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深夜テンションの短編集

ミステリー? 深夜の学校

作者: asutarisuku

深夜テンションで書いたものその五です。

勢いだけで書いています。推理物になり切れていない感があります。

 明日はハロウィンだ。いや、正確には今日だろうか。

 時計はとうに十二時を通り過ぎ、こんな時間だというのに、僕は学校の廊下を歩いていた。

 今日は明日から国際交流部でハロウィンパーティーをするからと、高校にあるのはたぶん珍しいであろう工作室でそのための飾りつけを作っていた。

 不覚にも僕はその工作室に忘れ物をしてしまったのだ。別にそれが必要のないものならよかったのだが、それは時間があればやろうとしていた明日までの課題であり、今日に限って僕は遅くに課題をやり始め、そこではじめて忘れたことに気付いた。

 一瞬あきらめようとも思ったが学校は僕の家のすぐ目の前だし、僕は忘れ物の常習犯でもあったりして夜によく忘れ物を取りに行っていたので、警備員の人とも顔見知りだったりする。

 さすがにこんな遅い時間は初めてだったので心配だったのだが、警備員の人はすぐにあらわれて快く僕を学校に入れてくれた。まあ、その表情は苦笑いだったのだが。

 しかもこの頃この学校ではものが盗まれるということが多発していたはずなのだが、本当にこの学校のセキュリティは大丈夫なのだろうか。

 リノリウムの床を踏み鳴らし、懐中電灯片手に廊下を進み、僕はようやく目的の工作室の前にたどり着いた。工作室があるのは部室や自分の教室のある側とは反対側の校舎であり、滅多にここら辺に来ることはない。なので一応教室の扉の上に必ずついている看板を懐中電灯で照らした。


「……あれ、まちがえた」


 そこには科学室と書いてあった。

 もう少し先だったろうかと次の教室の看板を照らすとそこには工作室と書かれている。ここら辺の特別教室はどれも同じ構造をしているからわかりにくいのだ。それに授業で使うようなものもすべて教室の後ろの棚にしまわれているために中を見てもすぐに判断することはできない。昔はこの教室を何に使うか決めてなかったからこうなっているらしいがいくらなんでもややこしすぎるだろう。

 まあそんなことは置いておいて僕は工作室の前の扉に立つ。

 警備員の人に貸してもらった鍵を使い、ガチャリと鍵を開けた。ガラガラと扉を横に開き、僕は工作室の中に足を踏み入れた。


「課題、課題っと」


 そうして、懐中電灯を部屋の中に向けたとき、それは視界に飛び込んできた。

 ……物理的に。


「ぐえ……」


 いきなりおなかのあたりに飛びつかれ、変な声が出る。当然僕は後ろに倒れこみ、おしりを床に強く打ち付ける。


「はあ~、よかった。よかったです。神に祈りを捧げたかいがありました~」


 顔のしたあたりからそんな声が聞こえる。

 見ると黒髪ショートボブの美少女。ここ工作室でなぜかいつも見かける学校で有名な変人、九条カオルの姿があった。


「えっと、九条さん? とりあえずどいてほしいんだけど。ていうかなんでここにいるの?」

「あとと、ごめんなさい」


 そういうと、九条さんは離れる。


「えっと、少し棚の中で寝ようとしたら、寝過ごしてしまってですね。気づいたら閉じ込められてしまっていたのです! はい!」

「いや、そんな自信満々に言われても」

 ……というより、なんで棚の中で寝ようとしたんだよ、とは言わない。そんなの学校内で有名な変人である九条さんには日常茶飯事のことだからだ。これで絵の才能はあっていろんな賞を取っていたりするから本当に天才って変人でもあるんだなあとか思ってしまう。

