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騎士と姫君の夕べ

 夜陰に紛れ盗賊が根城にしている聖堂にたどり着いたクリストフェルとリッツァ、そして自警団所属の騎士クートとテディは草むらに身を隠し息を潜めて周囲の様子を確認する。

 入口には見張りの者が1名、聖堂の周りにはそれ以外人の気配はない。見張りの男が立つその横にはティオーダ王家の旗がはためいている。


 昼間クートとミカルがこの聖堂を偵察して帰ってきたときにもたらした情報では攫われた女子供たちもこの聖堂のどこかで監禁されていると思われる。

 聖堂に続く林道は馬が2棟並んでやっと通れる道であるとのことであった。来る途中にクリストフェルはそれを確認し、それぞれに最終的な策を与えた。

 クリストフェルの傍らには緊張の面持ちでリッツァが見張りの男をじっと見つめている。クリストフェルがクートに目配せをして、左手を挙げる。見張り番をクートが得意の吹き矢で眠らせるという作戦だ。 力強くクートが頷くと腰帯に下げていた吹き矢の筒を口元にあてがい、フッと息をふく。見張り番は首元を押さえて、首をかしげていたが少し時間がたつと眠気が襲ってきたのかがっくり膝をついて倒れた。


 クートは異色の経歴の持ち主であった。騎士として身を立てる前は傭兵であった両親に鍛えられ、主に隠密活動に特化していた。両親が他界し、母方の親戚に預けられて母親が貴族の娘であったことを知る。親戚はクートを騎士にすべく、騎士団にその身を預けた。

 傭兵に育てられたクートは騎士団でも異色の存在であった。12-3歳ころから騎士になるものは騎士団に預けられるものだが、クートはすでに15歳になる前であり、通常であれば騎士として叙勲を受けるはず年齢であったが特例で1年遅れての叙勲となった。また、身長が低く、ヴァルフォニア皇国では珍しい鮮やかな赤毛、その上童顔であったのと特例扱いであることをねたまれいじめのようなものを受けていた。もちろん、クートは黙ってその状況に甘んじていたわけではなかった。傭兵たちの教えを受けていたクートは激しい報復を行ったのだ。それからは、教官にも目をつけられ非常に苦労したらしいが本人は仕方ないとあきらめも入っていたらしい。

 クートは騎士団でも研鑚を積むもその儀礼や剣の型になかなか馴染めず苦労したとクリストフェルに笑って語っていた。結局、騎士団ではなかなか力を認められずに自警団配属となった。


 そのクートは今己の真価を発揮している。まさにこの根城に潜入、作戦を遂行する上で必要な力を備えていた。見張り番が倒れたのを確認すると、クリストフェルはクートに大きくうなずく。クートも笑顔で答えた。4人が乗ってきた

 見張り番が倒れるとクリストフェルはまずテディとクートに指示を与える。クートは草むらでこのまま待機。不測の事態に備えて、自分の意志で動くように言い含める。そしてテディには4人が乗ってきた馬を置いてきたところまで戻り、待機とした。テディはその指示に無言でうなずくと素早く元来た道を戻り、馬のもとへ向かっていった。


 自警団のテディは錆色の髪の毛を肩のあたりまで伸ばし、それを後ろでひとくくりにしている。これは尊敬している義兄の真似であると無口な青年がクリストフェルに語ってくれた。

 捨て子であったテディはとある貴族の子息である義兄に拾われたそうだ。それは大切に育てられ、何不自由ない生活を送っていたが、家を継げないテディは家族に心配をかけまいと騎士団に自ら行きたいと申し出て家を出た。騎士の花形である騎士団には所属できなかったが、騎士として自警団に所属となった。この時捨て子であったテディを支えてくれた家族の存在に感謝した。


 テディはとにかく黙々と働く男であった。闇に消えたテディの背中をクリストフェルは見送った。そして、クリストフェルはリッツァの背中をポンとたたくと草むらから立ち上がり、神殿出入り口までリッツァと共に進む。

 ここから、リッツァが名乗りを上げ、説得の作業に入る。盗賊がティオーダの遺臣であることはほぼ間違いないと思われたが、そうでなかった場合、様々な事態を想定してクリストフェルは行動しなくてはいけない。とにかくクリストフェルは自分の隣に立つリッツァを守ること。これがクリストフェルの使命だと考えていた。

 一度、この命が尽きようともリッツァを守ると言ったら、リッツァが烈火のごとく怒ったのを思い出す。クリストフェルの命が尽きた後、リッツァに何かあったら守ったことにはならない、無責任だと。

