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透明はカラフル  作者: おきついたち


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4/8

おまけ話「セクシーチェリー」

今日も「超」充実の部活が終わって。

ハンド高等部5人はジェラード屋の前でダベってる。

もう営業時間は終わってるけれど。

半分まで降りたシェードの下から漏れる照明のお裾分けで、ほの明るい。


もう空っぽになったカップをひっくり返し。

ツツ…と垂れ落ちる赤色のしずくを舌でぺろり。

雉場は名残惜しそーに声をあげる。

「このサクランボのん、めっちゃ旨い。オレ好きや♪」

「そーなんです。今一番人気です。

隔週ごとに並べとるンですけど。毎回完売してます」

それまで店内を手伝っていた望が、嬉しそうな顔で出て来て応える。

「毎日出せばエエやん」

「色付き良お無いヤツとかB級品を回して貰うとるんで、入荷が不安定なンです」

「B級?こんな旨いのに?」

「活ちゃんの配合が上手いんで」

味自慢に兄自慢も上乗せして、望のドヤ顔はピカピカ。

ジェラードに添えるクッキーで余ってしまった物を皿に乗せ、みんなに回す。


「なあ」

クッキーをサクっと齧りながら、犬塚がぼそりと言う。

「サクランボの茎結べる奴はキス上手い言うけど。ほんまにソレ似とるん?」

え?はあ?と反応があって。しばし沈黙。

いきなり犬塚がガルルルと唸り顔を剥き出した。

「ちょおちょおちょお待てっ!

今なあっ『そおやったかなあ』て思い返す顔ンなったやろ!そこっ。

鬼塚と雉場は判る。何ンで猿橋までそんな顔なンねん!

そんで楠は、何ンでそんな顔にならへんねん!

さーるーはーしぃい。おまえ裏切ったなああ?」

「裏切るて、そんな」

猿橋の、いつものユルイ笑い顔が。照れ顔になって頭を掻く。

「くっそお!やっぱりそおなんか」

「何ンの話や」

あんまり店頭で騒ぐのは良くないし。鬼島が間に入って、犬塚の頭を押さえる。

「クラブの女子チームに先月新しいコ入ったやん?

髪染めてへん黒いツインテールのコ。

何ンかオレらのこと訊いとったらしーて。カノジョ居るんかどうかて。

でもオレらの中で誰のコト見とるンか判らんかって。そしたら」

状況が理解出来てしまった。

皆もう一度沈黙したのに。雉場がずばっと言い放つ。

「あーなーんや。

犬塚は自分が告られるんか思うとったら。ソレ猿橋やった言うコト?」

「雉場っ直球過ぎやっ!くっそーーー孤独モンはオレだけかあああ」


自分達のシアワセを思い返すと。

確かに少し犬塚が気の毒になって、掛ける言葉が見つからない。

だから余計に犬塚のボルテージは上がって。今度は健文に八つ当たり。


「楠はどーなんや?え?

