ミスラブレタ―
一一八五番のロッカー。そこには三通のラブレターが入っている。
昨日より合計一通増えているそれに、羊山千代は深いため息をついた。
「……今日も入ってる」
一日一通のラブレター。三日前から続くこの行為は、千代が常駐しているIT会社内の誰かの仕業だ。しかし差出人の名前もなければ、ロッカーに入れる瞬間も見たことがないため、特定できていないのが現状である。
花柄の女性らしいラブレターの封を開けると、丸っこい文字でたくさんの愛が綴られていた。そして最後に、「ねぇ、どうしてお返事くれないの? わたしだって鎌倉幕府くらいわかるよ、馬鹿じゃないもん!」と書かれている。
……意味がわからない。
その文字から伝わってくるのは、怒りというより構ってほしいという思いだ。だが、おそらく伝える相手を間違えている。それは千代ではなく、真の想い人に告げるべき言葉だ。
千代は再度ため息をついた。
この会社は社員だけでなく、千代のような客先常駐のエンジニアにもロッカーを貸し出してくれる。扉付きタイプでそこまで広いわけではないが、ダイヤルロック式であるためセキュリティも申し分ない。上部にポストのような細長いメール穴が存在し、そこに社内回覧板などを差し込める便利な仕様となっている。だが、今回はこの便利さが裏目に出た。
この差出人を、仮にミスラブレターとする。ミスラブレターはほか社員にばれないようこのメール穴を使って、千代のロッカーに毎日手紙を投函しているのだ。
加えて、手紙の内容からロッカーを間違えていることは確実。鎌倉幕府の話など高校生以来したことがない。
千代は自分とは正反対の可愛らしい文字を指でなぞった。どんな内容であろうと想い人への気持ちがこもっている手紙だ、できることならミスラブレター本人に返してやりたい。が、尋ねて回ればきっと社内で噂になってしまうだろう。そうして名乗り上げにくい状況になったら本末転倒である。
千代はロッカーの扉裏にある手のひらサイズの鏡に視線を向けた。映るのは疲れ切った顔の女性だ。
顎までの黒髪に、不健康そうな色の白さ。アーモンド形の目はむくんでおり、普段の半分ほどしか開いていない。肉付きのいい顎と頬からもわかるように、体もふくよかである。生まれてこの方、痩せていた時期がないのは悲しい自慢だ。無地の白いシャツから伸びる首も肉のせいで太く見えてしまう。
むくんだ顔を軽くマッサージしていると、朝の挨拶が次々と千代の耳朶を打った。壁にかけてある時計を見れば、針は始業十分前を指している。多くの社員が出社してくる頃合いだ。
千代はばれないよう手紙をロッカーの奥へしまい、貼り付けた笑みで朝の挨拶を告げた。
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