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怪談集

怪談:お裾分け

作者: 下降現状

これもまたあまり怪談っぽくはないですね。

 私の隣人であったNさんの話をしよう。

 Nさんは二十代半ばの男性で、アパートでは私の隣室に住んでいた。今時の若年男性にしては珍しく礼儀の正しい人で、通りすがる度に挨拶をし、他の住人との折り合いも良かった。

 アパートの掃除当番等もサボることはなく、田舎から送られてきたからとか、ちょっと買いすぎてしまってとかの理由で食べ物のお裾分けも多く持ってきてくれていた。

 Nさんは友人も多いらしく、たまに友人数人が泊まりがけで遊んで行ったりすることもあった。そういう事がある日は、前日には私に断りを入れ、後日謝りながら何かお裾分けを持ってくる。そういう、気が効いた人だった。なるほど、友人が多いのも頷ける話だ。

 そんなNさんの様子が、ある時からおかしくなった。いや、それは正確な言い方ではない。おかしくなったのは、Nさん本人ではなく、Nさんの部屋なのだ。

 異臭、と呼べばいいのだろうか。

 据えたような臭や、夏場、台所の三角コーナーのような何かむせ返るような臭がするのだ。

 アパートで初めに気づいたのは私だった。ベランダ越しに、臭ってくる。Nさん本人に聞いてみても、心あたりがないという。

 匂いはやがて廊下にも漏れてくるようになり、私以外の住人もそれに気付き始めた。

 Nさんが逮捕されたのは、三日後の事だった。

 Nさんは人を殺して、それを解体して冷蔵庫に入れていた。風呂場は血と肉が散乱し、まさしく地獄のような有様だったという。冷蔵庫に入りきらない肉が腐り始めたのが、異臭がする原因だった。

 殺されたのは彼の友人の一人。そう言えば、この前深夜遅くまでNさんの部屋から音がしていたことがあった。友人でも泊まりに来ていたのだろうかと思ったが、前日に特に断りがなかったこともあって、一人で音楽でも聞いているのだろうとばかり思っていた。後日、人が帰った様子も無かったことから、きっとそうだったのだろうと思っていたが、こういうことだったのか。

 Nさんはその友人との間に金銭関係のトラブルがあり、その友人を衝動的に殺害してしまったのだそうだ。

 死体の処理に困ったNさんは、兎に角死体をバラバラにすることにしたのだそうだ。しかしバラバラにした所で、トイレに流したりしてしまっては、何かの切っ掛けでバレるかもしれない。

 そこで、Nさんはバラバラにした人間を肉として処理することにしたそうだ。食べてしまえば、容積は少なくなる。

 彼が人肉を食べていた証拠として、冷蔵庫の中にあった人肉を全部足しても、風呂場に残った人体から消えた分量には足りないらしい。

 なんとまぁ、恐ろしい人間が隣人として、それも感じの良い人間として住んでいたものだと、私は思わざるをえない。

 ……と、ここまで語って、私はあることを思い出してしまった。

 ニュースで見た犯行日時の翌日、Nさんが私のもとに来たのだ。お裾分けを持って。

 実家からたくさん送られてきたんですが、食べきれなくて――

 そう言いながら彼が手渡してきたのは、確か肉ではなかったか。

 私は確かあの肉を……

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