トッシュ、慌てて取って返す③
斜面の木々を縫うようにバック走で突進した高機動軽装甲車は、
道路に出た瞬間、路面摩擦を利用して一瞬で旋回。
今度は前向きの絶叫マシンとなって路外へ躍り出た。
そのまま猛スピードで斜面を駆け下りながら、
前部から突っ込まないよう
後輪駆動と四駆を絶妙に使い分ける
副長のギアワークは神の域だ。
一番下の路面に戻った時、凪家は目と鼻の先だった。
「ふ、ふはっ!
死ぬかと思った!」
「ふわ〜。
もう自宅着いてるよ?」
副長操る高機動軽装甲車は、
避難所から凪家まで15分はかかる所を2分で走破し、
さらに川になりかかってる路上を疾駆した。
「ナミ、まだ見つからん?」
「ダメ。
普通の捜索には引っかかってない」
俊さまの推測を元に、先行してる走査母機も
畑中心に捜索範囲を広げている。
タッキーの早期警戒態勢実現のため、
ここ数年で性能が劇的に上がった空中走査機は、
こんな荒天下でも吹き飛ばされずに任務を果たせる。
「三春ちゃん、
せめて着スマ身につけてたら…」
「嫌いとか苦手とか通り越して、
アレルギーみたいなもんやからなぁ」
二人のボヤきは当然だ。
着スマつけてれば位置は常にわかるから、
こんな時すぐ助けられる。
その証拠に老人会のお仲間は全員確保されていて、
行方不明はお祖母さまだけだった。
「待って?今連絡あって、
避難補助に回ってた職員が人影を見たって!」
「どこ?
ナミ、照合!
しかるのちマップ表示!」
「了解!」
一瞥で位置把握した副長がボヤく。
「近いけど…
水路の向こうか」
佐賀平野には大小無数の水路が走っているが、
氾濫初期の今は道路すら冠水している。
水路も満々と水を湛えて、
今にも溢れそうだった。
「迂回すると遠いな…
隊長!アンカー頼みます!」
「任せろ!」
ウインチ先端のフックは、高機動軽装甲車独自の装備、
圧搾空気で射出する射出鉤になっている。
カメラ連動の照準器で狙い、撃つ!
アンカーは15m程飛んで、
対岸のガードレールに巻きつき、ガッチリ噛み合った。
「さすが!
名射手健在っすね!
ナミ!ドア水密!」
「了解!」
「フッ、悪くない。
次は副長のターンだな」
次の瞬間、ウインチが唸りを上げ、
同時に高機動軽装甲車は水路へと飛んだ。
ギアが水流推進に切り替わる。
巻き上げるワイヤーに引かれながら、
水陸両用の車体は対岸へと泳ぎ渡った。
そして、水面からガードレールへとほぼ垂直に駆け上がり、
路面へ着地、停止した。
まるでネコ科動物のようなしなやかさだ。
車の前、5mにはお祖母さまの姿が。
雨合羽姿で畑の方を向いて立ち尽くしていた。
「ばぁちゃん!」
土砂降りの中、俊さまが外に飛び出した。




