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考える姫君

平和な時を紡いでいた小さな集落を襲った盗賊事件。攫われた女子供と盗賊に身をやつしたティオーダの遺臣を集落に連れて帰り、小さな騒ぎとなった。

 クリストフェルとクート、そしてテディが事態の収拾に奔走していた。


 この小さな集落からリッツァ一行が旅立ったのは2日後となった。

 テディとクートはクリストフェルの書状をもって、都パーヴェルに向かった。団長の意向を無視しての集落救出に参加したこともあり、失職の可能性が高く、断固阻止したいクリストフェルはこの国の若き宰相である兄レオナルドにテディとクートの今後のことと自警団の現状を書状にしたためそれを持たせた。

 再会の約束をし、2人と別れたリッツァ一行はヴァーリフェルト領に向かう。


 リッツァは愛馬白雪にひらりと馬上の人となる。盗賊の頭でティオーダの遺臣であるヨアキムが見送りにやってきて、集落の復興にめどが立てばヴァーリフェルト領へ必ず赴くと一礼をした。

 そのあと村の子供たちがリッツァの周りに集まってきて、必ず戻ってきてとそのつぶらな瞳に涙を浮かべていたり、声をあげて泣いている子供もいた。

 一度、馬から降りたリッツァは地面に膝をつき子供たちの目線になって微笑む。

「大丈夫よ、必ず戻ってくるわ。それまで皆助け合って、暮らすのよ。」

 子供たちの頭を撫でると、子供たちがリッツァにすがりついてくる。

「お姉ちゃん、また遊んでね」

「また、飴をもってきね」

「女神様、どこか行っちゃうの」

 口々に子供たちがリッツァに詰め寄ってくる。ごめんね、必ずまた来るからと子供たちを抱きしめて、リッツァは再度馬上の人となった。


「激動の5日間でしたね、お疲れではないですか」

 そうリッツァに話しかけてきたのはクリストフェルの侍従ミカルだ。

「ありがとう、でも大丈夫よ。頑張ったのはクリス様とテディ様、クート様・・・そしてミカルよ。ここ2日間、私は何もしなかったもの」

 冬の風がリッツァの髪を揺らす。ヴァーリフェルト領に続く街道をミカルと並んで馬を進める。馬車をはさんでクリストフェルが単騎先頭に立ち、ミカルとリッツァが並んでしんがりを務めている。従者は主人のすこし後ろを歩くのが通常だ。

 集落を出てしばらくはリッツァの後ろを歩いていたミカルであったが、リッツァが速度を落としてミカルの横に並んだ。それに気が付いてミカルが後ろに下がると、またリッツァが話し相手がほしいからと並び、ミカルは諦めてリッツァの隣に並ぶに至った。


 「子守に追われていたように思われますが。薬師の代わりに薬草を摘んでおられたのも、とても助かったと長老殿が申しておりました」

「ミカルは優しいのね、ありがとう。ところで・・・ミカルはいつからクリス様の従者になったのかしら」

 ちらりと前方を歩くクリストフェルの背中を眺めてから、ミカルに尋ねる。ミカルならリッツァの知らないクリストフェルも知っているはずだ。クリストフェルのことを知りたいと思う、なぜ知りたいのかリッツァ自身もよく分からない。

「そうですね、私が7歳になる年にペイジとしてアルヴァー侯爵のもとへ奉公に出ました。その時にクリストフェル様のお傍に仕えましたので、10年ほどでしょうか」

 懐かしそうな口ぶりで話すミカルが少しうらやましい。

「10年も。すごいわ!」

「懐かしゅうございます。非常に頑固で腕白な坊ちゃまで、いつもどこかに怪我をこさえていました。お優しいのは今も変わらないですね」

「クリス様が頑固で腕白?想像が付きません」

 リッツァは驚いて目を見開いた。

「いたずら好きで、アルヴァー侯爵ご夫妻にレオナルド様からよく叱られておられましたよ。」

 ミカルの話すクリストフェルの姿にリッツァは笑みをこぼす。

「騎士学校に入校されてからは、すっかり変わられましたけれどね。」

「ミカルも一緒に入校したの?」

「はい、従者としてお傍に。学校では鍛錬などは厳しかったようですが、同じ志を持つ方々と出会えてクリストフェル様は輝いておいででした。社交界に初めて出られたからは、女性にもすごく人気でございましたね。いたずら好きなクリストフェル様の面影もなく、爽やかな騎士見習いで上流貴族のご子息でしたから」