「それで、ユーはどうしてこんな時間にこんなところに来たのです? まあそのおかげでミーは助かったわけなのですがね。やっぱりカオルは気になったりするのでーす」


 一人称がめちゃくちゃだ。しかもやけにテンションが高い。でもまあ、問われたからには答えることにする。


「僕は忘れ物を取りに来たんだよ。ちょっと課題を忘れちゃってね」


 懐中電灯の明かりしかなかったが、それでも九条さんがオーバーリアクションを取っているのはわかった。


「おうふ、そうでありましたですか。でも、私は昼間からいるのですがそんなものみてないですけどねえ。それ、今日忘れたんです?」


 九条さんはそういうが、そんなはずはない。心当たりはもうここしかないのだ。けど、そういえば今日僕は九条さんを見ていない。絶対に工作室での作業中に室内に九条さんはいなかった。


「うん、今日忘れたんだ。おかしいなあ、確かにここに忘れたと思ったんだけど。九条さんは昼からいるって言ってたけど正確にどれくらいの時間からここにいたの?」

「えとと、授業終わってすぐですよ? でも、なんでそんなこと聞くですか?」


 おかしそうに首をかしげる九条さん。容姿が整っているがゆえに、その仕草はかわいらしかった。


「いや、僕はハロウィンパーティーの飾りつけづくりにここを利用させてもらってたんだけどさ、九条さんみてないなーって。僕は四時頃から使わしてもらってたんだけど、もしかしてその時間はもう寝てた?」

「うーん。アカネが寝始めたのは五時ごろだったと記憶してますけど、おかしいですねえ。……っは! もしやその瞬間だけ私たちは互いに違う世界線にいたとか? キャハーそうなら私、ずいぶんと不思議な体験をしちゃったみたいですね!」


 そう言ってはしゃぐ九条さん。

 ……少し、うざいかもしれない。

 いやまあ、そんな感情は強引に抑え込み、とにかく会話を続ける。


「あー、まあとにかく、僕は忘れ物探してみるよ」

「そうですかそうですか。なら手伝いますよ? 助けてもらった恩返しということで、ことで」

「あ、ありがとう」


 助けたっていうよりほとんど偶然だったと思うが断る理由もない。おとなしくその提案を受け入れる。

 そして、僕たちは探し始めたのだけど、それは探すまでもなく見つかった。


「あ、あるじゃん」


 一番扉側に近い机の上に当然のようにおいてあった。


「あれれ、そんなもの寝る前にはなかったんですけどねえ。うーんおかしいなあ。本当に世界線が違ったのかなあ」


 首を思いっきりひねり、考え込む九条さん。

 見つかったことは素直にうれしいのだけど、僕も少し疑問があった。だから、なんとなくその疑問をつぶやく。


「まあ、確かにおかしいんだよね。僕は工作室の窓側で作業してたから、こんなとこにはないと思うんだけど」


 僕のその言葉に九条さんは考え込んでいた顔を上げる。その顔はへ? といったような、そんな顔だった。


「今、工作室っていいました?」

「え? う、うん」

「ここ、科学室ですよ」


 今度は、僕がへ? という顔をすることになる。


「えっと、ここは工作室だよ? じゃないと僕の忘れ物がここにあるわけないし、それに看板だって工作室ってかいてあったけど……」


 そこまで聞くと、九条さんは廊下に勢いよく飛び出し、看板を見上げる。

 僕も慌てて追いかけて見上げると、やっぱり工作室と、そう書いてあった。


「ほら、やっぱり工作室だよ」


 僕はそういうが、九条さんはそれを聞くことなく、今度は再び教室の中に入り、棚に走って行った。

 僕は追いかける。

 九条さんはその棚を開け放ち、そして中のものを指さしながら言った。


「やっぱり、ここは科学室です!」


 指さす先を懐中電灯で照らすと、そこには実験用に用意されたであろうビーカーや、三角フラスコが並んでいた。それはここが科学室であることを示すもので、


「ミーは今日は工作室をどこかの部が使うということで代わりに昼からこの科学室にいました。私はこの棚の中で寝ていましたし、ここが工作室なんてありえないです! です!」


