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透明はカラフル  作者: おきついたち


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7/8

おまけ話「酸っぱいレモンイエロー」

ふあああと大欠伸しながら顔を洗って。

望は鏡に映る自分の首元を確認する。

(だいじょうぶやんな~?見えるトコ付いてへんよなあ)

そして昨日のコトを思い出すと。

胸の底がざわざわするし。身体の真ん中が熱くなってしまう。

健文の家で一緒に夕飯を食べた後、たくさんたくさんキスをした。

(普段はめちゃめちゃ気ぃ遣いで優しいて。

オレんこと初恋やとか大好きや言うて、にこにこしとるだけのクセに)

「どスケベ」

むうっと頬を膨らませて、望は唇を尖らす。

末っ子で。果樹園を営む大家族ではいつも可愛がられてたし。

島で生活してた頃は、近い年齢には女の子ばかりだからチヤホヤされて。

興味としてのキスやボディタッチも、相手には困らない立場。

そして引越して出会った健文から告られ、付き合い始めたばかり。

姉の育は「ぼーちゃんはモテ男やなあ。まあ顔も性格もカワイイもんな」

なんてニヤニヤ笑いで小突かれたりする。


だから。

兄の活が事件に巻き込まれ、周りの空気が一変した時は特に深い傷になった。

いつも好意の笑顔や言葉を向けてた昔からの知り合い達が。

冷たい「無関係」の壁を立てて、そおっと自分を避けて。

誰も「本当は何かあったんやろ?」と近付いて来るヒトは居なくて。

「知る」よりも「知らん」方がエエと思われてるのを感じて。

自分は変らずソコに居るのに。誰からも「知らん奴」と思われてる気がして。

どうしたらイイのか判らなくて。

もう存在そのものも無いことにしたくて。

育と活にくっついて、島を逃げ出した。



ジェラード店が人気になって、たくさんお客さんが来てくれるのは嬉しいし。助かった。

たくさん過ぎて、誰もがまるっと「お客さん」で。自分は「店の人」。

その関係性だけで良かったから。

それ以上「知る」も「知られる」も要らなかったから。

けど。

そのもわんとした空気から「オレんこと覚えてへん?」とぐいぐい来るのが1人居て。

ちょっと顔を赤くして、自分をじーっと見つめてくる。

イイ奴そうだけれど。そー言う奴だからこそ。

仲良くなって。そこから「知らん」顔されるのはもうイヤだった。

だから、自分が先に「知らん」フリしてたのに。


教室の席は前後で。クラスでは、編入生2人セットで扱われて。

部活も一緒で、いつもダベリながら帰宅して。店も手伝ってくれるし。

トラブルがあって涙が止まらなかった時は、ぎゅうっと抱きしめてくれた。

「そんなんやから。

仲良うならんとか好きにならんとか、もお無理やんなっ」

鏡の中で不本意そうに顔をしかめてる自分に、望はアカンベをした。




健文が説明してくれた香港民主化デモとか中国返還とか、望にはピンと来ない。

ただ重い空気に覆われた中にヒトの暮らしがあると。

お互いの間に在るのは、知らんフリばかりになるのは何処でもいつでも同じらしい。

望は島でソレを感じたし。

健文は家族の中でそれを感じながらも、暮らして行く日々を経験していて。

それで健文は、望が「無視」と「知らんフリ」で身構えてても。

優しい笑顔で近付いて来てくれた。


部活の先輩や、育と活からは。

「暴君のぼーくんの下僕みたいな健文」と言う関係図が出来上がってるみたいで。

そう冷やかされたりするけれど。

(オレ別に威張ってへんし。健文が気ぃ遣いなダケや)望はそう思ってる。

そもそも。付き合うてもエエでと応えた途端。

母親の帰宅が遅くなる日には、一緒に夕飯食べよと望を誘って。

食事以上にハグとキスでお腹いっぱいになってしまう程、健文は望にベタベタ。

される方は初めてなので。さすがに初めはちょっと慌てたけれど。

「平気?イヤやない?

ぼーくん、めっちゃカワイイて。オレすぐ夢中になってまうから。

イヤな時は、殴ってでもオレんことストップかけてな」

そう大真面目な顔で健文は言う。おまけに。

「カワイイて、可愛いて書くやん?

ぼーくんのコトをカワイイて思うオレは、ぼーくんを愛してまうしかナイやんなっ」

と激照顔で言い放ったりする。

(やっぱり。どすけべや)

またまた胸がむずむずしてきて、望はもう一度ばしゃばしゃと顔を洗った。




「ぼーちゃあん。朝ごはん冷めてまうでー?」

キッチンから育の声が響く。

「すぐ行くー」

テーブルには焼き立ての分厚い食パン。切れ込みの上にバターがでんと乗っかって。

鮮やかなイエローと赤茶色の瓶が2つ。

「島から届いたレモンジャムと。こっちは楠くんがくれたメープルシロップ。

カナダに居るお父さんが送ってくれたホンマモンのシロップやで。

さっき味見したけど、濃厚やのに軽い甘さで美味しかったわあ。

島レモンはいつも以上に酸っぱあて目ぇ覚めるで。

ぼーちゃん、どっち使う?」

望はイスに座ると。食パンをむしーっと2つ割って。

「どっちも」

「あはは確かに。選べんわなあ」

「私もそおしよ」

育も活も笑う。

もっちりしたパン生地にじわーっとジャムとシロップが滲んで行く。

それをじっと見ながら。望は決心した。

(夏休みに島行く前に。

健文にさせたろ。挿れる方やりたさそーやモンな。

上手く出来るか判らんけど。

もし全然ムリやったら。健文なら、まあまた今度て言うてくれそおやし。

もしちゃんと出来たら。島のみんなに健文をカレシやてはっきり言えるし。

島のみんなに知らせたるンや。活ちゃんもオレも変らずやっとるって)


もう一度2つ並ぶ綺麗な色で透明感のある瓶を、望はじっと見る。

(生まれ育った島も。この新しい居場所も。どっちも大事やもんな)

無視も知らんフリも、もう止めて。ちゃんと美味しく味わうつもり。

望は、ばくん!と。芳ばしくて甘くて酸っぱい蜜味のパンに齧り付いた。

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