白狐亭奇譚集～心が迷子になった夜にだけ、開く宿～

人生に疲れ、心が道に迷ってしまった者だけが、深い霧の夜に辿り着けるという、不思議な宿「白狐亭」。

朱色の鳥居が連なる参道の奥、狐火のような提灯が揺れるその場所で客を迎えるのは、千年を生きたという美しい白狐の化身・女将の**白雪（しらゆき）**と、彼女に仕える子狐の童子、小春（こはる）と秋彦（あきひこ）。

仕事に燃え尽きたデザイナー、夢を見失った絵本作家、いじめに声をなくした少女、愛する人を失った女性、そして、自分自身を生きられなかった人々――。
訪れる客は、皆、現実世界で癒やされぬ深い痛みを抱えている。

白雪は、彼らを断罪も肯定もせず、ただ温かいお茶と滋味深い食事でもてなす。そして、その客が抱える悩みの本質を見抜き、「縁結びの碁」「夢見の香」「星紡ぎの天球儀」といった、不思議な力を持つ道具を用いて、一夜限りの奇跡を起こしていく。

それは、安易な救済ではない。
客人が自らの力で、失いかけていた「本当の自分」を見つけ出し、再び現実世界へと歩み出すための、厳しくも慈愛に満ちた道標。

この宿で過ごす一夜は、彼らの人生をどう変えていくのか。
そして、白雪が彼らを迎え続ける、その真の理由とは――。

これは、現代に生きる我々のための、心が迷子になった夜にだけ開かれる、切なくも温かい魂の再生の物語。