 追い打ちとばかりにそう畳みかけられ、僕は確かにそうだとうなづくしかない。


「でも、ここが科学室ならなんで看板が工作室になってるの?」

「それは……看板を誰かが入れ替えたんじゃあないですかねえ」


 九条さんは急激に失速し、そう言う。


「その棚の中のものが持ってこられたものって可能性は?」

「それはないですよ。だってこんな量持っていくのだって大変ですし、なにより……」

「なにより?」

「なにより、教室に一個必ずおいてある花瓶のデザインが工作室のものではないですもん!」


 ……微妙な沈黙。そう言いながら九条さんが指さす先には確かに花瓶がある。けど、花瓶のデザインなんて誰も覚えてないって。

 そんな僕様子を感じ取ったのか九条さんは続ける。


「カオルはいつも工作室にいたのですよ? そのカオルをなめるでないです!」


 いやまあ、九条さんがいつも工作室にいるってのは学校で有名な話だから知ってるけどさ。


「ていうか、暗いのによく見えるな」


 僕の独り言に、胸を張って九条さんは反応する。


「私、夜目がききますから!」


 いやそれにも限界があるだろとは思わなくもないが、もう突っ込むのはやめにした。


「それで、なぜか看板がいれかえられてた事実が判明したわけだけど、どうするの?」


 九条さんはおーと腕を天井に突きあげ言った。


「もちのろん、犯人を捜すのですよ。さっき探すの手伝いましたし、恩返しと思って君もあたしを手伝うのでーす」


 おいおい、さっきと言ってることが真逆だ。


「いや、手伝われることなく見つけたんだけど、これ」

「そんなの関係ないでーす。いえーい」


 いやもうわけわかんねえよ。なんかもうどんどん九条さんに対する僕の態度が雑になってる気がする。元に戻す気はないが。

 とりあえずなんとなく逃げることはできない気がした。


「はあ、わかったよ。てつだいますよ。それで、どうやって犯人を突き止めるんです? 探偵さん?」


 探偵という言葉は適当に言っただけなのだが思いのほか九条さんはうれしかったらしく満面の笑顔になる。

 ……そしてそんな無邪気な笑顔に僕は不覚にも少しドキッとしてしまった。


「えへへ~。まずは今までのことで何か気づくことがないか考えるのだ~」


 わーと両手を上に振り上げそう言う九条さん。

 今までのことって言ったって、特になにもないと思うのだが……。

 そう思っていると、九条さんははっと何かを気づいたかのような表情なる。


「そういえばっ、看板がかえられてたってことは別に世界線が違うかったとかそういうことではなかったんですねえ。うーん。不可思議現象に遭遇したわけではないと考えるとすこし残念な気もします」


 世界線? そういえばいつからここにいたのかって話のときにそんな話をしていた。

 ……ああ、そういうことか。僕と九条さんが昼間に出会うことはなかったけど、考えてみれば当然のことだ。

 だって、そもそも同じ部屋にいたわけではなかったのだから。

 でも、この事実からわかるのはさっきとおんなじことだけだ。もう一つ、何か疑問があったと思うんだけど。

 そう確か、ここは工作室じゃないってことに対して僕が反論したときに……。

 もう少しで思い出せそうというところで、九条さんがアッと大声を出した。


「そうです。そうですよ。そもそもここが科学室なのですから、ユーの忘れ物がここにあるのがおかしいのですよ!」


 思考が中断されたが、九条さんが今言った内容が先ほどまでの思考の答えだと理解する。

 確かに、おかしいのだ。僕は工作室に忘れ物をしたのだから、忘れ物は工作室にあるのが普通なのだ。

 ではなぜここにあったのか。考えられる可能性は一つしかない。


「誰かが、ここに移動させた?」


 僕の答えに、九条さんはピョンピョン飛び跳ねながら同意する。


「そう、そうなのですよ。それしかありえません。そして、それをしたのはここを工作室だと思わせたかった人物ということになります!」

「つまり、犯人!」


 そして、少しづつ何かがつながっていく感覚に僕も少しテンションが上がってきていた。

 すぐにそのことに気付き、少し照れくさくなってできるだけ冷静を装う。


「……でも、犯人に近づいてるようで少しも犯人に近づいてないんじゃないか?」

「うーん、そうかもしれないですねえ。でも、あきらめるにはまだ早いですよ。今度は、本物の工作室をみにいくのです! あなたの忘れ物がここにあったということは本当の工作室に犯人が入ったのは確実! ならば何か証拠も残ってるかもしれないです! さあ、レッツゴーですよ!」


