浮舟の町 旅日記 ―思いやりの波に揺られて―
今日は海の上に浮かぶ不思議な町、「浮舟の町」へ行ってきた。ここに来るには港から出る渡し船に乗る必要がある。小さな船は波間をゆっくり進み、やがて見えてきた町はいくつものいかだをつなぎ合わせて作られた巨大な浮島だった。
この町の始まりはずっと昔、難破した交易船の船員たちがどうにか助かるためにあまり人間に友好的ではなかった水の民に助けを求め、船の荷物と引き換えに「浮舟」を作ってもらったことから始まったという。それが少しずつ拡張され、今では多くの商人が集う立派な交易の町になっている。町の入口には、青く光る魔道具のランプがぶら下げられていて、違反品が持ち込まれると赤く光る仕組みになっているそうだ。
市場に足を踏み入れると、見たこともない魚がずらりと並んでいた。中には体が光る魚もいてちょっと驚いたけれど、さすがに食べる勇気は出なかった。ここに来る商人たちは、水の民が海から獲ってきた魚を求めてやってくる。水の民が獲ってくる魔力を帯びた魚は魔法の街でポーションの材料として高く取引されるらしい。商人たちは水の民から魚を受け取る代わりに海では手に入れられない果実や香辛料を彼らに渡し、物々交換が行われている。
レストランに入ると、メニューには魚と果物を組み合わせた料理が多く並んでいた。試しに魚とお米を鍋で炊いた料理を注文したのだけれど、出てきた料理は少し冷えていて「あれ?」と首をかしげた。店員さんに尋ねると、「水の民は熱い料理が苦手でやけどをしてしまうから、料理を出す時は冷まして提供している」と教えてくれた。そして「水の民が来てくれるから、この町は成り立っているんだ」と穏やかに微笑んだ。
この町の人たちは、水の民に配慮した行動をとる。料理ひとつにも思いやりが詰まっているのだ。それだけじゃない。町を歩いていたとき、水の民のおばあさんが、陸の人間の青年に水の民の伝統工芸品の作り方を教えている姿を見かけた。おばあさんは、にっこり笑ってこう言った。「昔は水の民は陸の人間を嫌っていたが、こうしてこの町ができて交易をするようになってから、水の民の若者も活気づくようになった。それが私は嬉しいんだよ」
水の民たちも、陸の人間を尊重している。陸の人間が喜ぶように大きくて形の良い魚や魔力を帯びた魚を選んで持ってきてくれるし、陸の人間が驚かないように、町中で魚をむさぼるのは控え、レストランなどでスプーンやフォークを器用に使って食事をとる。小さな心配りの一つ一つが、この町の穏やかな空気を作っていた。
夜になると、この町にはさらに別の種族がやって来る。ランプの灯りが波間に揺れるころ、海の精霊たちが姿を現した。クジラの尾びれのような姿で海上を優雅に舞い、水しぶきがきらきらと光る。風がそっと頬を撫で、潮の匂いが胸いっぱいに広がる。その光景は、まるで海と町が一つになって呼吸をしているかのようだった。
ここに来てわかったのは、すべての価値観を同じにする必要なんてないということだ。大切なのは、互いを理解し、配慮し合うこと。そうすれば、どんなに違う種族でも、こんなにも自然に、穏やかに暮らすことができる。
「同じである必要はない。ただ、理解しようとし、思いやれるだけでいい」
そんな風に海が話しかけてくれているようだった。
浮舟の町は、まさにその思いやりの積み重ねで、今も静かに海の上に浮かんでいる。
おうちに帰ったら魚と果物で何か自分でも作ってみよう。やっぱり、旅っていいなあ。
サビ猫さんの「浮舟の町」観光Vlog
https://youtube.com/shorts/yaFienT0mB4?si=AEHiOqIF_ynL9Yuk