピポーン!
息急き切って呼び鈴鳴らすトッシュ。
ちょ、ちょっとっ!おかし過ぎっ?!
心配した隊長が、見かねて尋ねた。
「俊さま、どうしたんです?
そんなに慌てて…」
「きらさん、機密の事は?
隊長には?」
「まぁ、うっすらとは」
「そか。
あのねっ、隊長…」
トッシュがイキナリ隊長に抱きつき、
頬にキスしようとした。
ヒール高めのニーハイブーツ履いてる隊長は背高いから、
トッシュのが爪先立ちみたくなった。
「とっ、俊さま?
な、なにを…♡」
隊長、あからさま過ぎ!
何よ!
耳まで真っ赤にして喜んじゃってっ!
「えっ!」
喜色満面から一転、
驚きで固まり、サァーっと青ざめた表情に。
血の気が引く現場って、あたし初めて見たよ。
キスじゃなく耳打ちだったみたい。
でも、あたしには教えてくれないんだ。
何よっ!何だってのよっ!
「はぁ〜い。
あら、先生!」
出てきたのは絶世の美女…
…って感じだけど、少し歳が行ってた。
お母さんよね、普通に考えて。
ハルのお母さん、こんな美人なんだぁ。
アレだけ美少女のお母さんなら当然か。
はぁ〜、ため息出るほどキレイだなぁ。
「こんばんは。
従姉妹さんのホームステイ先を
見つけて来ましたんで」
「あらあら〜、
ありがとうございます」
「ナニ? もう話ついたの?
早過ぎない?」
ドアの向こうから、
またも金髪女性がピョコっと顔出した。
この超美人が、台風の目?
「り、リリューシャっ!」
「なぎさまっ!
会いたかった!」
見るなり飛びつくと、
彼女はトッシュをキス責めにした。
「ち、チョットっ!
離れなさいよっ!」
「あなたは?」
「みっ!未来の妻よっ!」
「え? なぎさま?
ロリコン?」
「ちゃうちゃう!勝手に言ってるだけ!
僕からかってんだよ、コイツ」
「ふうん。
未来の妻ってんなら…[ロシア語]」
「う〜!」
「あれ?
なんで訳してくれないの?ナミ」
「聞かない方が幸せよ、たぶん」
あ、静音モードまで!
イキナリ周囲の音消えた!
こうなるとリリ子の声も聞こえない。
あ〜、リリューシャとリリ子、
めっちゃ睨み合って、やり合ってる。
首突っ込むとヤバい状況って事?
聞こえてない事を確かめて、隊長が言った。
「その辺にしときな、リリューシャ。
俊さまが困ってるよ…」
「はぁ〜い」
「なんで、隊長の言う事は聞くのよっ?」
「尊敬してるんだ…初めて会った時から。
呼び名だって“俊さま”とは言えない。
“お姉さま”の前ではね。
あの方と二人きりになれたら別だけど?」
「ナニ言ってんのよっ!」
隊長はニコッと微笑んで、
それ以上諌めなかった。
「え?」
沈着冷静な隊長が、
トッシュの事以外で取り乱してるのを初めて見た。
誰が見ても気づかないだろうけど、
あたしには分かる。
逆にトッシュがらみで、
こんなに平静なのもね。
あたしを庇っての事なのは分かる。
副長も分かってる事みたい。
でもこんな時、
大人でない自分がどうしようもなく歯がゆい。
さっき、隊長になんて言ったの?
トッシュ。
いつか大人になったら教えてね、あたしにも。
あなたの力になりたいから。




