第5話 商人への道
『どの乗り物も1日が終わると一定の燃料が供給されます。燃料の量やその燃料で走れる距離はその乗り物ごとに異なります』
「なるほど、それは便利だ」
軽油、ガソリン、乗り物によっては重油なんかで走るものもある。異世界でそんな燃料が手に入る気はしないからありがたい。
「供給される燃料の量によっては一日で少ししか走れない場合もあるわけか。その場合は数日間貯めてから走るというわけだな」
『その通りです。さすがマスターですね』
乗り物によっては一日乗ったら数日休ませなければならない種類もあるわけか。そうなると何種類か取っておかないと毎日連続して走り続けることができないかもしれない。たとえば10キロは車で走って、燃料がなくなったら大型バイクでまた10キロ走るといったふうに何度も乗り物を変えて走るわけか。
どれくらいの距離が走れるのかは実際に開放しないとわからないようだ。
「とりあえず当面の目標は決まったな。まずは商業ギルドに登録して、荷物を輸送する依頼を受ける。マウンテンバイクであと19キロ走って原付を手に入れる。そのあとは新しい道を走って別の街を目指して移動しつつ、お金とポイントを貯めていくといった感じだ」
『はい、承知しました。全力でサポートします』
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ふあ~あ……。うん、やっぱり夢じゃなかったか……」
目を覚ますとそこには知らない天井があった。やはり異世界に転生したということは間違いないらしい。
『おはようございます、マスター』
「おはよう、ノア」
そして横には俺の能力でもあり、相棒であるノアがいる。もうここが現実となってしまったんだなあ。
『マスター、大丈夫ですか? あまり顔色が優れておりませんが……』
「ああ、大丈夫だ。少し故郷のことを考えていただけだ。もう吹っ切らないとな」
昨日の夜寝る前にベッドの中でも、元の世界のことについて考えていた。いきなり心不全で死んだと言われても、いろいろと考えることはあった。
『……元気を出してください、マスター。私が付いております!』
「ありがとうな、ノア。そうだな、ノアも一緒にいてくれることだし、俺はこの世界で頑張って生きていくよ!」
ノアにまで励まされてしまった。いきなりこんな異世界へ転生してきたが、俺の味方で話し相手になってくれるノアがいてくれたことは不幸中の幸いだ。さすがに誰も知り合いがいない異世界に一人きりだと病んでいたかもな。
ぶっちゃけ俺はこれまでかなり自由に生きてきたし、彼女なんかもいない。両親や兄、親しい友人にもう会えないということは寂しいが、それなりに楽しんで生きてきたから悔いも少ない。せっかくこれまでの記憶を持ってこの世界へ転生してきたわけだし、いろいろと吹っ切って第二の人生を謳歌するとしよう!
……一番大きな心残りは家に残して来たPCなんだよなあ。こんなことになるのなら、もう少しPCを人に見られてもいいように整理しておくべきだった。信じているぞ、兄さん。俺がこれまで貯めてきたお金は自由に使っていいから、どうか俺のPCはそのまま起動することなく闇に葬ってくれよ……。
「よし、これで今日から俺も商人だ!」
俺の手元には金属でできたカードのようなものがある。
宿で朝食を取り、早速商業ギルドへ赴いて金貨1枚の登録料を支払い、商業ギルドへ登録した。幸い商業ギルドへ加入する試験は日本では小学生レベルの四則演算ができれば大丈夫だったので、問題なくこの商業ギルドカードを手に入れることができたわけだ。
そしてちょうどよさそうな依頼も無事に受けることができた。まずは荷物を運ぶためのリュックや食料なんかを買ってから依頼人へ会いに行き、運ぶ荷物を受け取るとしよう。
「リュック、水筒、携帯食料。そして小さなナイフ。最低限必要な物はこれくらいか」
『はい、こちらで大丈夫だと思います』
市場をまわって必要な物を購入してきた。とはいえ最低限のものだ。本当はもっといろいろと持っていきたいところだけれど、なにせ金がない。
服に入っていたお金は金貨、銀貨、銅貨が5枚ずつ。商業ギルドの登録料や昨日の宿代や入場税、必要な道具を購入したら残りは金貨2枚ほどしかない。まずは何とかして金を稼がないことには始まらないな。
商業ギルドで依頼を受けて依頼人に会い、荷物を受け取る。本当はひとつの目的地を往復するより、いくつかの村や街を一緒に回った方が新しい道を走れるのだが、初めは複数の依頼を受けることができないらしい。他にも商業ギルドには経験を積んでいないと受けられない依頼が多くあった。
確かに依頼された荷物を持ち逃げする可能性もゼロではないし、ある程度信用を積まなければならないのも道理である。地図のわかるノアが言うには片道でも20キロメートル近くある村らしいので、これで第一の目的である原付を解放できるはずだ。
「よし、それでは出発!」
『はい、マスター!』
門番に商業ギルドカードを見せてから、トリアルの街を出発する。
それほど強い魔物はいないらしいが、何が起こるかまったくわからないからな。油断せずに行こう!




