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透明はカラフル  作者: おきついたち


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6/8

おまけ話「ミルクと茶茶茶」

「うわー♪ぎゅうっと濃ーい。何ンやろ?よお知っとお味なんやけど」

「ははは。そおです。カスタードクリームみたいでしょお?」

「そおや!甘さ控えめなプリンやコレ。

スパイスが利いとるからオトナプリンやな」

営業時間終了して。ジェラード店の調理場では新フレーバーを製造中。

そんなタイミング良く店を訪ねて来た似古も、味見に参加している。


これ好きやあ♪とシアワセそーにスプーンを口にする姿は子供ぽいのに。

ブルーアッシュに染めた長髪に、細く整った輪郭。

そして長いまつ毛に縁取られた切れ長の目は艶ぽくて、見た目はホスト系。

しかも愛想が良くて。話相手するのも上手いとなると。

この駅前通りはもちろん。仕事依頼を受けるお客にもファンは多い。

「似古さんに、そおんなユルユル顔して貰えるとなあ。

大成功やてコッチまで嬉しなるわあ」

エプロン姿の育と活は顔を見合わせて笑う。

「何ンかいつもより、じわーって味わい深い気ぃする」

「そおなんです」

活の目がキラリ。

「暑い夏はさっぱりすっきり感が大事やけど。

気温下がって来ると。ずっしり感出して、味も重めにしとるンです」

「そおそお。

秋はなあ、芋栗柿で季節感を味ぉて貰えるようにして。

冬はシチュエーションが大事。食後の団欒で食べて貰うイメージや。

寒いのにわざわざ冷たいモン食べる時て、限られてるからなあ」

育の説明を聞いて、似古はフムと思案顔。

「育さんの言う通りやワ。

オレのお気に入り、ほうじ茶ラテなんやけど。

鬼島のじいちゃんトコで食事させて貰うとな、こお煮物山盛りーとか。

土鍋に汁物が湯気立ててたっぷり作ってあって。

食べ終わると、汗かいて腹いっぱいになってまうねん。

みんなはずうっと呑んどおけど。オレ呑めへんし。

縁側行ってジェラード食べるんや。

芳ばしいほうじ茶と、濃ぉて甘ーいミルクがなあ。ほぉて落ち着くんやあ」

似古のしみじみとした感想に、育も活も益々盛り上がる。

「そお言うて貰えると嬉しいわあ」

「うん。狙い通りや。

さっき味見して貰うた新作は、エッグノックのイメージで。

元は寒い冬に飲むホットミルクのアレンジなんです」

「へええ。確かになあ。

温ったかい部屋でお喋りしながら、みんなで食べたあなる味や。

団欒の味なんやなあ」

にっこりと、似古はキレイな笑顔になったけれど。

切れ長の瞳から、さっきの無邪気なコドモぽさは消えていた。



調理場の裏口がノックされて、鬼島百架が顔を覗かせる。

元々身体は大きい方だけれど。

部活と叔父の工務店手伝いで、成長期男子はガッツリ筋肉が付いて。

ジェラードメーカーやたくさんの器具がある調理場が急に狭く感じるほど。

「似古さん。百樹さんがそろそろ行くて言うてますよ」

「もお、そんな時間?

育さん活さんご馳走様。今度の日曜オレ手伝いに来ますんで。

望くん、部活で居らんもんね」

「ほんまに良えの?助かるわあ」

「オレここの手伝いすんの、めっちゃ好きなんで。

さっき言われた、持ち手ンとこ直して。保冷BOX10個用意して来ますー」


よろしくなあと育と活に送り出されて。

似古と鬼島は並んで歩き出す。

「持ち手、何ンかマズかったんですか?」

似古が持っているのは、活から依頼を受けて作った簡易保冷BOX。

その見本を確認して貰うために、ジェラード店へ行っていたところ。

似古の手から保冷BOXを受け取って、百架が尋ねる。

「マズイ言うか。もうひと工夫必要なんや。

これレンタルやん?

活さんのイメージとしては。

暖房効いた家で食べる為に、ジェラード買うて帰るカンジ。

気温下がって来たら、暑い時期みたいに店頭ですぐ食べるンちゃうしな。

そーゆー時に。ドライアイス代だけで、このBOX貸し出して。

返却されたらスタンプ1個。スタンプ5個溜まったらドライアイス1回無料。

このサイクルで回して行けたら。寒うなってもお客さん来てくれそおやんな」

「冬には冬の売り方、言うコトですか」

「そお。

ただレンタルやと清潔さが気になるやん?

持ち手をな、取替可能にして。お客さんが気にせんで済むよおにしたいて」

「へえ」

「活さんはなあ。ほんま細かいトコ気ぃ付くよな。

目線がお客さんに近うて。色々考えとおワ。すごいよなあ」

同意を求めるように、似古が顔を向けると。

鬼島はその前からじっと似古を見つめていた。

話の内容よりも。驚いたり納得したり似古の表情が変わるのを眩しそうに見ている。

だから。

似古の方が口ごもってしまって、顔を逸らして。話を終らそうとするけれど。

「まあたぶん。百ちゃんがお金掛けんと工夫してくれるやろ」

「そおですね。百樹さんそーゆーン上手やし。

今、このBOXカラなんやったら。似古さん用のアイス買えば良かった…」

「この間じいちゃんがデカイクーラーBOXいっぱい買うてくれたで。

オレが呑めへんから。その替わりなんやて。

ほら冷凍食品まとめ買いする時のBOXやから。20個くらい有ったんちゃうか?

