【こらむ】「那由多」と「サーヴァント」
ニューラルネットワークとディープラーニングの発達によって「人脳の再現を目指すAI」の開発が熱を帯びる中、各国の後塵を拝していた日本は、二〇X〇年に「project 那由多」を開始した。
「那由多」は国家事業として期待された超演算機で、完成時の能力目標は二〇〇PFLOPS。旧超演算機「京」の約二〇倍なので、科学の飛躍的進歩への寄与が期待された。
ただ、「那由多」という命名だけは、「大風呂敷に過ぎる」と各界から指摘され、誰もがそう思っていた。
だが、那由多は、処理能力自体よりも、実験的に付与された「自己構築能力」の方が画期的であった。
全自動制御が実現した新工場の敷地に併設されている那由多は、コンピュータ限定とはいえ「自身で設計した物を工作する能力」を与えられていた。この「自分で設計を改良しながら、物理的にシステムを組み上げる」能力によって、当初、建造の合理化、期間の短縮が期待されたのである。
実際、開発は順調に進んで、二〇X三年初頭には那由多建造は三割ほど進行していた。その時点で、β版の|TAKAMAGAHARAが実装され、VGが初期実働態勢に入った。
さて、一方で那由多は、自己構築のテストランの一環としてユニークな製品を開発した。
その第一号がJJK(Japan Joint Kit)である。JJKは能力の小さいPCと各種センサ、通信機能を五ミリ四方のチップに搭載した汎用機器で、IoTのベース機材として使用できる。
若干の設計変更を行って搭載するだけで大抵の家電製品が通信制御できるようになるとあって、世界的ヒットとなり、以降、世界中のあらゆる機器・家電に内蔵されるようになった。
当初、中規模のコンピュータ企業に過ぎなかった「サーヴァント」は、この成功を足がかりに、企業として躍進した。
まず、周辺技術を提供する協力企業を、株式買収によって円満に傘下に収める形で、陣容を充実させていった。
それからはグループの収益を注ぎ込み、多彩な企業を次々と傘下に収めて行ったのだが、特筆すべきは「業績不振の企業を多く取り込んだ事」だった。
後に「IoT元年」と呼ばれる、二〇X四年にはJJKの累計出荷台数は一億枚を超え、国内に溢れるビッグデータの多くが、那由多経由で把握できるまでになっていた。
そこから導き出される「需要予測」と「関連製品の売れ行き」はかなりの確度で連動するようになっていた。これを実用レベルで応用しはじめた那由多は、「眠っている需要と不振企業とのマッチング」を実際に行なったのだ。
株主として介入し、業績が上がればさらに買い増す形で、最終的には経営に直接参画した。
膨大なビッグデータと、それに基づく経営改革を実用レベルで実現した那由多の威力は驚異的だった。
国内・外で様々な規模のビジネスをモノにし、多くの企業を成功に導いた。それはハイコン開発の加速どころか、日本全体の開発・生産力と国際競争力の向上に大きく貢献するほどのものだった。
この過程で那由多は、自らの身を贖った。国とメーカー開発共同体から開発費の十倍に当たる約一兆三千五百億円で買収。
形式上必要な代表者に、生みの親である開発者を据えて、サーヴァントの経営を担う事で、法人格ながら独立した個人の立場を手に入れた。
その上で、さらに国内での影響力を増していった。
その頃、既に「人間がやるよりずっといい」との評価が定着しつつあった、VGの雇用契約を年間一兆円で締結した。
すでに国家的重要案件の八割を立案し、実行面のほとんどを指揮していた事を考えると、国家公務員給与全体の二十五%相当というのは格安な取引と言えた。(その証拠に、同様の雇用契約が地方自治体に普及するのに、さほど時間を要さなかった)
こうして、政府・自治体の下請けと民間企業再編を地力として、今も成長するコングロマリット、SHG(サーヴァント・ホールディングス・グローバル)が成立した。
そして、那由多は、日本の閉塞的状況を打破して、「世界でも稀にみる経済成長の実現」という鮮やかな逆転劇を演出したのだった。
この潮流に注目していた私は、とある党首インタビューで、AI国民主党の主張が「純粋に草の根の声だった」のだと知って驚いた。
那由多が、いわば日本最高の剛腕経営者である事を思えば、VGの独裁はある意味、必然だったからである。
実際、同時選挙でも、多くの企業が協力し、得票の中核をなした。VGの経営手腕を知る者で異を唱える者はほとんどいなかったし、そもそも傘下企業の従業員数だけでも馬鹿にならない数だったのだ。(その家族・縁故関係まで含めると、かなりまとまった票田になる)
決して、浮動票だけで選挙が決したわけではない。(まぐれではないし、その意味で報道各社の驚きぶりは、職業柄だとしてもオーバー過ぎると指摘しておきたい)
「日本の革命」は一里塚であり、試金石なのかも知れない。
明るい未来のためであればいい…と思う。
[K・K著
「第四の波 〜情報・産業融合化社会とは〜」巻頭言]




