幸福の条件
啓介は目覚めたらそこは知らない世界
白い鳥のノルムと黒い狼のセルガディアが最初から存在する
ノルムは脱出の案内をする白い鳥
セルガディアは邪魔をする黒い狼
俺の名前は啓介。
目覚めたとき、空はすぐそこにあった。
「ここはどこだよ」
夢の中かな
白い羽が一枚、空からひらひらと落ちてくる。
地面に触れる前に、それは鳥の形になった。
「私の名はノルム」
白い鳥は微笑むように羽を揺らす。
「迷うあなたを、助けるためにいる」
そのとき、影がひとつ増えた。
啓介の足元に、黒が滲む。
「我が名はセルガディア」
地面を踏みしめる音だけが重い。
「お前の邪魔をする、狼だ」
なんなんだ一体
ノルムは耳元で囁いた。
「ここは長くいる場所じゃないよ」
「急がないと、あなたは自分のことを忘れてしまう」
忘れる?
何を。
俺はもう、ほとんど覚えていないのに。
「分かった。じゃあ、行こう」
早くここを出たい。その一心だった。
一歩踏み出した瞬間、鋭い痛みが走る。
「痛っ」
足元には黒い狼。
セルガディアが俺のズボンを噛んでいた。
「急ぐな」
低い声。地面のように重い。
「狼さんさ、悪いけど邪魔しないでくれ」
ノルムは振り向きもしない。
「気にしなくていいよ」
「あれは、あなたを怖がらせるためにいるだけ」
もう一度、痛み。
さっきより強い。
「やめてくれよ……」
は、ゴールまで案内するノルムの後ろをついていくことにした。
その瞬間、右足首に痛みが走る。
セルガディアがまた噛みついてきたのだ。
「痛いって!やめろよ」
自分の足を噛む狼に、思わず苛立ちがこみ上げる。
「ここから動くな」
低く響く声でセルガディアは目で威嚇するように睨んでいる。
ノルムは振り返らず、静かに囁いた。
「セルガディアは、あなたが去ってしまうのが寂しいんだよ」
「目的地まではもうすぐだから、進もう」
「休むことなく進めば、君はすぐに帰れる」
俺は、言われた通りに歩みを進めた。
足元の黒い影が噛みつく痛みと、空に浮かぶ白い羽の温もりを感じながら
「ノルム 疲れたよ」
さっきから噛まれた足首がズキズキと痛い
「我慢して歩こうよ」
うん
歩くか さっさとここから出たい
「早く帰りたいから進もうか」
帰る?
「帰らなくていい」
セルガディアは俺の事を引き止めるが無視して歩き続けた
ノルムは元気に歩いたり、時々飛んだりしてる
「君は悩みとかないの?」
ノルムは不意に質問をしてきた
「記憶がないからわからない」
セルガディアに噛まれた足首を見て思い出した
「帰っても辛い事が待ってる気がする」
戻っても足が痛い感覚は残ったままだ
「どんな生き物も悩み事は一つや二つ持ってるんだし 君は頑張るべきなんだよ」
鳥のくせに言葉が巧みに歩かせようとするのは賢いんだろうな
「お前はダメな奴なんだから きっと帰っても後悔するぞ」
俺はダメな奴なのを知っているのはなんでだろう
ノルムが質問した
「君は帰りたいの?それともここで私とセルガディアと残りたいの?」
ノルムと羽からいい香りがする。
セルガディアは自分の鼻に噛みついた
「俺の事を食いたいのかよ」
噛みつかれた鼻は痛みはなかったが違和感がある。
鼻水を流している感覚だ
「急いで進まないと君は帰れないよ」
ノルムは急がせようとする。
「お前は帰らなくていい」
俺を引き止めるセルガディアを見てると何かを思い出す
「私は君の辛い記憶を思い出させない為に救済したいから急ごうよ」
救済?
これは夢ではないと確信した
セルガディアに噛まれた痛みが記憶を呼び起こす。
俺の名前は啓介で長年付き合ってた彼女に振られたんだ
長年付き合っていたからか、衝動的に辛くて飛び降りたんだったな
セルガディアは再び足を噛みついた
「お前は痛みに耐えなければならない」
ノルムは鳥の姿から大釜を持った黒いフードを着た死神に変身した
「一度死を決めたらそのまま無になるべきだと思うけどなぁ」
セルガディアも姿を変えた
俺の飼い犬だったクロだ
愛犬だったクロは俺が学生時代に病気で延命して死んだ
とても悲しかった
「ノルムは君をあの世に連れていきたいんだ」
「君は目覚めても飛び降りた後遺症で足が不自由になるんだよ」
ノルムは大鎌を振っている
「飛び降りた時に足から着地したから帰っても歩けるかどうかのリハビリ生活が待っているがいいのかい」
クロは自分の顔を舌でなめた
「リハビリをすれば元通りになるからこのままここで待てば意識は回復するよ。そこからちょっと辛いけど僕の病気に比べたら楽勝だよ」
ノルムはクロに大鎌で攻撃をしようとするものだから自分が身代わりになった
「病気で散々苦しんで死んだクロをそんな大きな鎌で暴力はやめてくださいよ」
長年付き合った彼女で失恋した事で飛び降りたんだった
「リハビリを続けて足は順調に回復して君は寿命が尽きるまで生きるんだ」
クロは自分に生きる選択を選ぶようにすすめる。
「私はお前にリハビリで回復したとしても、失恋の傷までは癒えない。いっそ楽に無になったほうが幸せじゃないか?」
「クロ、ありがとうね。俺に引き止めてくれて」
あ、そういえば俺は飛び降りる直前にクロの事を思い出していた。
飛び降りたら無になったとしても、可愛がっていた愛犬のクロと再会したいと最期に想って飛び降りたんだったな。
「僕は啓介を救いに来たんだよ まだ死ぬのは早いんだ」
「生き物は生きた時から必ず死に直面するけどさ 君は生きるべきなんだ」
「僕が病気で辛かった時に君は心配してくれたよね」
「死んだ後もずっと涙を流してくれたよね」
「君には生の執着があるんだ 足が良くなっても良くらなくても君は生きるべきだよ」
「ノルム 俺は生きていたい 衝動的に飛び降りたのを後悔してるよ」
「お前の足の後遺症がずっと残ったとしてもか?」
「そいつの言う事は何も聞かなくてもいい」
クロはノルムの話を遮る
「君の足は必ず良くなる 人生諦めたらダメだよ」
「そうか お前は病気で散々苦しんでも頑張って俺に元気な姿を見せてくれたもんな」
クロが死ぬ前日に俺の部屋で足を引きずって俺の顔をなめてくれた
食欲もなく水も飲めない状態なのにクロなりの最後の別れだったんだろうな
「君は優しくしてくれたからね 好きだったよ」
俺もクロというミックス犬が好きだった
失恋で悲しみで衝動的に飛び降りを選んだが、最期にクロとの思い出を思い出すぐらい好きでまた会いたかった
「わかった それなら目を覚まさしてあげるが、覚悟はいいか?生きる事は辛い事だぞ」
死神ノルムは大鎌を自分に振りかざそうとする
「ノルムありがとう 生きてみるよ」
「クロ 次はいつ再会出来るんだ」
「君が自ら死を選ばないで寿命が尽きたらまたここで会えるよ 楽しみに待っているよ」
俺は生きる選択を選んだ
短編小説で書いてみる事にしました。
啓介には記憶がない状態で目覚めたら自分の知らない世界
ズボンにはスマホも何もない
記憶力も欠けてる為に急いでここから抜け出そうという展開です。




