表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/24

突然の来訪

 ヴァーリフェルト伯の領内でも草木の葉が青々と茂り、暑い夏がやってくる。葡萄の花摘みから2か月ほどたっていた。

 麦わら帽子を被って日差しを避けながら、リッツァは日々の日課で葡萄畑を見回り、虫がついていないか、問題がないかを点検していた。すると、遠くからベリトが手を振りながら、リッツァを呼んでいる。

 

「ベリト、どうしたの!?そんなに駆けて大丈夫?」

 リッツァに駆け寄ってきて息を切らしているベリトを気遣いながら何事かと、リッツァは心配になる。

「旦那様がリッツァ様にお話があるとかで、急いで執務室に来るようにと言付かってまいりました。」

 肩で息をするベリトに「ありがとう」と声をかけ、ベリトに少し木陰で休んでから屋敷に戻るように言うと、リッツァは急いで屋敷に戻る。

 父がこんなに急いでリッツァを呼ぶようなこともなかったので不安になる。小走りで執務室に急ぐ。


「お父様、リッツァです。」

 執務室の扉をノックし、室内にいるであろう父エドガーに声をかける。

「入りなさい。」

 扉を開き、執務室内に入ると机で書類に目を通しているエドガーがちらりとリッツァに目を向けた。机の前に立って父エドガーを見やる。

「リッツァ、そこにかけなさい。」

 執務机の前に置かれた丸椅子にリッツァ腰を掛ける。

「クリストフェル殿が近衛騎士団を辞して、ここに五日後には到着すると、連絡があってね。」

「クリストフェル様が?ここへ??」

突然の父エドガーの話に頭が付いて行かない。

「うむ、結婚はまだ少し先の話だが、領主としての仕事も知りたいし、ここででの生活に慣れたいそうだ。なんせ都育ちなので田舎暮らしは不安なのだろうね。きちんとクリストフェル殿を迎えられるように、リッツァも迎え入れる準備をしなさい。いいね。」

「はい、お父様。」

「しかし、クリストフェル殿の思いきりもすごいね。」

 口元に軽く握った手を添えると、エドガーが愉快なことが起こったとばかりに笑っていた。

(手紙では一言もそんなこと書いていなかったわ!)


 未来の領主を迎え入れるべく、ヴァーリフェルト伯の屋敷は大わらわとなった。クリストフェルの居室はエドガーが以前使用していた屋敷で一番大きな部屋をあてがう。

 書棚や文机は倉庫に保管してあったものを運び、部屋に設える。使用人が少ないヴァーリフェルト伯邸ではエドガーやリッツァも一緒になって部屋の用意をする。重いものを運ぶのは男性の仕事。

 女性の仕事は調度品を磨いたり、部屋の掃除をする。貴族の子女として家事一般が出来るように仕込まれていたため、リッツァも侍女数名と共に部屋を磨き上げていく。侍女たちは恐縮しきっていたが、人手が少ないためリッツァは構わず作業を進めた。


 クリストフェルの居室の準備のほかに、リッツァの身に着ける物の準備もあった。父エドガーよりドレスを何着か誂えるようにと言われていたのだ。

 生前母が身に着けていたドレスを着るから、作る必要がないと言っていたのだが、さすがに婚約者を迎えるに当たり粗末な格好は相手にも失礼である、父が下した厳命であった。

 確かにまともなドレスは舞踏会に来ていった薄桃色のものとリッツァの叔母エドラが誂えた薄い橙色のドレス、そして16歳の誕生日に父エドガーから送られた淡い青のドレスのみ。他は農作業や見回りに多少汚れてもいいドレスやブラウス、スカート類しかない。


 仕立て屋がヴァーリフェルト伯の屋敷に呼ばれていた。リッツァの傍に仕えていたベリトは仕立て屋の持ってきた生地の見本に感激をし、浮足立っている。

「リッツァ様を着飾らせるのが私の仕事です、ドレスが出来上がるのが楽しみですわ」

 仕立て屋に採寸されながら、恨めし気にリッツァはベリトを見る。

「きれいに着飾っても、私には似合わないわ。」

 不満げに頬を膨らませていうリッツァに仕立て屋はこともなげに告げる。

「お嬢様は生前の奥様に似ておられるので、何をお召になってもお似合いになるでしょう。その白金の流れる髪に白い肌と思いきや・・・少し日に焼けていますね、日傘や手袋は忘れずに。あぁ、リッツァ様の美しさに輪をかけているのがなんといってもその瞳の色。白金のまつ毛に縁どられた青にも碧にも見えるその瞳はどんな宝石にも勝りましょう。」

 仕立て屋はてきぱきと採寸をしていきながら、うっとりとそのリッツァの瞳をみつめる。

「そうですともリッツァ様はご自身が思うより、ずっと美しいのです。仕立て屋さんは見る目がありますわね」

 ベリトはリッツァのことを自慢げに仕立て屋に話している。採寸が終わると何着ドレスを作るのか、仕立て屋が確認してくる。

 とりあえず、夏のもの3着と冬のもの3着を依頼するように言われているとベリトが仕立て屋に告げると「腕が鳴ります」と嬉々として生地の見本をリッツァに提示する。


 何でもいいわと投げやりなリッツァに対して、ベリトは「誰のドレスですか!」と目を三角にしてにして仕立て屋に注文を付けていた。瞳の色に合わせた色と淡い黄色、そして薄い紫色の繻子がいいとベリトが目を輝かして注文している。冬のものは緑と濃い葡萄色の天鵞絨ビロードを一つは仕立て屋に任せると言いきっていた。

 仕立て屋は夏のものについては「腕によりをかけてよいものを仕立てます。なるべく早く仕立てて参ります」といって、屋敷を後にした。

 

