旅は道連れ、世は情け。
皮でできた鞄に荷物を詰める。ベリトは旅に必要だと思われる雑貨をより分け、リッツァの荷造りを手伝っている。
より分けられた雑貨を手に取り、リッツァは頭を悩ませながら鞄に入れていく。
葡萄の収穫が終わり、冬が来る。領内の冬はみな家内で麦わらを編んだり、葡萄酒の様子を見守ったりとあまり畑の仕事のない、そんな季節である。
繁忙期を過ぎたと聞いたアルヴァー侯爵家、特にラウラとアンドレアがぜひ屋敷で過ごしてほしいと、リッツァを招待したのだ。リッツァだけの招待だったので、エドガーとクリストフェルに相談すると一緒にクリストフェルとアルヴァー侯爵邸に行こうと提案した。
翌日には都へ出発し、約1か月ほど滞在することになっている。父エドガーを屋敷に一人にするのは気が引けて、リッツァは皇都にあるアルヴァー侯爵邸に行くのも悩んでいた。
リッツァのそばにはいつもエドガーがいて、リッツァのことを見守ってくれていた。そんな父親と長く離れるのが初めてで不安でいっぱいでもあった。
エドガーは「結婚したら、都に行く機会もなくなるから是非楽しんでおいで」とリッツァの背中を押し、クリストフェルに娘を託した。
リッツァの横ではベリトが忙しなく動いている。どのドレスと装身具をもっていくか、ベリトが選定している。それもこれも、あまり着飾ることに興味を持たないリッツァのためだ。
ドレスをあまり持たなかった、リッツァに結婚する女性のたしなみと何着かドレスを作ったのはつい最近のこと。
「ねぇ、ベリト。着替えのブラウスとスカートがあれば、そんなにドレスを持っていく必要があるかしら?」
「リッツァ様・・・」
ベリトはため息を一つ吐く
「お茶会に夜会、場合によっては舞踏会に招待されることもあるかもしれません。そのための準備ですよ、リッツァ様。」
ベリトの言葉を受けて、リッツァもため息を吐く。
「お茶会や夜会に参加するより、皇国一と言われるの市場を見たり、図書館で書を読んだり、この領内のためになることを見聞したいわ。でも、わかっているのよ、お茶会や夜会でのお話を聞くのも、家のため領内のためになる情報をたまに拾えることも。たまにね。」
肩をすくめながらリッツァは苦笑した。夜会やお茶会が有益ではないとは思っていない、ただ腹の探り合いになることが多い社交場が苦手なのはリッツァが駆け引きが苦手だからだ。
「さ、荷造りは終わりましたよ、リッツァ様。明日に備えてゆっくり休んでくださいね」
「ありがとうベリト。一緒に行けたらよかったのに。」
ちょっとすねたように、唇を尖らせたリッツァは造った荷を一つ所にまとめていく。
「そうですね、わたくしもリッツァ様のお傍にと思いますが、ここのお屋敷は女手が少ないですからね。」
ベリトに言われ、リッツァは一つ肯いた。
「そうよね、ベリトがいないときっと屋敷の方が困るわね。私がいない間、屋敷のこととお父様のことよろしくね、ベリト。」
「かしこまりました、リッツァ様」
リッツァは明日のたびに備えて、早めに寝台にその身を横たえる。皇都までは馬車で5日ほどかかる。馬車には荷を詰めて、リッツァとクリストフェルは騎馬で都に向かうことになる。
馬での旅は初めてで、リッツァは楽しみで胸が弾む。馬で行くことに関して父エドガーはあまりいい顔をしなかったが、クリストフェルの口添えもあり渋々了承を得た。
あまり領地を出たことがないリッツァにとっては今回は心躍る出来事だ。父エドガーを置いて、都に行くことに抵抗がありつつも、必ず領地のためになることを吸収してこようと心に決めている。
あれこれ考えていると、なかなか眠りにつくことが出来ずにいた。
「リッツァ様。起きてくださいませ」
ゆさゆさと体をゆすられて、リッツァは少しずつ覚醒する。昨夜は興奮のあまり眼が冴えてしまい、明け方になってようやく眠りについた。
