表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

7.狼の左手

「原さん、大丈夫ですか?私です。関口です。」

「関口さん・・・あなたはいったい・・・。」

「はい、見ての通り、私はワーウルフです。」

その狼は間違いなく、遺伝子科の関口だった。

その眼は紅く光ってはいるものの、どこか

人間のような暖かさを持っていた不思議なまなざしだった。


僕に襲いかかっていたワーウルフたちは

既に遺伝子科の関口の後ろに立っていた。


靴には穴は開いたものの、足には傷一つない。

それだけ関口さんの指示が早かったのだろう。


関口さんは再び口を開く。


「この腕を見てください。」


と、関口さんが左腕を見せた。


するとそこには、狼の形をした紋章が刻まれていた。


「この紋章は、ワーウルフの苦しみから人類を解放するための組織の紋章です。

 生まれた時からワーウルフである私だからこそ、この組織に

 ふさわしいと、12歳に入隊させてくれたのです。

 信じがたいことですが、私は破壊と殺戮を望むために

 ワーウルフの姿をしているのではありません。

 あなたに真実を告げるために、ワーウルフの姿で

 あなたの前に現れたのです。」

「・・・・。話がよく見えてきませんが、

 つまりは僕を助けるために来たってことですか?」

「そういうことになります。

 ここも危険です。早く逃げましょう。」

「に、逃げるって、どこに?」

「組織の研究室が存在します。そこなら安全ですので、

 そちらへ大急ぎで向かいます。これを体に打ってください。」

と、差し出してきたのは1本の注射器。

当然、訳も分からずに差し出された注射器を何のためらいもなく

自分に打つこともできない。

「これはなんですか?」

「これは一時的にワーウルフの姿になることができるウイルスです。

 あなたの体には既にワクチンを打ってありますので、

 今回は最新型のを使用します。これを打てば車を使用せずとも

 すばやく移動することができます。」

「車を使うのはダメなんですか?」

「はい、車では騒音が大きすぎますし、走れる道が限られます。

 ですが、ワーウルフであればどこだろうと全速力で駆け抜けれますし、

 小回りも利きます。ワーウルフになった経験をしたあなたなら、

 そこまで大きな症状は現れないかと思います。」


そういって、早く注射を打つように促してくる関口さん。

僕は仕方なく、おぼつかない手つきで注射器を自分の体へ打ち込んだ。


すると、突然左手から強い力が籠めはじめ、

瞬く間に灰色の毛におおわれた。

それだけではない、足も、胴体も、顔も、全てが

狼の姿へと変わっていったのだ。


しかし、今回はちゃんと自我も存在する。本能も抑え込めている。


「気は確かですか?」

「はい」

「では行きましょう」


そういった途端、関口さんは全速力で階段を駆け下り始めた。

僕もその後を追うが、関口さんは異常に速い。


僕とは比べ物にならないくらいの跳躍力で、

壁を乗り越え、屋根を駆け上がり、

すぐに止まってこちらの様子を伺った。


僕はなんとか関口さんの元にたどり着けたかと思うと、

すぐに走り始めた。


自我が持てているがために恐怖心が心を支配している関係上、

昨日ほど素早く移動することはできないが、

確かにこちらのほうが車より効率がいいかもしれない。


数十分後、強い疲労に襲われながらも、

何とか目的地と思わしき場所にたどり着いた。


その場所とは、かつて訪れた集落のゴミ捨て場だった。


関口さんはためらうことなく、

ゴミ捨て場の角に向かい、あるスイッチを押した。


すると、ゴミ捨て場の中央が突然動きだし、

中から階段が現れたのだ。


僕は非日常的な光景に唖然となったが、これが現実であるということを

すぐに受け入れていた。これが当然のことであるかのように。


ゴミ捨て場のハッチがすべて開き切ったところで、

関口さんがゆっくりと階段を降りはじめた。


僕もその後を追うが、階段は真っ暗で、

場所を把握することができない。

なんとか指先足先の感覚だけを頼りにゆっくりと降りて行ったのだが、

案の定、足を踏み外して危うく階段から落ちかけた。


「大丈夫ですか?」

関口さんはこちらの様子が見えているかのように

素早く態勢を立て直させてくれた。


その後もゆっくりと階段を下り続け、

ようやく一筋の光が見えてきた。


そこからはあまり聞きなれない音が聞こえてきた。

機械の操作音。聞きなれない単語の連続。

そして動物がもがき苦しむ様な声。


入口へたどり着く。これで一息つくことができるのか。

そう思ったが、その中は想像を絶する光景が広がっていた。


人一人分ほどの大きさのカプセルが大量に並べられ、

その中にはワーウルフがいたのだ。

中には暴れ続けるワーウルフもいるが、

その抵抗が意味のないことだとわかると、すぐに抵抗をやめていた。


そしてその下には、関口さんの左腕の紋章と同じデザインが施された

白衣を着た科学者たちが十数名、そのワーウルフの様子を伺っている。


「ここは一体・・・」


僕がそういうと、関口さんは冷静に答えた。

「ここはワーウルフの人体実験場です。

 ワーウルフの遺伝子を再構成するためには、

 一度その体を破壊しないといけないのです。

 現在は破壊の第一段階で、まずワーウルフを

 こん睡状態にする必要があります。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