 そこまで早口でまくしたてるとダダダっと走って行ってしまう。


「お、おい! ちょっと待てよ!」


 本当の工作室と言ってもそれは科学室のすぐ隣だ。廊下に飛び出すと、本当の工作室の扉から九条さんが中をのぞき込んでいるのが見えた。


「あー、そうだよな」


 鍵が開いているはずがないのだ。だって警備員さんが見回って鍵の開いているところは鍵をかけているのだから。しかも僕は工作室を使い終わった後にきちんと鍵を閉めた覚えがあるし、中に入れる可能性は万に一つもなかったのだ。


「九条さん、もうあきらめよう。これ以上は調べられないよ」


 僕のその言葉に九条さんは僕のほうを向く。そして言った。


「……花瓶がない」


 短く一言だけそういった。僕も窓から懐中電灯を照らしてみてみるが、確かに花瓶は部屋のどこにも見当たらなかった。

 不意に、最近学校で話題になっている事件を思い出した。

 ――盗難事件

 最近この学校ではものがよく盗まれているのだ。花瓶がなくなっているという事実は、花瓶が盗まれたのではないかという考えを僕の頭に刻んでいく。

 思えば、確かこの工作室にあった花瓶は高価そうなものだった。

 僕は九条さんに今思いついたことをそのまま伝える。


「九条さん。もしかして、看板を入れ替えたのって、最近学校で盗みを働いてる人なんじゃ」


 九条さんは僕の答えに少し考えるそぶりを見せる。だが、何も言わない。


「九条さん、もうやめよう。犯罪者なんて何をするかわからない。犯人は、突き止めないほうがいい。今日は帰って、このことを警備員さんに伝えるべきだ。あとは大人の仕事だよ」


 九条さんはそこまで聞くと、考えるそぶりをやめ、バッと僕の目をのぞき込んできた。


「……今、警備員さんって言いましたよね。そういえば、私がいた科学室の鍵は、だれにもらったんですか?」


 九条さんの言葉に、僕は固まる。

 そうだ、僕は忘れ物を取りに行くためにここに来た。そして、工作室の鍵を貸してもらったのだ。

 僕は手に持っていた鍵を見つめる。

 これは、工作室の鍵ではなかった。これは、科学室の鍵だった。

 僕は工作室といったのに、もらった鍵は科学室のもの。その事実は、つまり。


「盗難事件の犯人は、警備員の人ってこと?」


 僕自身で言った言葉だが、頭を何かで強く殴られたような感覚がした。僕は、いつも忘れ物をするがゆえに、あの警備員の人とは顔見知りだ。僕の知る限りやさしいあの人が、犯罪者だなんて考えられなかった。

 底知れぬ不安が僕を襲う。


「……九条さん。早く学校を出よう。……ねえ! 九条さん!」


 九条さんは再び考え込んでいて、答えてくれない。

 しょうがない。引きずってでも連れて帰る。

 僕がそう思って、九条さんに触れようとした時だった。


「まった。待つのですよ。大丈夫です。看板を入れ替えたのは警備員の人だと思いますけど、盗みはたぶん違う人ですよ。……そもそも、花瓶は盗まれたわけではないと思いますし」


 僕は唖然とする。どこからそんなことがわかるというのだ。

 僕に疑問を許さないというように九条さんは続ける。


「だって、だってですよ? そもそも、盗んだなら花瓶を元の位置に戻しておけばいいだけです。あなたが去った後に、もう一度盗めばいいのです」

「それは、時間がなかったとかじゃないの? 僕が訪ねてきたのは突然のことなんだよ? 僕が忘れ物を取りに来るなんてわからないはずじゃないか」


 九条さんは首を横に振る。


「いえ、わかっていたんだと思います。じゃないと、わざわざ忘れ物を工作室に見立てた科学室まで運びません。それに運ばれているということは警備員さんが忘れ物を見つけたということです。きっとあなたの忘れ物を見つけた警備員さんはその忘れ物をあなたが取りに来ると考えてこんなことをしたんだと思います」