 リッツァであれば絶対に生き残って、守るべき人を守る。誰かを守り通すならば、守護するものは命を落とせないはずだとリッツァはクリストフェルに言い放った。


 隣で緊張するリッツァの頭を撫でるとリッツァがクリストフェルの方を振り向く。リッツァを落ち着かせようとリッツァの頭の上に置いた手を数回軽くなでた。緊張で血の気の引いた頬に少し赤みが戻ったリッツァはありがとうとクリストフェルに告げた。

 頬を両手で叩いて気合を入れたリッツァは深呼吸を何度か繰り返し、クリストフェルの方を振り返り一つ大きくうなずいた。

 大きく息を吸ってリッツァは名乗りの声を上げた。

「我が名はリッツァ・シルヴィア・ヴァーリフェルトと申します。こちらにいるご婦人と子供たちを返していただきたく、参りました。どなたかある」

 聖堂の出入り口の前でリッツァは声を張り上げた。

「あなた方が掲げる旗は我が母マーレ、ティオーダ王家のもの。断りなく掲げることはいかがなものか」

 聖堂の奥の気配が動くのをクリストフェルは感じた。


 石を張った聖堂の廊下を歩いてくる音が聞こえる。身を隠して何かを仕掛けてくる様子はない。聖堂の入り口に姿を現したのは長身で立派な体躯の持ち主であった。

「そなたはマーレ様の・・・ティオーダの血をひくものか」

 ぼさぼさの前髪から鋭い眼光でリッツァを観察している。

「ええ。私の母はマーレ。亡国ティオーダの王女であったと聞いています」

 そう聞いた男は突然片膝をつき、左手を胸に添えて頭を下げた。騎士が主にとる礼である。リッツァは男の様子をじっと見守っている、警戒を解かず腰に佩いた剣に手を添えている。

「マーレ様の姫君でしたか。よく似ておられます」

 男はリッツァを見つめて目を細める。男に続いて数名の男たちも聖堂から出てきて同様の礼をとっていた。

「そういうあなたは何者です。」

「わたしは亡国ティオーダにてマーレ様付の守護騎士隊の隊長を拝命しておりましたヨアキム・ハハリと申します。」

「そのヨアキムがなぜ集落を襲い、人を攫ったりするのです」

 リッツァは怒りをあらわに、ヨアキムに詰め寄った。

「国が落ち、その国を取り戻すため、その旗頭となろうマーレ様を探し彷徨ううちに我々は目的を失い、このような姿になり果てました。人を攫ったのは我らの身に起こったことをこの国の者たちにも味あわるという醜い復讐心からでした。集落の者たちには何の罪もないというのに。姫君が現れた時雷に打たれたようでした。貴女の尊顔を拝したときにこの醜態に身の縮まる思いでした。まるでマーレ様が我々のこの姿をみて、嘆いておられるようでした。我々は誇り高いマーレ様の守護騎士隊だったのです。私の後ろに控える物は皆守護隊に身を置いた者たちです。」

 ヨアキムがリッツァへ騎士たちが落ちていった状況を淡々と述べた。

「ヨアキム、そして母を守ってくれた騎士の皆さんに言うことではないかもしれませんが、貴方方の行為は許されるものではないわ。まずはあの集落にさらった人たちを返しなさい。そして、火を放ち、崩れ落ちた家を元に戻しなさい。それが出来ますか。出来ねば、貴方方を断じなければならないわ」

 真剣な表情でリッツァはヨアキム達に告げる。

「御意。我らは姫君に従います。異論はないな」

 後ろに控えた者たちに声をかけ、否という声が上がらないことでリッツァに恭順の意を伝える。

「では、攫われた者たちと共に集落へ参りましょう。償いを終えたら、ヴァーリフェルト領を訪ねなさい。領内にはティオーダの方たちが多く暮らしています。本来であれば自警団へその身柄を預けるのですが、自警団が動かないようなので、これでいいわよねクート様」

 草むらに潜んでいるであろうクートにリッツァは声をかけた。クートは草むらから姿を現すと、それでいいと思います、と答えた。


 聖堂内の一室に閉じ込められていた女子供たちを解放し、ヨアキム以下元騎士隊の者たちを引き連れて集落に戻る頃には東の空が赤く染まっている。夜明けがそこまでやってきていた。

 クリストフェルは集落の者たちにもティオーダの遺臣にも彼らにとっての夜明けが来ることを願っていた。


読んでいただきありがとうございます。

更新が遅くて申し訳ないです。


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