「ん・・・。おはよう、ベリト」
目をこすりながらリッツァは体を起こす。
「今日は旅立ちの日です、朝食後すぐに出立されるのでしょう。お支度しますので、急いでくださいませ」
「わかったわ。」
寝台から起き上がり、ベリトの用意したお茶を口に含む。身なりを整えるために顔を拭いてから、ベリトと共に身支度を整えていく。
乗馬用の服を身に着けると、ベリトがリッツァの髪を梳り、髪を結いあげていく。
「しばらく、リッツァ様の髪の毛を結えないかと思うと、寂しゅうございます。」
手を休めることはなく、ベリトはさびしげに笑う。
身支度を終え、朝食が済むと出立の準備にかかる。馬車に荷を積み、厩舎からクリストフェルとリッツァ、同行するミカルの愛馬が厩舎係のオットーにひかれてやってくる。
「忘れ物はないかい、私のかわいいリッツァ」
エドガーがリッツァを引き寄せると、額に口づけをする。
「大丈夫です、お父様。」
そういうと、リッツァは涙がこぼれそうになるのをこらえてエドガーに抱き着いた。
「クリストフェル殿、お転婆で手がかかりますが娘のこと、よろしく頼みます」
エドガーはリッツァをそっと自分の隣に立たせると、クリストフェルに深々と一礼した。それに合わせてクリストフェルも深々と一礼する。
「はい、我が剣にかけてリッツァ嬢をお守り申し上げます。」
見送りのために屋敷の玄関前に集まったエドガーをはじめ、屋敷で務める面々に手を振り屋敷を立った。領地から都へ続く街道を使って、都に向かう。
「今日は街道の途中にある宿場町で泊まる予定で、およそ二刻半(約5時間)ほどかかる。もし、辛くなったら、すぐに声をかけて。わかった?リッツァ」
「わかりました。クリス様、ミカル、ダグ。よろしくお願いしますね」
リッツァはクリストフェル、従者のミカル。そして馬車の御者であるダグに馬上で一礼する。
途中馬を休めながら、宿場町を目指す。愛馬の歩く振動が心地よく、リッツァは舟をこぎそうになる。昨夜、興奮のあまり睡眠が十分ではなかったためか、リッツァは睡魔に襲われていた。
「リッツァ、馬上で居眠りは危ないよ」
少し前を行っていたクリストフェルがリッツァの横に馬を付ける。
「ごめんなさい。昨日あまり眠れなくて…。気を付けます。」
頭を左右にふって、リッツァは眠気を飛ばそうとする。
「辛かったら声をように伝えたはずだよ。なんでもないと思ったかもしれないけれど、些細なことでもいいから声をかけること。」
クリストフェルは優しくリッツァに声をかける。
「はい。」
「いい子だ。ミカル、ダグ!いい場所が少し早いが昼食にしよう」
クリストフェルが声を変えると、街道脇に食事が出来そうな広場を見つけ、そこで昼食を食べる。リッツァが食後に少しだけ仮眠をとった。
目を覚ますといつの間にか、クリストフェルの膝に頭を預けて眠っていたらしい。リッツァは気が付いて、あわてて起き上がった。
「申し訳ありません、クリス様。私、いつの間にひざをお借りしたのかしら。」
真っ赤になりながら、リッツァはクリストフェルに謝罪する。
「私が勝手にリッツァの頭を乗せたのだから、気にしないで」
(なんだか、クリス様に子ども扱いされている気がするわ・・・)
リッツァの頭をぽんと撫でると、クリストフェルは立ち上がった。「さて、休憩は終了」というと、再び宿場町を目指す。
宿場町に到着すると、その日は疲労がたまっていて、リッツァはすぐに眠りについた。
その後も都への道のりは大きな厄介事や事故もなく、皇都パーヴェルに入ったのは当初の予定通りヴァーリフェルト領を出立してから5日後であった。
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