 わからない。まだわからない。動機がない。わざわざ看板を入れ替える理由がない。

 九条さんは僕が心の中で思ったその疑問の答えも、その話の続きで示した。


「あなたが来るとわかっていたのに花瓶がなくなったままであるわけは、もう一つぐらいしか思いつきません。つまり警備員さんは花瓶がなくなった状態にするしかなかったのです。たぶん、見回りの途中か、いつかはわかりませんが、花瓶を割ってしまったんですよ」


 予想外の結論。声を出すこともできない。


「こんなことをした理由は花瓶を割ったことを隠したかったからだと思います。人間、焦ると何を考えるかわかりませんから。もしかしたら、あなたが忘れ物を取りに来た後に、何か変わりのものを買ってくるつもりだったのかもしれません。どんな花瓶が置いてあったのかなんて、いつも工作室にいる私くらいしか覚えてないでしょうしね。……もっとも、もう日をまたいでいますから、どこの店も開いていないでしょうけど」


 ……いままでのうざい雰囲気から一遍、いたって真面目で知的な雰囲気を醸し出す九条さん。

 意外としか言えない。もしかしたらこっちのほうが、九条さんの本性なのかもしれない。僕は、そう思った。

 九条さんの説明が終わり、沈黙が世界を支配したころ、唐突にその声が聞こえた。


「おーい、なにかあったのかー。帰ってこないから心配したんだぞー」


 警備員さんの声だ。廊下の先を見ると、懐中電灯の光が近づいてくるのが見えた。

 なぜかふっと空気が緩み、九条さんの雰囲気もさっきまでがまるで嘘みたいに元に戻る。

 近づいてくる警備員さんに九条さんは言った。


「ねえ! 警備員さん。工作室の花瓶を割ったのってユー?」

「おわ、九条ちゃん? いつの間に学校に入り込んだの」

「昼間からずっといたよ」


 明らかに初対面ではない。警備員さんが名前を知っていたし、きっと今日みたいに寝過ごして警備員さんのお世話になることが多いんだろうな、となんとなくそう確信する。

 まるでいたずらをする子供のような笑みを浮かべて九条さんは再度尋ねた。


「ねえ、警備員さん工作室の花瓶割ったでしょ」

「はは、やっぱごまかせないよなあ。……よし、明日校長先生に謝りに行くよ」

「うんうん、絶対に、そのほうがいい! 君もそう思うでしょ」


 突然話を振られ、少し戸惑うが、何とかうなづく。


「だよね。うん、嘘はやっぱりよくないよくない」

「はいはい、もう何時だと思ってるの。君たちもう帰りなさい」


 警備員さんに促され、僕たちは帰路につく。

 そして、校門をくぐったところで九条さんと別れる。僕の家はすぐ目の前。夜中に女の子一人はいかがなものかと九条さんの家まで送っていくことを提案するが断られた。


「いえいえ、大丈夫ですよ? お隣さん」


 そう言いながら九条さんが指さすのは僕の隣の家。

 ……なんだこれ。

 そう思いながら、僕はため息を吐く。


「さいですか。じゃあ、ここでサヨナラですね。お隣さん」

「そう、サヨナラ」


 そして、それぞれの家へと入るその直前、九条さんは僕を呼び止めて言った。


「私、君気に入った!」


 それだけ言って閉じられる扉。最後の一言は、たぶん本性であろうあの雰囲気で。

 僕はこれからの毎日に、ひしひしと嫌な予感を感じながら、天を仰いだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  冒頭で作者からの注釈があるように、推理の要素は軽めだと思いました。ですがそれによって、推理というジャンルが苦手な方でも、とても読みやすくなっているとも思いました。  深夜の学校へ忘れ物…
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