第13話 選択
この1週間でいろんな村や街へ移動してきたおかげで結構なポイントが貯まっている。実は軽自動車なら150ポイントですでに解放できるのだが、その上の200ポイントのキッチンカーかキャンピングカーを解放しようと思っている。
普通に走れる車よりも他に付加価値のある乗り物のほうがいい。ただ、どちらにするかはまだ迷っている。詳細は解放してみないとわからないところだが、キッチンカーなら食費が節約できそうだし、キャンピングカーなら宿代が節約できそうだ。
宿代の方が節約できる額は大きいのだが、魔物がいる外で野営をするというのは少し怖い。この1週間で集めた情報によると、スライムとかゴブリンならともかく、それよりも大型の魔物も数多く生息しているらしいからな。
「ノアはキッチンカーとキャンピングカーだったら、どっちがいいと思う?」
『難しい質問ですね……。乗り物の能力は解放されないと詳細がわからないのですが、どちらかというとキッチンカーの方が有用性はありそうです』
「ふむ、その理由は?」
『マスターの世界のキャンピングカーですと、車内で快適に寝ることができる車両だと聞きました。快適ではないかもしれませんが、キッチンカーで寝ることもできるはずです。それでしたらキッチンカーのほうがいろいろとできそうなことが多い気はします』
「なるほど」
他にもシャワーを浴びたり、トイレがあったりといろいろな機能がキャンピングカーにはありそうだが、快適に寝る機能を重視している。確かにノアの言う通り寝るだけならキッチンカーでもできそうだ。今は快適さよりもお金やポイントを稼げそうな方を重視したい。
『それにもしかすると料理をおいしくできるような能力が付与しているかもしれません。マスターはこちらの世界の料理はおいしいけれど、味付けが少し物足りないとおっしゃっておりました』
「そうなんだよ!」
この1週間でトリアルの街に出ているいろんな屋台や料理店でご飯を食べてきた。始めのころは俺の世界の料理とは異なる食材を数多く使っていてとても楽しめたのだが、しばらくするとこの異世界の料理にはある欠点があることに気付いた。
それは香辛料や調味料の少なさと調理方法の乏しさだ。どうやらこの異世界ではコショウや砂糖などが高価らしく、基本的に味付けは塩のみとなる。そして調理方法も素材を焼くか茹でるだけだ。素材自体は元の世界と同じくらいおいしいのだが、さすがに同じ味ばかりだと飽きてしまう。
もちろんお金を払えば高価な香辛料を使った料理も楽しめるが、今の俺にそんなお金の余裕はないからな。
「そうか、特別な能力が付いてくる場合もあると言っていたな。その可能性も含めて考えないと。さすが相棒だ」
『恐縮です』
開放したこの原付は長距離を走る能力を持っていた。キッチンカーというくらいだから、料理をおいしくする能力がついてくるのかもしれない。
よし、ここはノアの言う通り、次に開放する乗り物はキッチンカーにしよう。
『マスター、200ポイントが貯まりました』
「おっ、貯まったか。一旦目立たなそうな場所を探そう」
『はい』
ニフランの街へ着く前にポイントの方が先にたまったようだ。さすがに道の真ん中でキッチンカーを出すのはまずいので、少し道を外れて大きな木の下で原付を停める。
これまでも道で人とすれ違いそうな時はノアのことがバレないようにしていた。この異世界の場所はそれほど速くないので、追い抜かれることはない。
前から人影が見えたら原付を停め、進行方向が反対の場合は歩いてすれ違い、方向が同じ場合は少し道を外れて追い抜いてから道へ戻っていたため、今までノアのことがバレたことはないはずだ。今後も気を付けて行動するとしよう。
「さて、魔物には注意しつつ、キッチンカーを解放しよう」
『はい、マスター』
ゴブリンに襲われかけたことはしっかりと教訓にしているぞ。
周囲を警戒しつつ、200ポイントを消費してキッチンカーを解放した。
「おおっ!」
今までと同じように原付だったノアの身体が光り輝き、形を変えていく。ただ、これまでの自転車や原付よりもはるかに大きくなったので、つい声が漏れてしまった。
『変形が完了しました。こちらが【キッチンカー】です』
変形が完了したノアは元の世界で街中でお弁当を売っていたり、高速のサービスエリアで見かけたりするキッチンカーになった。
車体の半面がお店のように開いており、その中には文字通りキッチンが見える。寸胴やまな板に包丁などの調理器具が常備されているみたいだ。
これがキッチンカーに付与されている能力なのだろうか?




