第12話 新しい街へ
『マスター、【戦車】の変形時間が切れるまであと10秒です』
「了解だ。それじゃあ原付に戻ってくれ」
『承知しました』
ドールタンさんたちを助けてからしばらく進んだところで、おためしチケットの効力が切れるので元に戻ってもらう。
またノアの身体が光り輝いて小さくなり、元のスーパーカブの形へと戻っていった。
「あれが戦車か、本当にすごかったよ! いったいどうすれば戦車へ変形できるようになるんだろうな!」
男のロマンである戦車に乗れてめちゃくちゃ興奮してしまった。もちろん戦争や争いごとを肯定するわけではないが、それとは別で戦車は男のロマンなのである!
あの無骨な鉄の塊があんなスピードで動き、砲弾まで撃てるのだからたまらない。男の子は戦う乗り物が大好きなのである。
それにしても、オオカミ型の魔物を殺してしまったわけだが思ったよりも罪悪感のようなものはない。俺もこれまでにゴブリンみたいな魔物に追いかけられたわけだし、襲ってくる魔物を倒すのは仕方のないことだ。これが人相手だったらまた違う感情もあったかもしれないが。
『そういえばあの方たちになにか頼みごとがあるのですか?』
「いや、今のところはないよ。あの人たちに保護してもらうことも少しだけ考えたけれど、今回見せてしまったのは戦車だからな。ノスタル家と言っていたから貴族かもしれないし、さすがにリスクが高すぎる」
俺自身に戦闘能力があるか、ノアが戦車にいつでも変形できるのならともかく、もうおためしチケットとSPチケットの2枚しかなくなってしまった。そのノスタル家というのがどういう貴族なのかの情報もなく俺の能力を打ち明けるのは危険だ。
そんな人たちには見えなかったが、ノスタル家とやらが悪い貴族な可能性もあるし、魔物の群れに襲われたのもあの人たちが原因だった可能性もゼロではない。少なくとも保護してもらうとしたらノスタル家がどんな貴族なのかを見極めてからだ。
もちろん俺が本当に困った状況に陥ったら、迷わず今回の借りを使わせてもらうつもりである。戦車というワードも教えておいたし、大人には打算もあるのだ。
「むしろ今は見つからないようにトリアルの街からすぐに離れるつもりだ。どちらにせよこの街を離れるつもりだったからちょうどいい機会だな」
もしもあの人たちが俺の力を悪用しようと考えたら、俺を捕らえようとしてくるはずだ。今は恩人である俺に対してそんな気持ちはなくとも、改めてあの戦車の威力を考えたり、誰かに話が漏れてそいつらが俺を手駒にしようと考えるかもしれない。
俺はのんびりとこの異世界を旅したいだけだ。面倒ごとに巻き込まれるのは勘弁である。
「今日中に隣町へ移動しておこう。明日はそこからさらに離れた街へ拠点を移すとしよう」
『承知しました、マスター』
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「なんだかんだでトリアルの街も楽しかったなあ。宿の人や商業ギルドの受付さんとは多少話せるようにもなってきたから残念だ」
『人との別れは避けられないものですからね。ですがまた新しい出会いがあると思いますよ』
「そうだな、ノアの言う通りだ。まあ、昨日みたいな魔物との出会いは勘弁だが」
昨日はトリアルの街に戻ってから宿を引き払って隣町へと移動してきた。
宿にはしばらくお世話になってきたこともあって、宿のおじさんとおばさん、商業ギルドの受付のお姉さんとは世間話をするくらいの仲になれた。別れは寂しいものだが、また新しい出会いもあるだろう。
今日は朝から隣町を出発して、次の目的地の街を目指しているところだ。とりあえずこれまで集めてきた情報の中でトリアルの街とは逆方向にあるニフランの街を次の目的地とした。
「とりあえずノスタル家の悪い噂は聞かなかったけれど、まさか子爵家の人だったとはなあ……」
街を出る前に少しだけノスタル家のことを調べたのだが、この辺りを治めているかなり有名な貴族だった。この世界では貴族制度があり、男爵家よりも上の子爵家であった。
『あの場に領主本人はいなかったように見えましたが、あれだけの護衛が付いていたことから要人だった可能性はあります。その者たちに大きな恩を売れたと思えばおためしチケットを使った甲斐もあると思います』
「まあなににせよ、誰も死んでいなかったみたいだから本当によかったよ」
さすがに目の前で人が死ななくてほっとした。見知らぬ他人のためにおためしチケットを使用したこの選択が正解なのかはわからないが、とりあえず今のところすっきりとした気分なので、それでよしとしよう。
完全に俺の自己満足でチケットを使っただけだから、それで恩返しを期待するのも違う気がする。まあ、本当に困ったら遠慮なく頼る気はするが。俺にプライドなんてものはないのである。
「新しいニフランの街はどんなところか気になるな。それにもう少しで目標にしていた200ポイントが貯まるから楽しみだ」




