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すれすれの話

〈暖かさ見知らぬ小鳥よしとせん 涙次〉



【ⅰ】


薩田祥夫- 云はずと知れた日本初のエクソシストであり、【魔】退治の面のカンテラの「友」である。また彼は、* テオに洗禮の祕蹟を授け、敬虔なクリスチャンとさせた張本人であつた。果たして、猫(テオの事)、天才猫とは云へ、をイエスは救ひ得るのだらうか- と云ふ問ひに、自信を持つて「イエスの愛は遍く廣やかなのです」と答へる事が出來るのは、長きに亘るカトリック史上に於いて、彼一人だつたらう。彼はまた、ルシフェルにも洗禮を受けさせ、嘗ての魔王と云ふ履歴を、悔ひ改めさせやうと夢見てゐた。



* 當該シリーズ第29話參照。



【ⅱ】


そんな彼の司祭としての活動に、彼の受け持ち管區の上司である司教がいちやもんを付けて來た。何せ、エクソシストとしての己れの力を髙める爲に、* 修驗道の大峰千日回峰行に挑戰し、見事成し遂げた薩田である。「異教に迄手を出してゐる事、これは間違ひなく、異端であらう」と云ふ譯だ。司教はヴァチカンの法皇廳に連絡を取り、「彼ニハ異端ノ疑ヒガアル」と云ふ答へを得てゐた。法皇廳から、カトリック界ではお偉いさんである使ひの者がやつて來て、即席だが異端審問が行はれる運びとなつた。「汝、眞實ノきりすと者ナルヤ?」-薩田「勿論です。イエスを裏切つた事はありません」。ところが、余りに堂々と薩田が自分の主張を展開させたのがいけなかつたのか(彼は靜やかに見えても熱血漢であり、己れのエクソシストと云ふ職掌には自負の心を持つてゐた)、彼は職務を解かれ、その日から「異端」のレッテルを貼られねばならなくなつた。



* 前シリーズ第146・147話參照。



【ⅲ】


件の司教は、「目の上のたん瘤」である薩田が去り、せいせいしたやうだつた。カンテラはお節介かな、と思ひつゝも、その司教を成敗した。-即ち、斬つたのである。「薩田さんの熱意をおもんぱかる事なく、『異端』はないだらう。あんた、斬るよ」-と云ふ經緯で、司教は「殉教」した。



※※※※


〈側溝に吸ひ殻捨てる彼はまた街の掟に生きる者なり 平手みき〉



【ⅳ】


薩田は寧ろすつきりした顔だつた。先の司教は、彼自らの生命を以て罪を償つたのだと、さう思ふ事にした。「カンテラさん、仕事をしてくれたのに惡いんですが、私には持ち合はせのカネはないのです」-清貧に甘んじてゐる薩田らしい事ではあつた。カンテラ「カネの事なら、いゝんです。俺の一存で斬つた迄ですから」。薩田は内心(これで信教のいづれを問はず、【魔】に憑かれた人々を救ふ事が出來る)と思ひ、「日本エクソシスト教會」なる、彼獨自の教會を、打ち建てた...



【ⅴ】


何処でその事を嗅ぎ付けたのかは知らないが、すつぱ拔き専門の週刊誌が、「カンテラ一味に強敵出現!?『エクソシスト』の教會が!!」と書き立てた。「あはゝ、良い宣傳になつて好都合だ」と、薩田は全く意に介さない。(ず太いやつちやなあ)とカンテラ、半ば呆れ、また感心した- 。週刊誌のお蔭で「エクソシスト教會」には、信者になりたい者らが殺到した。



【ⅵ】


かうなつて來ると、薩田は新興宗教の教祖と何ら變はるところがない。統一教會の問題で、政局が揺れてゐる昨今、困つた事だ。テオ然し、薩田に着いて行く手筈を整へてゐた。猫に迄、救ひの手を差し伸べてくれる彼のやうな人は、他にはゐない。薩田は自分の「教會」を設けてからと云ふもの、ルシフェルの許に日參した。皆さんご存知だらうか? ルシフェルは仲本堯佳と云ふ別のペルソナを持つてゐた。仲本は警察官僚であり、コワモテの利く男なのであつたが、彼に憑依したルシフェルは、迷惑がるどころか、薩田の熱意には密かに脱帽してゐた。「大天使であつた過去をだうか思ひ出して下さい。イエスはそんな貴方を決して手放しませんぞ...」



【ⅶ】


で、前述のすつぱ拔き週刊誌、今度は「『魔界健全育成プロジェクト』担当官、新興宗教にハマる!?」と來た。カンテラは二度手間を厭ひながらも、週刊誌主筆を斬つた。「うるせーんだよ、貴様。しええええええいつ!!」。え゙、そんなの「言論の自由」に脊くぢやないかつて? それはカンテラに云つて下さい。私、永田は知らない・笑。



※※※※


〈春未だ萌芽に過ぎぬ梅のごと 涙次〉



【ⅷ】


こんなふうに、薩田との友誼はカンテラにとつてこの上なく大事なものなのであつた。元より「言論の自由」度外視は、カンテラの本意、願ふところではない。それだけは知つて置いて貰はう。何やら變テコな具合ひに話は轉がつた。永田の書くべき事は以上である。それでは。



 PS: 薩田は「殉教」した司教を、祝福した。差し出がましいやうであつたが、聖者として扱ふ事、ヴァチカンに申し出た。嘗ての敵をもそのやうに手厚く葬る事が出來るのは、幾ら彼が「教會」を設立し獨立したとしても、變はらずキリスト者である事の、一つの証左であつた。


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