 そうしてバタバタしているうちにあっという間に五日間は過ぎた。ヴァーリフェルト伯爵家ではリッツァの婚約者を迎えるための準備を終え、今か今かと待ち受ける。

 領内中にリッツァの婚約者がやってくるとうわさが飛びまわり、ひそかにリッツァを思っていた若者たちは失恋に胸を痛め、どんな男か見定めようと屋敷付近の畑の見回りをしているふりをし、待機していた。


 リッツァと言えば、仕立て屋のドレスが間に合わず、父からプレゼントされた淡い青のドレスを身に着けていた。髪の毛はベリトが腕によりをかけて、結いあげてくれた。横の髪を編み上げうなじのところでまとめてくれている。

「なんだか緊張するわね、ベリト。私、変じゃない?」

 落ち着かないリッツァは自室の中で行ったり来たりしている。その様子を見てベリトにもその緊張が伝わってくる。

「大丈夫ですよ、リッツァ様。とっても素敵ですわ。このベリトが腕によりをかけたのですから」

「ありがとう。ベリトがいて本当によかったわ。」

 震える手でリッツァはベリトの手を握りしめた。

「なんと、もったいない。リッツァ様このようなこと、普通貴族の娘さんはなさいませんよ」

「普通じゃなくていいもの。私は変わり者と言われるヴァーリフェルト伯爵の一人娘よ。だから、いいのよ。私はベリトが大好きよ、それでいいでしょう」


 夕日が葡萄畑を染める頃、クリストフェルとその従者、あわせて2名がヴァーリフェルト伯爵邸に到着した。

 従者はクリストフェルの侍従として仕えてきたミカルという少年で結婚後もクリストフェルのお傍にということで一緒にやってきたようだ。

 ひらりと馬から降りると、クリストフェルは迎えに出てきたヴァーリフェルト伯とリッツァに恭しく挨拶をした。

「よく来たね、クリストフェル殿。ミカル君も。まずは屋敷に入って休むといい。」

 エドガーが笑顔で応対し、屋敷内に遠くからやってきた二人を屋敷に案内する。リッツァは二人の後に続く。

「お二人の馬を厩舎へ。遠路駆け通しだったと思うから、疲れているはずだわ。きちんとお世話をしてあげてね、よろしく頼みましたよ、オットー。」

 厩舎係のオットーに告げる。オットーは「お任せください」と二頭の馬を引いて厩舎へ向かった。


 クリストフェルとミカルは湯を浴び、汚れと汗を洗い流し、その身を整えた。着替えはヴァーリフェルト伯爵が用意しており、上質な絹のチュニックに黒く染まったズボンに皮のブーツ。

 クリストフェルはそれらを身に着け帯剣用のベルトを腰に巻く。帯剣するわけではないが、長年の習性で私服の時でもこのベルトをまかないと落ち着かなかった。


 ヴァーリフェルト伯爵邸ではささやかな歓迎の宴が催された。

 晩餐であるとヴァーリフェルト伯爵親子とクリストフェル、3人だけのささやかなものになってしまうため、ヴァーリフェルト邸に住み込んで働くすべての人たちが呼ばれて、盛大な宴となった。侍女たちの中にはクリストフェルの凛々しく美しい容貌に甘いため息を漏らす者もいた。

 クリストフェルはエドガーと何やら葡萄酒の話題で話に花を咲かせていた。

 使用人などは領主親子と食事することなど、葡萄の花摘みの時くらいしかないため、緊張して食事の手が進んでいない。リッツァは一人一人に声をかけ、少しずつ和ませていく。

 リッツァは使用人たちに囲まれながら、いつも思っていること、要望などを聞き出していた。使用人たちも少しずつ場の空気に慣れていき、気が付いた時には宴を楽しむ余裕が出来ていた。


 ほっとリッツァは息を吐くと、ほとんど食事をしていないことに気が付く。空腹も限界だし、ゆっくり食事を楽しもうと料理に手を伸ばした瞬間に声をかけられる。

「リッツァ殿、私の話し相手もしていただければと」

 にこっと人のいい笑顔を見せて声をかけてきたのはクリストフェルその人だった。先程までエドガーと話が弾んでいたはずだ。

「まあ、クリストフェル様。わたくしでよければ喜んで。お父様と話が弾んでいらっしゃったので、遠慮していたのですよ。」

 クリストフェルがリッツァの持っているお皿に何種類か料理を乗せると、彼女を介添えし、食堂の壁際に置かれた椅子に腰を掛けた。

「そういえば、クリストフェル様。お手紙にはこちらにいらっしゃること、ちっとも書いてくださってなかったわ。お父様から聞いた時は驚きました。」

 そういうとお皿の上にあるシェロと呼ばれる魚とジャガイモのスープ煮をリッツァは口に放り込んだ。

「貴女を驚かせようと思ってね。怒らせてしまったのなら謝ります。」

「怒ってなどいないわ。でもなぜ?急にこちらへ?」

 リッツァは料理の乗った皿を膝の上に乗せ、隣に座るクリストフェルに尋ねた。

「その話は少し長くなるので・・・また今度ゆっくり話します。リッツァ殿。」

 クリストフェルはそういうとリッツァの頭を優しくなでた。 


 そして歓迎の宴は夜遅くまで続いた。

ここまでご拝読いただき、ありがとうございます。

相変わらず読みにくい構成ですが、少しずつでも読みやすさを追求していけたら

そう思っています。


また、誤字・脱字・変な文章など気が付いた点がありましたらご報告ください。


改めていつもありがとうございます。

遅筆でありますが、お付き合い下さいますようよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