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江角千穂の浮気調査日誌

雪の日

作者: 山本正純

これは江角千穂が退屈な天使たちでハニエルと名乗る前の話です。

 江角千穂はいつものように探偵事務所代わりに使っているカフェで電話をかけていた。

「明智さん。浮気相手は分かりました。名前は南静子さん。会社の同僚です。証拠は状況証拠しかありません」

『そうですか。でもたったの一週間で浮気相手を突き止めるなんてすごいです』

 

 依頼人に褒められて江角は微笑んだ。報告も終わり江角はノートを広げた。ボールペンを持ち現在の状況をまとめてみることにしたのだ。そうすることで突破口が見つかるかもしれないと思ったのだろう。

 五分で状況をまとめると彼女はため息を吐いた。

 この一週間彼女は明智さんの周辺人物に聞き込みを行いなんとか浮気相手を突き止めた。

 だが明智さんの浮気は異常なほど完璧だった。分かったことは月曜日と木曜日の夜と週末には必ず浮気相手とデートを楽しんでいること。浮気相手は必ず両手に手袋を着用していること。これは指紋対策だろう。デートの移動にはレンタカーを使用していること。レンタカーを使用すれば妻にICレコーダーを忍ばせられる心配は不要だろう。

 さらに明智さんは常にカメラを警戒している。カメラを向けるとすぐに逃げていく。証拠写真を抑えることも不可能。

 

 この状況の中で江角は考え込み、マスターに相談する。このマスターは口が堅いのでよい相談相手として彼女は重宝している。

「マスター。これは完全犯罪でしょうか。もちろん浮気は犯罪ではありません。でも証拠がなければ浮気を認めることはできないでしょう」

「完全犯罪なんて物は存在しない。必ず証拠がどこかにあるはずだ」

 マスターは正論を話す。やはりこんな依頼を受けるべきではなかった。江角は後悔した。

 

 すると偶然ラジオから天気予報が聞こえた。

『大分県は今夜初雪が降るでしょう。以上天気予報でした』

 天気予報を聞き江角千穂はある奇策を思いつく。

「そうです。その手がありました。証拠がなければ作ればいい」

 

 江角は喫茶店を出ると、依頼人に電話を始めた。

「江角です。もしかしたら今夜浮気の真相が浮き彫りになるかもしれません。もっともそうなるためにはあなたの協力が必要ですが」

 江角は作戦を伝える。

『最初からこの作戦にしてください』

「まあこの作戦は雪が降らなければ成立しませんから」

 それから江角は明智の尾行を始めた。明智は静子と共に遊園地へやってきた。遊園地内でも江角は明智を尾行した。

 

 空も暗くなった午後五時三十分。空から初雪が降ってきた。

「明智くん。雪が降ってきたから今日は送って」

「しょうがないな」

 予想通りの会話が聞こえると江角は依頼人である明智の妻に電話を掛けた。

「江角です。対象はトラップにかかりました。例の位置に移動してください」

『はい』

 明智と南は駐車場に向かい帰った。その後ろを江角はバイクで一応尾行する。

「この作戦の成功は必然でしょう」

 

 八時間前江角は明智妻に作戦を伝えた。

「まず私はあなたの夫を尾行する。あなたは南さんの自宅前に張り込み証拠写真を抑える。もしくは突入でもいいかもしれません。シンプルでしょう」

『ですがそう簡単にいきますか』

「それが簡単なんですよ。今日は雪が降るそうです。男はこのような悪天候の場合必ず女性を家に送る。大切な女性に風邪をひかせたくないからね。その男の優しさを利用すれば完璧な浮気が崩れます。逃げた場合は先回りすればいいだけ。最終的に戻らなければならない場所に」

『最初からこの作戦にしてください』

 

 江角の推理通り明智は南を自宅の前へ送った。

「じゃあね。明智君」

 南の後ろ姿を見ながら明智は微笑んだ。車を返しに行こうと思った瞬間、カーウィンドーを叩く音が聞こえた。彼が横を向くとそこには妻の姿があった。

「なんでお前がここにいる」

「さあ。浮気症のあなたに教えるわけがないでしょう。探偵さんに教えてもらった方法で痛みつけるとしましょうか」

 彼女は懐中電灯で車内を照らし、切り札を発見した。

「やっぱりあった。助手席に雪が。さあ説明してくれる。なんで助手席に雪が残っているのかを」

 夫は白状した。

「俺が悪かった。ごめん」

 軽い吹雪が吹く中で夫婦喧嘩が始まった。


ウリエル予告編

「皆さん。到着しましたか。それでは狩の始まりです」


オールスターキャスト総出演 混沌とした世界の中でシリーズ第十弾 警察不信 4月2日 連載開始

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