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2.医師からの宣告

それから三日間、僕の人生は急に生き生きとしたものになっていた。


上司の声でさえなぜか明るく聞こえ、

昼食がとてもおいしく、目に入る情報すべてが、

自分の足しになるかのような感覚に襲われ、

気持ち悪いくらいに充実していた。


だがその次の日、その充実した毎日は打ち砕かれようとしていた。



休日の朝10時、いつものようにテレビをつけようとしたとき、

一本の電話がかかってきた。

例の心療内科からだ。

「もしもし、原です。」

「もしもし、こちら心療内科の友部というものです。」

「はい」

「えー、以前こちらで診断をしまして、その結果が出たので、

 一度こちらの病院へ再度お越しください。」

「わかりました。」


あの楽しすぎた3日間の影響で、心療内科へ行っていたことなんて

すっかり忘れていた。


電話で聞いた通り、例の心療内科へ足を踏み入れた。


「原 詩狼さん、2番へお入りください。」


その声と共に立ち上がり、

2番の部屋へ入った。


そこには、以前俺を診察した医者が座っていた。

・・・これらは当然のことなのだが、これら一つ一つでさえも、

記憶としてまじまじと刻まれていくのであった。


「原さん、以前の診察の結果を報告します。」


「左手の違和感に関することから調べた結果、

 あなたの左手は『ウルフハンド』という遺伝子異常を

 起こしている可能性が高いことがわかりました。」


「ウ、ウルフハンド?なんですかそれは。」


「原さん、落ち着いて聞いてください。

 今あなたの体は、左手を中心に、

 狼となりかけている最中なのです。」


「狼になりかけてる?ちょっと言ってる意味が分かりませんが」


「無理もないでしょう。しかし最近になって、

 このウルフハンドという遺伝子異常が急増しているのです。

 あなたもその被害者の一人であるかもしれないのです。―」

「―現在このような症状が確認されています。

 1.周りの音やにおいに突然敏感になる

 2.人に対して怒りや憎しみが突然芽生え始める

 3.体の欲が強くなり、生き生きしたり、逆に追い詰められたりする。

 以上になりますが、これらの中であてはまるものはありませんか?」


「ぜ・・全部です。」


その申告は、あまりにも残酷なものだった。

今すぐにでもこいつの口を引きちぎろうかと思い続けていたが、

人間としての理性がそれを邪魔して、行動にまで至ることは

できなかった。


「今度あなたをもう少し詳しく検査するためにも、

 次は総合病院へ行ってもらうことになります。

 都合の良い日程はいつになるでしょうか。」


―そんなところに行くつもりはない

声に出そうとしたが、全く声に出なかった。

悲しみと怒りに震えた唇は、言葉を発することさえ

ままならなかった。


すると突然、医師は席を立ち、書類を取り出し始めた。

カレンダーでも取り出すのかと思ったら、

何やら古臭い本のようだ。


「原さん。こちらをご覧ください。

 これはかつてこの街に存在した研究所の

 実験によって誕生した、ワーウルフと呼ばれる、

 人間と狼の中間のような生物です。―」

「―だが実際にワーウルフとして誕生した例は

 この1件しか存在せず、それ以外は

 流産、または人間か狼か、どちらか一方の

 遺伝子しか持たずに生まれたかのいずれかでした。

 本来ならば、失敗した被験体は殺処分されるはずでした。―」

「―しかし新人の助手の手違いで殺処分し忘れられた被験体たちは、

 警備員の目を盗んで研究所から逃走しました。

 それ以降、被験体たちはひそかに子孫を残し、

 現在に至るまでワーウルフとしての遺伝子情報を

 現代へ受け継いできたのです。」


「・・・これが何か関係があるんですか?」


「原さん。今あなたが置かれている状況は、今この街を生きる

 人たち全てに起こりうる症状なのです。

 現在その遺伝子異常を完治させたという事例は1件しか

 存在しません。でもこの1件を何年も追い続けて、

 現在も研究がすすめられています。

 もしかしたら、明日にでも治してくれるかもしれません。」


「そんなちっちゃな希望にすがっていられるか!!!」


怒りに満ちたその左手は、鋭い爪を突き立て、

医者が手にしていた本を殴り飛ばした。


その後のことはよく覚えていない。

周りからざわついた声が聞こえたかと思ったら、

僕を数人が取り囲み、救急車へ誘導された。


本を殴った左手の爪には、ひそかに表紙の一部が食い込んで

黒ずんでいた。


いや・・・黒ずんでいたのは爪だけではない。

僕の左手全体が、黒と灰色の毛に包まれていたのであった・・・。

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