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俺は確信へと迫る

 車で揺られること十数分。一件のアパートに辿り着いた。豪華とはいえないが、古くもない。至って平凡な二階建ての造りだった。書かれた紙によれば...二階にある一番右側の部屋が坂巻一家の住んでいる部屋のはずだ。


「...生活感がまるで見えない」


 遠目からでもわかる。あの部屋は全く使われていない。錆びれている。扉の開け閉めだけでも、生活感というのを醸し出すのに...まったく使われていないように見えた。


「大家に確認をとった。間違いなく坂巻一家はあの部屋に住んでる。夫婦と息子である坂巻 総司の三人だ。ちゃんと家賃も払われてる」


「...なんとなく、なんだけどさ」


 いつも、親父は感覚でどうこうとか、予感とか、そういったのを感じることが出来るらしい。天才肌...とはまた違うかもしれないが、ある種の才能なんだろう。隠れた第六感(シックスセンス)、虫の知らせ。何かしらを感じ取る能力。親父の息子だから...というわけではない。しかし、そんな能力を全く持たない俺でさえも、胸騒ぎがしていた。


「...嫌な予感がする」


「奇遇だな。俺もだ」


 親父が感じている、ということは...ほぼ百に近い確率で何かしら嫌なことが起こるだろう。それなりの覚悟は必要なのかもしれない。無意識の内に身体に力が入り、身が強ばった。


「俺が先に行く。何か...といっても昼間だし何もねぇとは思うが、カバーだけしといてくれ」


「何からカバーしろって言うんだ」


 親父はスタスタと歩き出し、階段を上っていく。俺も距離を開けすぎないようにしてついて行き、二階の坂巻一家が借りている部屋の前までやってきた。親父がドアノブをガチャガチャと回したが、開く気配がなかった。


「ノックもなしにガチャガチャするもんじゃないと思うんだが...」


「馬鹿言え。人の気配が全くないのに、ノックする必要なんざねぇよ」


 中を見ずとも、誰もいないことを親父はわかっていた。耳の裏に隠した髪留めを取り出して鍵穴に差し込んでガチャガチャとピッキングを始めた。数分もしないうちに、カチャリと軽い音をたてて扉の解錠に成功した。


「よし。念の為に手袋は着けておけ」


「はいよ」


 ポケットの中に突っ込んだ黒い手袋を取り出して両手につけて、親父の後に続いて部屋の中へと侵入する。


「..........」


 中に入ると親父が部屋の真ん中で目を閉じて立ち尽くしていた。親父を無視して周りを見てみると、綺麗さっぱり何も置かれていなかった。家具は少し置いてあるが、日用品なども何もなく、冷蔵庫を開けてみると、賞味期限が切れて腐ってしまっている食材が沢山出てきた。


「...本当に誰も住んでいなさそうだな」


「...臭いな」


 親父が目を開いて鼻をつまんだ。冷蔵庫を開けたのは不味かったか...周りに酷い匂いが撒き散らされてしまっている。


「いやそりゃ、冷蔵庫の中腐ったもんだらけだし臭いだろうよ」


「そうじゃねぇよ。ちょいと真ん中来て目を閉じて嗅覚だけに集中してみろ」


「なんだ、他に何の匂いが...」


 親父に誘導された場所で立って、目を閉じて息を深く吸った。人は五感で基本的には外部の情報を判断する。人の五感というのは、視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚の五つだ。このうち何かしらが欠けると、他の部位が強調される仕組みになっている。暗闇の中では目は見えないが小さな音でも聞こえるようになったりする、ということだ。今やってるのはそれで、視覚を消すことで嗅覚の感覚を研ぎ澄ましているのだ。


「......?」


 何か変な臭いがした。腐敗臭...ではない。これは...金属? いや、鉄の錆びたような...この臭いは...


「気がついたか?」


「...血の匂いか、これ」


「あぁ。しかし、時間が経ちすぎてるな」


 薄らと、本当に気にならない程度の匂いだった。しかし、鉄の匂いとはいえ、血だと断定するのも早計な気がするが...


