рукопожатие 〜握手〜 ③
市庁舎では待ってましたとばかりに、
市長が出迎えてくれた。
「いやぁ、お待ちしてました。
色々と大変でしたねぇ。
まずは中へどうぞどうぞ」
市庁舎は下調べ通り、
派手さはないが、作りのしっかりした建物だった。
市の規模から考えると大き過ぎる気もするが、
それだけに小部隊の襲撃なら十分耐えられそうだ。
今はそれが有難い。
「初めの計画では、
軍や外交の拠点も兼ねてましたからな。
今となっては大きすぎる嫌いはありますが…」
市長は俊さまにウインクしながら続けた。
「案外、役に立ちます。
特に今回のような場合にはね」
人懐っこくお茶目な感じの男性だ。
俊さまともウマが合うかも知れない。
市長室ではドアの外に2名、
室内に3名の護衛官が詰めていた。
目だたないように武装してるのは私と同じだ。
思ったより物々しい警備だが、
俊さまの訪問を重く見ての対応なのだろう。
…そう思った、最初は。
「どうぞ、こちらへ。
隊長さんとお嬢さんも」
「は、はい!」
「リーリャ、君もな」
「はい…」
市長室には会議室が隣接していた。
外からは入れず窓もない。
秘密会談にはうってつけといった佇まいだ。
「リーリャ?…って?」
俊さまが聞き返す。
「市長は略称で呼ぶようね。
愛称でなく」
とナミ。
心なしか声まで強張ってるようだった。
先ほどまでの打ち解けた笑顔は影を潜め、
背筋が伸びた感じだ。明らかに緊張している。
リリューシャ、どうかしたのか?
「お待ちしていた。
本当に会いたかったよ」
会議室には先客がいた。
とんでもない先客が。
人の良さそうな人物などと思った、
自分の浅はかさを呪った。
この市長、とんでもない狸だ。
この場に不似合いな警備も今なら肯ける。
むしろ軽いくらいだ。
そこに腰掛けて待っていたのは、
アレクセイ・アレクセーエヴィチ・ラスプーチン…
現ロシア大統領だった。
親善訪問の主催者にしては大物過ぎる。
言うまでもなく。
「だ、大統領閣下?
なぜ?」
俊さまの声も裏返っている。
「直接、出迎える…と言ったはずだよ?
首脳会談の雑談で」
「ご冗談だと…ばかり」
「冗談とは心外だね。
まぁ、さすがに公式にとは行かなかったが…」
ふいに大統領の軽口が途切れた。
目線は俊さまに向いていない。誰?
「これは、これは…
お忍びは私だけじゃなかったようだね」
にこやかに応じているようだが、目が笑っていない。
大統領は本気だ。
「よろしく、小诺。
いや、王牌と言うべきかな?」
「ウェンパイ?」
「切り札の事。
今の中国でそこまで言われる人は何人もいない」
とナミ。
「狙撃者は対抗勢力…って事か?
なるほど」
と市長。
「…と、いうことは?」
と俊さま。
「日中露首脳会談の再現…
になりますね。非公式の…」
「た…タッキー?」
会議室のテレビに高天原則人が現れた。
ナミがタッキー呼んだ!
「そうだにゃ」
と一诺。
「いかにも」
と大統領。
「ち、ちょっと待って!」
俊さまがたまらず叫んだ。
「わ、私は、一介の市民ですよ。
ここに居て話聞くのはおかしくないですか?」
一介の市民…というのは無理ありすぎです、
俊さま。
でも、そう考えるのがあなたですよね。
そこにいる面々も、それは承知しているようだった。
失笑が起きてもおかしくなかったが、
皆、微笑を浮かべただけだった。
「そうかにゃ?」
と一诺。
「そうは思わないが?」
と大統領。
「では、まぁ証人って所でどうだね?」
とタッキー。
居心地悪そうな俊さまを見て、一诺が言った。
鋭い頭脳とは裏腹な、舌足らずな口調。
「わたしはトシしゃまにしたがう。
そうきめた。
しんじて? おねがい!」
さすがに俊さま、グゥの音も出ないようだった。
それほど一诺の“おねがい”は強烈だった。
殺人的に可愛かった。
「さぁ、始めますか?」
市長は言い、先日の日中露首脳会談が再開された。
嵌められた感は否めないが、
やむを得ない…か。




