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悪魔と暮らそう  作者: ふとん
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こんにちは

このお話は『とりかえっこ漫遊記』の「三つ編みとドロップキック」辺りから始まるラウヘルさんと葉子さんの新婚生活を追いかけたお話です。

ほのぼのラブコメとしてお楽しみいただけるかもしれませんが、本編を未読の場合は意味のわからない事柄も多数登場します。ご注意ください。

 不可抗力で異世界に落ちて早一年。


 七難八苦を乗り越えて、目的地であった東国に辿り着いた葉子を待ち受けていたのは、歓迎と耳を疑うような結婚話だった。

 

 彼は、東国では一般的なゆったりとしたチャリムを着こみ、長い袖を背中で結ぶようにして腕を組んで葉子の前に影のように現れた。

 

 この男こそ、葉子を異世界に落とした張本人であり、彼女に振りかかった七難八苦の六割がたを引き起こした元凶であった。

 仕えるべき王を裏切り、戦を起こし、多くの人を欺きながら、己は決して表には出ず、人心を惑わして思う様に操る様子はまるで悪魔だ。

 葉子自身も彼の引き起こした戦に巻き込まれ、耐えがたい傷を負った。


 そんな男が、葉子を妻に迎えたいという。

 頭の回路がとっくの昔にいかれていると思われるのに、どこをどう間違えて今まで躍起になって殺そうとしていた女を嫁にしたいと思ったのだろうか。

 プロポーズした本人以外誰も理由など一つも分からないというのに、葉子に拒否権はないという。

 知己である一国の王に今にも死にそうな顔で頼みこまれては、さすがに断る言葉も迂闊に出せない。

 いわく、葉子を妻に迎えれば、かの悪魔が大人しく国に飼われてくれるというのだ。

 毒を食らわば皿までとはよく言ったものだが、はたしてこれほど滑稽な話があるだろうか。

 世界中をその手の上で転がした悪魔の手綱が何の取り柄もないただの異世界から来た女に託されるのだ。

 確かに使える物は何でも使えとも言うが、馬鹿ともハサミともつかない男にこれまた偶然の重なりで生き延びてしまって処遇に困った女をめあわせて、一体何がしたいのか。



 悲壮な顔の国王との謁見の後、葉子はどんな抵抗もできずに悪魔の屋敷に招かれることとなった。

 彼の伏魔殿は主都の郊外にひっそりとある。

 屋敷の周囲は暗い森がぐるりと囲んでいるが、屋敷をなぞるようにだだっ広い草原が広がっている。脱走でもしようものならどこからでも丸見えということだ。

―――試しに脱走を試みたところ、どうにか森まで抜け出したが暗い森に阻まれてしまった。


 伏魔殿に相応しく、ほとんど顔色を変えない使用人たちに連れ戻された葉子は屋敷の主が一日の大半居座っているシガールームに放り込まれた。

 いつものように暗い色のチャリム姿の彼はゆったりとカウチに腰かけたまま、部屋の端から遠慮なく自分を睨みつける葉子に苦笑するように煙管から煙を吐いた。


「とうとう森まで脱走できたようですね」


 葉子は煙草の煙の臭いが嫌で意思表示に手で仰いでみるが、目の前の悪魔が煙草の火を消してくれることは無い。ここ数日で学んだことだ。


「でも明日からは止めてくださいね。花嫁衣装の仮縫いが始まりますから」


「はぁ?」


 葉子の素っ頓狂な声に男が小首を傾げるので、彼女は自分の疑問をそのまま口にする。


「結婚式なんてやるつもりだったんですか?」


 葉子と彼の間に愛情はない。あるのは謎と利害だけだ。葉子は彼の思惑を知らないが、彼の申し出を受け入れて養ってもらう以外に行く宛てがない。

 心底頼み込めばどこでも行くあては見つかるはずだが、現状ではこの悪魔の足元に居ることが最善だと思われたのだ。選択肢が無い。

 だが、悪魔の方はそうではない。無数にあるカードからどういうわけだか葉子を妻にと望んだが、養ってくれるだけだと思っていたのだ。


「約束したはずですよ。あなたに決して手を出さない代わりに、何物からも守り、どんな願いも叶えると」


「……花嫁衣装が着たいなんて一言も言ってないはずですけど」


 城から屋敷へ向かう途中、彼は三つの約束をした。

 葉子には手を出さない、何からも守る、そして願いはすべて叶える。

 どうして葉子にとって破格の約束をするのかも分からない。


「私が結婚式を挙げたいからですよ」


 すべてが謎の男だが、彼が勝手をしないという約束はない。

 そして養ってもらっている手前、葉子には限りなく拒否権がなかった。


 優雅に煙を吐いている煙管を叩き折りたい気分で、葉子は利害だけで夫となる悪魔を睨みつけた。


 彼は、ラウヘルと名乗った。    

 

 赤銅色の髪を三つ編みにしたその男は、東国ではあまり見かけない眼鏡をかけている。微笑みのない瞳が血の色のようで、その冷たいばかりの眼光が印象に残ったが、よくよく見れば驚くほど整った顔立ちの男だ。

 しかし彼は道化のような微笑みを絶やさなかった。 


 まるで、己を嫌うように。




チャリム:小説内での造語。アオザイと着物を合わせたような東国での一般的な民族衣装。

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