オレひとりで食べ切れへんワー」

BOXを開けた時のじいちゃんのドヤ顔を思い出して、似古はプププと笑いが零れ。

そんな似古を、いつも不愛想な顔を緩めて百架が見つめる。



身近なネタを振られると、こんな風にお喋りが延々続いてしまう。

そうなってしまう程、2人の生活は重なっているから。

工務店の上の部屋で百樹と似古は暮らしているけれど。

しょっちゅう鬼島祖父宅で食事したり泊まったり。

百樹が診療船に同行したり、島の小規模工事に駆り出されることが増えると。

似古ひとりでも祖父宅を訪ねるようになっていて。

似古が居るだけで食卓は賑わうし。飼い猫2匹も大歓迎で擦り寄るし。

もうすっかり家族の一員なのに。

似古と百架の間にだけ、いつまでも微妙な空間が残っている。

まるで敬愛する主人の後ろにぴたりと着いて歩く飼い犬みたいに。



「活さんはホンマすごいよなあ。

ゼロからやり直して。身体もキモチもしっかり立ち直って。

そんで今ではお店の経営回しとって。もうすっかり一人前で頑張っとる。

やっぱ元々頭も良えし、性格も良えし。ちゃあんとした家で育っとおモンなあ」

オレとは全然ちゃう。

遠くへ視線を漂わせるヒンヤリとした似古の表情が、そう呟いているようで。

百架は腕を伸ばすと、そっと似古の腰に回した。

「そこ、段差あります」

「え?あ、ごめん」

「オレはずっと似古さんの傍に居ります。

似古さんが成りたいジブンに成るまでずっと居るンで。

何ン言うか、似古さんのペースで良エんやと思います」

身体はぴったりと近いくせに。

脂汗浮かべながら視線を逸らしている百架の横顔を、似古はじっと見る。

「オレのペースて。そんなんいつになるか判らへんで」

「はい。せやから。いつになってもエエよおに。ずうっと傍に居りますンで」

「これから将来を選んで行く若者が、ナニあほなコト言うとおん?

オレみたいなンに迷うとらんで。しっかり現実的に生きて行かんと。

じいちゃんも百ちゃんも。ああ見えて百架くんのコト認めとるんやで」

遠慮していた百架の指に力が入る。

作業着越しでも、百架の手の温度が伝わって来て。

似古はぎゅうっと強く目を瞑る。もう百架の顔を見たくなかったから。

きっと、いつものように。

自分が何を言っても、否定しても突き放しても。

まっすぐに自分を見つめて「そンでも傍にいます」と言うに決ってるから。



夕暮れ時で。

百樹の工務店はメイン通りから奥へ入った所にあるから。もう人通りも無い。

「ホンマにあほやなあ。

甘々や。世の中ナメ過ぎちゃうか。そんなんで上手く生きてけへんで」

百架の逞しい腕に逆らえるとは思えないし。

もう何百回繰り返したか判らないやりとりを、また言葉にするのも飽きたし。

深ーいタメ息を付くと。

似古は目を瞑ったまま顔を百架に向ける。唇もうっすら開いたままで。

「えっと、あの。キス…してエエですか?」

「あかん言うたらせえへ」

んの?と言う語尾はキスで塞がれた。

始めの頃は緊張してぎこちなかった百架からのキスも、今ではそれなりで。

唇と、身体に回された腕や手から感じる百架の熱は、身体の奥まで伝わるし。

すっかりふんわり心地良くなっていて。もう何も考えたくなくなってしまう。

(濃ーいジェラードみたいや。

苦い抹茶もほうじ茶も、どんなフレーバーも。

濃厚ミルクと合わさったら。程良おに抑えられて、せやのに味は引立って。

苦しいて苦いンばっかりやった昔のコトも。

こおんな甘あて優しいて強いミルクと一緒やったら。

もおペロリて舐めてまう気ぃするなあ…もお大丈夫な気ぃするなあ…)


「百架くん」

「あ、は。はい」

しまったやり過ぎてもた、と強張る百架に。

なまめかしい笑みを浮かべながら似古は尋ねる。

「百ちゃんの出張見送ったら。今晩こっち泊まる?」

「えっ!!」

夕暮れでも判る程、百架の顔がまっ赤に噴火して汗が噴き出る。

「オレの好きなジェラード買い置きしてあるンや。

百ちゃんが出張中は、じいちゃんトコでご飯するやろし。

買い置き分はもお我慢せんと食べてまお思うんや。一緒に食べへん?」

「食べます。似古さんが出してくれるモンやったら。全部頂きます」

「うん。一緒に食べたら冬でも冷たいんでも、何ンかぬくなりそおやあ」

ふふふと微笑む似古の頬はほんのり染まっていて。

細められた瞳は艶っぽくてきらめいていて。

百架は視線も意識も吸い込まれてしまって。もうその場から動けなかった。




動けるよーになってからのコトは。

まあ何ンと言うか。新作ジェラードより甘く濃厚だったと言うコトで。

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