「殺った本人は匂いを消すために色々とやったんだろうが...血の匂いはこびりついて消えないものだ。いくら洗っても...(よご)れたものは落ちないよ」


「...つまり、なんだ。まさか坂巻 総司は自分の両親を殺した...とか?」


「きっとな」


 知りたくもなかった話だが、親父が肯定するのなら、それはきっと疑いようのないものだろう。しかしよく気がつけたものだ。こんなの、普通ならわかるはずがない。俺なら素通りするレベルだ。


「想定しろよ、これくらい。相手の拠点で、何があるかわからない。扉を開いたら爆発するかもしれない。音に気をつけ、匂いを感じとる。探偵の基本だ」


「日本の探偵はFBIかなんかか」


「俺の方がアメリカより優秀」


「機器と金の段階で負けだよ。あと人員」


「ほぼ全部じゃねぇか」


 まぁ、肉弾戦なら親父は勝てるんだろうがなぁ...。さて、こんなくっちゃべってないで早いとこ何かしら証拠を掴まなければ...。


「...なぁ、坂巻 総司名義で出されたもので、二人分売られたものないか? 恐らく初めて売ったものか、アイツが売られた付近で売られてると思うんだが...」


「...ちょい待ち」


 車の中でパソコンをいじってデータをわかりやすく纏めた手帳を取り出した。坂巻 総司の売った人を順番に並べたものだ。初めに売ったのは、Lサイズが二人分。坂巻 六華(りっか)と坂巻 尚也(なおや)の二人の名前が書き込まれていた。書いていた時は特に何も思わなかったのだが...今こうして見てみると、同じ苗字で男女が並んでいるのはおかしい。


「...六華と尚也。両方とも坂巻が姓だ」


「...胸糞悪い。その二人は親だ。両親の名前を書く場所に二人の名前が書かれてる」


 親父が手に持っている個人情報が書かれた紙を覗き見ると、確かにこの二人の名前が書き込まれている。


「自分の親を殺すなんて、どうかしてる...」


「今にわかったことじゃない。元々、俺達が追ってるのは狂人だぞ。最早人にあらず、人を殺す鬼だ」


「..........」


 鬼。人ならざるもの。人知を超えた存在で、人の能力を卓越している存在。その間の力の差は歴然であり、埋まることはない。人は鬼には勝てないのだ。


 だが...鬼と鬼ならば、どうだろうか?


「...チッ、ここまで来て手詰まりか。証拠になりそうなものもない。一旦戻るか...」


「..........」


 親父が帰ろうとしている中、少しだけ考えていた。あの男についてだ。昔、記憶の中での坂巻 総司は確かに写真通りの顔だったかもしれない。しかし、お金を稼ぐ手段を得て、金銭に困ることはなくなったはずだ。ならば、整形した可能性が高い。顔は金で変えられる。しかし身分証明は? 身分証明書はそう簡単に変えられるものではない。


「...坂巻......総司...坂巻......」


「あー...俺は先に帰るぞ? 歩いて帰る気か?」


「...ん、あぁ。別に今はそれでいい。ちょっと、何かでかかってて...」


 ブツブツと言っていた俺に親父は呆れながら、部屋の外へと出ていった。どうも気になっていた。坂巻 総司と滝川 総司についてだ。名前が似てる...ってだけなんだが...。明らかに顔は違うが、整形すればどうとでもなる。サラリーマンにしては持っているお金。家をポンッと建てることができるくらいには潤っている。


「...名前、姓が変わるには......」


 ...何を馬鹿なことで時間をくっているのか。証拠がない限りにはどうしようもないんだ。何故仕立て上げようとする。犯人を、予想だけででっちあげるのはダメだ。冤罪は忌避すべきことだ。


「そういえば、大家さんは何か知らないだろうか?」


 まぁ善は急げ。携帯を取り出して、大家さんへと電話をかける。荷物がほとんどない狭いようで広い空間に音が響く。三コールほどで大家さんは電話に出た。お婆さんのような優しげな声が聞こえてくる。


「どうも、先程も連絡いたしました橘花です。お聞きしたいことがあるのですが...」


『えぇ、構いませんよぉ』


「感謝します。それでは...坂巻一家について何か知りませんか?」


『そうだねぇ...』


 ポツポツと話している内容は、特に当たり障りのないものばかり。息子はなかなか頭が良かったとか、夫婦の仲はそこまで良くなかったとか。


『そういえばねぇ...息子が何かやったみたいで、あの夫婦喧嘩したんだわ。そりゃもう酷くて酷くて...苦情が殺到していたなぁ。「アンタなんかが産まれたから」なんて聞こえたみたいだよ?』


「......ありがとうございます。他に何かありませんか?」


『そういえば...住む人数が少なくなったってことで報告にきたってかなぁ。離婚したんじゃなかったかいねぇ』


「...離婚、ですか。ちなみに、旧姓とか知りませんか?」


『...そういえば、名前を変えると言っていたような気がするよぉ。けど、その数日後に息子が坂巻として登録し直しといてくれって伝えに来た気がするんだがねぇ...』


「...して、その戻す前の名前は...?」


『確か......』


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