真面目な顔して部活しとおけど。ほんまはヨコシマシマ馬なんやろっ。

部活と恋愛どっちが重要なんや?ええ?」

「それはその」

「うわー!もおええっ言うなーっ」

ほんなら訊くなーっと、それぞれ胸の内でツッコミながら。

表面上は黙ってクッキーをボリボリ。

これ以上関わらないように、望は空っぽになった皿を持って店に戻る。

「オレ、掃除せなアカンのでーお先ですー」

「え、ちょお。ぼーくんっ」

いつもなら部活後は2人で色んなコトを話しながら帰るのに。

今日は先輩4人と一緒で何も話せていない。このままオワリなんて物足りない。

健文も店へ入ろうとするけれど。

雉場がガシっと腕を掴んで、ニタリと悪ガキ笑み。

「なあなあ。オレも訊きたいー。

2人とも初めてのカレシやろ?今どんな感じなん?」

「え…どんなて」

「羽比良のちゅうはめっちゃエエで。

こお、ちゅるぅってベロ入って来ると。もおほんま頭とろーってして。

ふわーってして。ぽわーってムチャクチャ気持ち良おなるんやあ」

幼稚園児並みの擬態語羅列だけど。

ヘンにリアルで生唾ごくり。

「健ちゃんぱっと見ユルイケメンやのに。根っこ真面目やもんな。

あんま経験無うてヘタクソそお」

「うっ」

健文は言葉に詰まる。

ご指摘の通り。ゲイばれが怖くて、誰とも付き合ったコトは無いし。

キスも、手を握ったのも。望が初めての相手。

でもそれは「誠実」ポイントでは?健文は精一杯の反撃に出る。

「いや、でも。好き言うキモチはホンモノやし。

確かにオレ全然経験不足やけど。ぼーくんかて、そんなガッカリとか」

してへんはずや、と言い切れなくて。健文は首を垂れる。

「べつにーイケズするつもりは無かったンやけどお」

雉場はちょっと考えた顔になって。

「そおや。オレがアドバイスしたるワ。

羽比良のちゅうが100点やとして。健ちゃんのが何点か採点したる。

オレにちゅうしてみ」

ヘラっと笑う雉場から、悪意は全く感じないし。浮気臭も無い。

それに改めて見ると。

雉場は色んな意味でコドモのまま時間が止まったような可愛らしさがあって。

ただ見たり触れたりするだけなら…。


「もおその辺にしとけ」

はあ~っと深くタメ息付きながら鬼島が遮る。

「何ンで部活の後、わざわざ駅前まで来たんか判っとるんか?」

そう。いつもなら畑練の後はそのまま解散帰宅。

こんな風に揃って駅前通りまで出ることはしない。


「オレがみどりと待ち合わせしとるからや」

お年頃のスケベ気分を一刀両断する切れ味の声。

いつの間にか私服姿の栄が立っていた。

栄は健文と同じくらいの身長で細身。

体格だけなら、鬼島の方が迫力あるし。猿橋は見下ろせる高さ。

なのに。みんなしてお白洲のジャリに額を押し付けてるキブンになる。

「さ、さかえせんぱい」

「おかえりー!羽比良っ。オーブン齧るン、おもろかった?」

雉場は栄に飛びついて頬を寄せて。もう健文のコトも、キスの話題も頭に無さそう。

「あはははっオープンカレッジやで。さすがに齧るンには硬過ぎやろ。

まーあクルーグマンの経済政策言うンもめちゃめちゃ固い話やったけどなあ」

付き人タロジロは笑っているけれど。

フツーの高校生達はこっそり顔を見合わせる。

早々に部活は引退するし、学校も時々休んだりして。

受験準備にしては念入りやな?なんて思っていたけれど。

受験すっ飛ばして。社会に、会社経営に出る準備をしているとは。

「楠」

「は、はいいいいっ」

悲鳴のような返事。健文の背中には汗が流れる。

「まあ。おまえも頑張り」

「は、はいっ」

ほんの少し。一瞬だけ。栄が微笑んでように、健文には見えた。




そのまま栄と一緒に帰る雉場を見送って。解散。

口には出さないけれど。何ンとなくそれぞれ、オレも頑張ろなんて思いつつ。

夜の暗さの中、最後に残った2人は顔を見合わせる。

もう店の後片付けは済んで消灯して。育も活も2階へ上がっている。

「健文」

「ん?」

「一緒に、ホンマの練習しよな」

「えっ」

「ハンドも。それ以外もな」

どこまで話を聞いていたのやら。健文は慌てるけれど。

望はくしゃっと顔を崩して、最高にカワイイ笑顔で見つめてくる。

口元から覗く白い歯と。熟れたサクロンボみたいな舌がちょろっと見えて。

健文は吸い込まれるままにキスをして、望とぎゅうっと抱き合った。

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