第3話 初めての買い物と仕事
「らっしゃい! あんちゃん、うちの串焼きはうめえぞ!」
「そこのお嬢さん、うちの店をちょっくら見ていってよ!」
「安いよ、安いよ! 今日は大安売りだ!」
門番さんから聞いた通り、大通りを抜けるとそこは大きな屋台街となっていて、道の両側に屋台が立ち並んでいた。人通りも多く、店側も道行く人たちへ呼び込みをしている。
やはり初めての場所へ行ったら、市場やスーパーをまわるのが一番だ。その国の文化や食生活、どういった服装が好まれて物価の価値などがだいたいわかる。
なぜそんなことを知っているかというと、俺の趣味が旅行だからだ。月一くらいで週末の休みは国内旅行をし、長期休みでは海外旅行へしょっちゅう出掛けていた。
外国へ行くとあまり言葉も伝わらないし、文字も読めない。初めて見る種族の人も多いけれど、下手をしたら今の異世界の方が楽まであるぞ。そう考えると万乗ビークルという能力は旅や旅行好きの俺によく合っている能力なのかもしれない。
「おう、そこの兄ちゃん、うちのワイルドボアの串焼きはうめえぞ。一本銅貨5枚だ!」
屋台街を歩いていると、30代くらいの無精ひげを生やしたおっちゃんに声をかけられた。
ふむ、銅貨5枚か。ここに来るまでにいろんな物を売っている商店を見てきたが、銅貨1枚だと大体100円相当だろう。あれだけ大きな肉を豪快に焼いた串焼きならばお値段相応か少しお得まである。海外で道を歩いているとぼったくる店もあるので注意が必要だが、他の店と見比べてみても問題ないだろう。
「よし、それじゃあ串焼きを一本とそっちの果汁のジュースを頼む」
「あいよ! 合わせて銅貨8枚だ」
おっちゃんが串焼きを一本と何かの植物でできたコップのような器に黄色い果汁の飲み物を入れてくれる。
「それじゃあこれで」
「おう、銀貨1枚で銅貨2枚のお釣りだな」
「ありがとうございます」
先ほどノアに聞いたところ、この国では銅貨が10枚で銀貨1枚、銀貨が10枚で金貨1枚相当らしい。ものすごくアバウトに計算すると銅貨が100円、銀貨が1000円、金貨が10000円といったところだろう。……これくらいの金貨で1万円くらいの価値なら、元の世界なら両替をするだけで儲けることができそうである。まあ、元の世界には帰れないのだが。
「うん、こいつはうまい!」
焼き立ての串焼きにかぶりつくと、アツアツの柔らかい肉から口の中へ肉汁が溢れてくる。味付けは塩のみだが、肉自体がかなりいける。500円くらいの肉とは思えないくらいの味のクオリティだ。
「随分とうまそうに食ってくれるな。この辺りじゃあまり見かけない黒い髪だが、兄ちゃんは旅人か?」
「ええ、そうです。今日この街へ着いたばかりなんですよ」
「おお、そうか。そこまで大きな街ではないけど楽しんでくれよな」
「はい、いろいろと教えてくれると助かります。それにしてもこの串焼きは本当においしいですね。もう一本追加でお願いします」
「あいよ!」
食べ応えもあって味もうまい。ワイルドボアと言っていたからイノシシだろうか? お腹もすいているし、ぜひとももう一本食べたいところだ。それに情報収集もできて一石二鳥である。
……ただ、こっちの果実のジュースはそれほどおいしくなかった。喉が渇いている補正もあって、この味だとちょっと厳しい。日本のジュースと比べると圧倒的に甘みが足りていなかった。
「なるほど。仕事を探すのなら冒険者ギルドか商業ギルドへ行けばいいんですね」
「ああ。日雇いの仕事もあるし、長期の仕事なんかの求人もあると思うぞ」
「ありがとうございます。早速行ってみます」
2本目の串焼きを頬張りつつ、店のおっちゃんに話を聞く。
どうやらこの国にはギルドという仕事を斡旋する組合のような組織があるらしい。他にも鍛冶ギルドや薬剤ギルドなんかがあるらしいけれど、そっちの方は専門的な資格が必要になるようだ。
この服の中に入っていた金額はすべての硬貨が5枚ずつで、今は日本円に換算すると5万円ちょっとしかない。ノアのポイントを稼ぐよりも前に、早々にお金を確保する手段を見つけないとまずいな……。
このあとはギルドとやらへ行ってみるとしよう。
「ふう~とりあえず一息つけたか……」
『マスター、お疲れさまです』
とある宿屋の一室。
硬いベッドの上にゴロンと横になっている。屋台街で昼食をとったあとは冒険者ギルドと商業ギルドへ寄って、どんな仕事があるのかを確認してきた。特に冒険者ギルドの方はすごかったな。弓や大きな剣を身に着け、全身に鎧を身に着けている人が大勢いた。日本だったら銃刀法違反の罪により、秒で通報されていただろう。
あと意外だったのは結構女性の冒険者も多かった。そういえば魔法のある世界だし、あんまり男女の強さというのは関係ない世界なのかもしれない。強面の人たちもいて、絡まれないか少し心配だったが、特に問題なく情報を集めることができたぞ。
そのあとは串焼き屋のおっちゃんに教えてもらった宿屋の集まる場所で宿をとった。夕食付きで銀貨7枚と日本と比べると結構安いお値段だった。最近はどこもホテル代が高騰しているからなあ……。
銀貨3枚くらいで泊まれる安い素泊まりの宿もあったけれど、そっちは治安の面で不安なのである程度ちゃんとした宿に泊まる。海外でも安い宿は盗難や強盗などの被害を受ける可能性も高いので注意が必要だ。
「宿の質もあまりよくないな。防犯性にも不安があるし、早くノアがキャンピングカーに変形できるようになってほしいところだ。さすがにシャワーやベッドくらいは付いているといいんだけれどなあ」
この宿や他の宿にも風呂というものはないらしく、お湯の入った桶とタオルを渡されるだけだ。一応公衆浴場や温泉が存在する街もあるらしいが、この街にはないようだ。
「さて、情報はある程度集まった。明日から何をしてお金を稼ぎ、どの乗り物を優先して取っていくか考えよう」
『はい、マスター』




