第2話 変形先リストと特別なチケット
マウンテンバイクに変形したノアの前に半透明のウインドウが現れてた。
そしてそこには日本語で乗り物の名前とその横には開放に必要なポイント数が書いてある。
「電動キックボード、原付、バイク、大型バイク、自動車、キッチンカー、キャンピングカー……すごいな、まだまだあるぞ」
ずらりと並んだ乗り物の数々。
陸を走る乗り物だけでなく、手漕ぎボート、電動ボート、帆船、ハングライダー、気球などといった水の上を走ったり、空を飛ぶ乗り物まである。これは見ているだけでテンションが上がるぞ。
更には働く車なんかも多数ある。なるほど、ここまでいくと確かに万乗ビークルだ。
「……だけど、電車や飛行機や船みたいな大きな乗り物はないのか」
『他にも条件を満たせば解放できる乗り物が数多くあるようです』
「そうなのか。いろいろと希望が出てきたぞ!」
今はリストにないが、他にも様々な乗り物があるらしい。あとは馬や馬車など、さすがに生物の乗り物みたいのはないみたいだ。
ノアが自転車になった時にはどうなるかと思ったが、これはかなり優れた能力のようだな。
『そしてそれとは別に【試乗チケット】が2枚と【SPチケット】が1枚あるようです』
「試乗チケットにSPチケット?」
なんかゲームみたいだな。この万乗ビークルという能力名もそうだし、絶対に俺をこの世界に転生させた神様は遊ぶのが好きだろ……。
『どのチケットも10分間限定で特定の乗り物に変形が可能となります。試乗チケットは【戦車】と【戦闘ヘリ】に変形が可能です』
「物騒すぎるだろ!?」
戦車や戦闘ヘリに変形できて嬉しいという感情よりもそんな乗り物に変形しなければならない世界なのかと思ってしまう……。俺はこの異世界で生きていけるのだろうか……?
「SPチケットってやつは何に変形できるんだ?」
『こちらのチケットは特定の何かに変形するというわけではないようですね。その場に適した乗り物が自動的に選択されるようです』
「なるほど。それは便利なチケットだな」
現状リストには戦闘用の乗り物の変形先はなかった。なにかあった時はこの3枚のチケットが俺の生命線となりそうである。
「とりあえず話は移動しながらにしよう。ノア、道はわかるのか?」
『はい、ナビを表示します。ここから一番近い街はここから10キロメートルほど離れたトリアルの街です』
「おっ、ナビまで出せるのか。水や食料もないし、まずは人のいる場所に移動しないと死活問題だ。移動しながら詳しい話を聞かせてくれ」
『承知しました』
マウンテンバイクに変形したノアの乗り心地は悪くなかったのだが、いかんせん自力で漕がなければならないのでなかなか大変だ。30分ほど走って喉も乾いてきたし、疲れも出てきて完全にここが現実であることに実感がわいてきた。
「……なるほど、この世界には魔法があって、危険な魔物が存在しているのか」
『肯定します。ですが、この辺りに生息している魔物は比較的強くないようです。魔物と遭遇した場合は全力で逃げ出せば戦闘を回避できる可能性が高いです』
「ということは他の場所では強い魔物が出現するんだな……。服の中にこの世界のお金らしき物も入っているし、この世界に俺を転生させた神様とやらはだいぶ親切なようだ」
『私の中に神様というデータは存在しませんでした』
ノアの中に俺をこの世界へ転生させた者の情報はないらしい。危険な魔物が少ない場所に転生させてくれたり、お金や能力のチケットまで用意してくれたりとありがたい。何の説明もなくいきなりこんな草原に放り出したのに、親切なのか不親切なのかわからないな。
「魔法って俺にも使えるのかな?」
『魔法は適性のある者にしか使えません。マスターは元々この世界の者ではないので、難しいかもしれません』
「なるほど。機会があったら魔法の適性について調べてみるか」
こんなすごい能力がある上に魔法を使いたいなどと言うと罰が当たるかもしれないが、やはり魔法を使うことも男のロマンなのである。
「おっ、道が見えてきたぞ」
『こちらをまっすぐ進めばトリアルの街です。こちらの世界には自転車のような乗り物はないので、人影が見えるか、街が近付いてきたら降りた方がいいかもしれません』
「ああ、了解だ」
これまでは草原を走っていたが、ようやく草のない道のようなものが見えてきた。道とは言っても現代日本のようにコンクリートで舗装された道路ではなく、人が歩いてできた踏み固められた土の道である。
それでも先ほどよりは十分走りやすい。草原だと草むらに隠れて大きな石があったりしたからな。
ノアの変形したマウンテンバイクはそんな悪路でも走れるようになっていた。ノアの変形する乗り物は異世界の道をある程度快適に走れるような仕様らしい。こんな乗り物がこちらの世界の住人にバレると面倒なことになるかもしれないし、できる限りは秘密にして行動するとしよう。
「通行証がない者は銀貨2枚を徴収し、検査が必要となる」
「はい」
ノアの変形した自転車で走り続けること一時間半。大きな石の壁に囲まれた街が見えてきた。幸い魔物に遭遇することはなく、手前で自転車から降りてノアの変形を解除したことで自転車を見られることはなかった。
門へ入るための列へ並び、俺の順番になると入場税をとられて検査がされる。ノアが言っていた通り、言語理解の能力のおかげで金髪の西洋人のような顔つきをしたこの門番の人の言葉が日本語で聞き取れる。列に並んでいた人もそうだが、この世界には俺のような黒髪以外の人が多く、赤色や青色といった元の世界では見かけない髪色の人も大勢いて、人以外の種族もいるらしい。
そして事前に聞いた通りノアの姿は俺にしか見えないらしく、最初のサイコロ状の姿で俺の横に浮かんでいるのだが、他の人には誰も気付かれていないようだ。
服の中に入っていた銀色の貨幣2枚を門番の人に渡し、質疑応答をおこない、言われるがままに丸くて透明な水晶のような物に手をかざした。もしかすると俺が別の世界の住人であるとバレないか心配したのだが、特に問題はなく街に入ることが許された。
「おおっ、これはすごい!」
門を通ると、そこには俺が今まで見たことのない景色が広がっていた。現代のような無機質なコンクリートではなく、分厚い石材と長い歴史を感じさせる木骨組の建物が不規則に立ち並び、道端では露天商が見たこともない料理や果物を売っている。
街を歩く人々の服装は多種多様で、見たこともない服ばかりだ。そして広い道を行き交う人々は普通の人だけでなく、モフモフとしたケモミミを生やした獣人や小柄でヒゲがボウボウのドワーフといった異なる種族の者も多い。
今までに見たことがない、まさしくファンタジーな光景だ!
『このトリアルの街はそれほど大きくない街のようですね。この国の端に位置しており、物価なども低めです』
ふむふむ。この世界へ来たばかりの俺にとってはそれくらいの街の方がありがたい。いきなり物価が馬鹿高くて暮らすのに不便な街へ転生させられたら大変だ。
ノアの声は俺にしか聞こえない。そして変形しないサイコロ状態の時には実体を持たないみたいで、通行人の身体を通り抜けている。
さて、無事に街まで辿り着けたはいいが、これからどうするかな? とりあえず飲み物がほしいところだし、今持っているお金にどれくらいの価値があるのかもわかっていない。まずは現状を確認するためにもこの街をまわってみるとしよう。