「そうなのね」

 女性に人気があったと聞いて、リッツァの胸は軽い痛みを覚えた。

(なにかしら、このズキッとした痛み)

「ええ、騎士に叙任されてからは、逞しくなられて社交界でもますます人気が高く、私も従者として自慢の主でございましたよ」

 ミカルは得意げにクリストフェルの話をしている。

「そんなに人気があったのかしら?」

 聞きたくもないのについそんな質問をしてしまうリッツァは自分に叱咤したくなる。

「ええ、近衛騎士団に身を置かれ、アルヴァー侯爵のご次男で兄君は若き宰相であらせられる。容姿も優れておりましたのでご婦人方からは騒がれておられました。とある上流貴族のお嬢様との噂も流れたりしておりましたくらいです。あっ、今はもちろんそういった噂などございませんよ」

 リッツァが主の婚約者であることを思い出し、しゃべりすぎたとばかりにミカルは慌てていた。

「わかっているわ。大丈夫よ」

 申し訳ありません、とミカルは頭を下げるとリッツァの後方に下がった。


 クリストフェルが、上流貴族出身で近衛騎士団に所属しているとなれば、貴族のご婦人方にもてないわけがない。

 そんなクリストフェルが許婚であると聞かされた時は、きっと人気があるのだろうとリッツァは思っていたし、胸が痛むこともなかった。それが今ではミカルから貴族の子女との甘いうわさがあったと話を聞けば面白くないと思う自分がいる。それも、落涙しそうなほど胸が痛いのである。

 手綱を握りながらリッツァは考えてしまう。この思いはなんなのだろう。初めての想いに戸惑うばかりであった。


「・・・ツァ、リッツァ?」

 気が付くと、リッツァの隣でクリストフェルがいた。

「クリス様・・・?」

「どうした、ぼうっとして」

「あ、いえ、その考え事を少々・・・」

 考え事の中心人物に話しかけられて、リッツァはしどろもどろになる。

「リッツァ、何か悩みでも?」

「悩み?悩みなのでしょうか。色々です」

 あまり詮索しないでほしいと思いつつ、クリストフェルの視線を受けて目をそらしてしまう。

「そう、何かあるんだったら相談して。それと馬上の上での考え事は禁止、危ないからね。」

 はい、とリッツァはうなずく。

「あと少しで宿場町だから、頑張ろう」

 もう一つうなずいて、リッツァは前を向く。今は心配をかけまいと軽く馬の腹をけった。


 リッツァ一行はしばらく街道を走り逗留予定の宿場町に到着した。ミカルが宿を探しに出かけ、町の広場でミカルの帰りを待つ。広場にはたくさんの人が行き交っている。

(何かあるのかしら)

 リッツァは人の多さに気を取られていると、ミカルがリッツァ達のもとに戻ってきた。

 今、この宿場町では灯火を軒に掲げる祭りを行っており、宿がいっぱいで一部屋しか取れなかったとクリストフェルに謝るミカルがいた。ミカルとダグは馬車で眠ると言い張った。

 冬の寒空にそんなことはさせられないので、4人で宿泊できるなら部屋で暖を取ろうとリッツァはクリストフェルに言う。

 結局、ミカルとダグが主人と同部屋で眠ることは侍従としてあるまじき行為であると、頑として馬車の中で泊まることを譲らず、クリストフェルとリッツァが二人で一つの部屋に宿泊することになった。

 

 宿場町での一夜はリッツァを大いに悩ませる一夜となる。

 

誤字・脱字に気が付かれたら、ご連絡いただけると嬉しいです。


ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

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