トッシュ、慌てて取って返す①
「総理、そこに居るのか?」
「元総理なら」
「元総理な。
替わってくれ」
色々あってパニクってたナギりん、
ようやく平静取り戻して電話出た。
「ゲホゴホ、
どうしました?三佐」
「台風の進路が逸れたようです」
「どちらに?
え?」
「なんだって?トッシュ?」
「の、NO〜〜〜〜!!!」
佐賀県 小御城市。
城下町で、古くから歴史ある町だけど、
羊羹で有名な以外は
農産県らしい…まったりした田舎町。
地震や台風などの被害はナゼかあまりない。
九州一、てか日本一影が薄いのは、
特色が玄人受けとか渋いとかでなく、
単に事件・災害が少ないから?
そんな事マジで思わせるほど平穏きわまる佐賀の真ん中に、
台風の進路が向いたというのだ。
ちなみにナギりんとリリーの実家はココにある。
もちろん私も台風の進路は把握してたけど、
邪魔しちゃ悪いかと黙ってた。
後でナギりんにマジ怒られた。
凹んだなァ。
「これより我々は出動します。
今ならまだ予防策もあるでしょう」
「頼みますっ、三佐ッ!」
天災は忘れた頃にやって来る。
災害慣れしてない市民にはそれ自体が青天の霹靂、
誰だって右往左往する。
それに、最近やたら重大な被害多い。
被災地で事前の備えが十分だったトコなどない。
逆に言えば、
誰もが体験するまでは何も知らないのと同じなのだ。
ウチらも慌てて取って返した。
見た目はSUVにしか見えない高機動軽装甲車だけど、
さすがに特殊仕様。
見た目よりずっと重いから、多少の風浪ではビクともしない。
でも、一般車はどうかなァ?
「トッシュ!どうしよ!
ウチ大丈夫かな?」
「慌てんなって!
対策は始まってるよな?
な?ナミ」
「もちろん」
とはいえ、手をこまねいてるワケにはいかない。
私たちは何も知らないなりに準備した。
被災地の関係情報〜被災状況、その後の対応、
有識者の意見や被災者の体験談、後日の対策など〜
をわかる限りかき集め、呑み込んで、まとめ、
新規にできる対策とすり合わせた。
「ナミ、私は信じてるぞ。
次も大丈夫だ」
「うん。
ありがと隊長。ガンバる!」
奄美では人損ゼロという成果を挙げた。
今度はどうだろうか?
隊長みたいな軍人さんや体育会系の人達はわかってる。
「過去の成功例が、未来には何の保証にもならない」事を。
それ、わかってて激励してくれる気持ちに応えたい。
わたしにはタッキーを信じて、
フィードバックに専念する事しか出来ないケド。
もちろん災害対策は先手先手が基本。
初動はもう始まってる。
何週も前に発生した台風対策が後手に回るなんてアリエナイ。
「奄美の情報そのままだな」
「うん。手早く進んでるみたい。
あ、ススムくんも乗ってる」
避難所へ近づくにつれ、現場=最前線の様子わかる。
緊急時の相乗りは常識なので、
先に乗ってる住民が手を貸したりして避難はテキパキ進んでる。
「追い抜き車両、近いな」
「ビッタリ60キロから落ちてない上、
計ったように車間10センチ。
ありゃ私でもムリっす」
歩道に寄せた車を抜いてく車の速度落ちないのは、
さすがタッキー。
手動運転なら事故続出、被害拡大間違いナシの運転が
全くのノーミスだ。
「全車両を一括制御してる」からこその離れ業だ。
もちろん渋滞知らずで避難が滞る事もない。
とはいえ、ところどころ川になってる道路の
避難は容易じゃない。
祇園川もついさっき下流で氾濫した。
農産県佐賀は随所に水路が走ってて、
川以外の保水力は他県より優れている。
…いるハズなんだけど、それでも吸収しきれないのだ。
例年の1ヶ月分が1日で降るとかアリエナイ。
最近そんな異常事態が多すぎだ。
「それでも何とか避難できるくらいには
道路が残ってるよ!」
「これがリアルタイムの避難リスト?」
フロントに表示された市内地図に光点が舞う。
水没して通れない箇所は見る間に増えてく。
「赤は要介助者、病人や寝たきりの高齢者とか
自力では逃げれない人。
職員付きの車で手分けして拾ってく」
「この時点で音信不通なら、
人命検索リストに乗るワケね?」
「そう。コッチがリスト」
「どんどん減りますね。
絞り込まれて瞬く間に確認が進んでく」
「同時に確認済リストが増えるか」
「はぐれた家族がいる避難者もホッとするな。
身内が未確認な間は生きた心地がしないから」
密な情報処理の一端を開いて、安否確認するのは
私たちの得意技だ。
案じる家族を少しでも早く安心させたげたい。
「避難所着くよ。
あたしとトッシュの家族もココにいるハズ」
「ああ、早く!」
祈るように手を組むナギりん。
何とかしたげたいし、そのつもりで全力を尽くしてる。
着いた!
すかさず女性が駆け出して来る。
「俊明!」
「母さん!無事か?
父さんは?
美都は?」
「それは大丈夫。だけど…」
「だけど?」
「美春ちゃんが!」
「ばぁちゃんが?」
ナギりんの血の気が引く音が聞こえるようだった。




