рукопожатие 〜握手〜 ⑤
事前に合図を決めていたのだろう。
隣室に控えていた護衛官が入ってきた。
3名の屈強な男たち…
大統領お忍びの護衛となると、
全ロシア精鋭中の精鋭と見ていい。
しかもテーブルを挟んだ向こう側、
大統領の両脇を固めてる二人…市長とリリューシャ。
敵だと思って見ると、ただものではない。
無音の緊急連絡を受けた副長が、
統合センサからの視聴覚情報を元に、
入れ知恵してくれる。
ヘッドホンとサングラスには
驚愕を隠せない小声が聞こえてくる。
「ただの護衛官じゃありませんよ。
みな、軍の特殊部隊所属の熟練兵です。
しかもこの市長…」
ひと呼吸置いて副長が続ける。
「変装してますけど、連邦保安局、軍情報総局を
渡り歩いた猛者…
ドミトリー・ミハエロヴィチ・コロリョフ少佐。
現役で立派に通用する彼が市長って事は、
やはり諜報活動の最前線って事でしょうね、ココ」
それほどの化け物が相手か。
となれば覚悟は決まった。
命に替えても、俊さまだけは護ってみせる!
とは言え、こちらから手出しするわけにはいかない。
ナミと決めておいた合図…
着スマをさする動作をして、
統合センサを迎撃モードにして待機する。
威圧感と殺気に耐えながら。
「あなた方の利に反する事は承知してますよ。
冷戦の終わった今でも緩衝地域は必要…。
それが分かってるから“北”は強気に出れる。
いざとなれば味方してくれるだろうと踏んでいる」
大統領と一诺は沈黙を守っている。
「米国ですら舐められてるのです。
日本は軍事的脅威ではなく、抑止力にはならない。
となれば…」
タッキーが一呼吸おいて、続けた。
「味方の支援が打ち切られる事の方が
怖いのではないでしょうか?」
しばし、沈黙が降りた。
その沈黙を破ったのは大統領だった。
「ある意味、日露も終戦を迎えてはいない。
その機が熟す前に日米安保が成立した。
敵対勢力に与している貴国とは講和できない」
「貴国の立場はわかります。
近年、関係が劇的に改善したとはいえ、
やはり米国の思惑通りにはなれない。
中国も同様ですよね」
これまで重厚な口調で話していたタッキーが、
ことさら軽めの口調で言った。
あえてそうしたのだ。
「では…
“不可侵条約”ならいかがです?」
大統領と一诺は驚きを隠さなかった。
タッキーが続ける。
「過去はどうあれ…
今後、我が国はあなた方とは戦わない。
そして、
“あなた方は我が国の敵を支援しない”
どうです?」
大統領と一诺は沈黙したままだ。
返答に窮しているようにさえ見えた。
緊張はさらに高まった。




