6 いろいろと難しい
バルコニーから二人で庭を眺めていると室内で待機していたパメラが恐る恐る声をかけてきた。
「ご歓談中に大変申し訳ございません。お嬢様、そろそろベルナルドさまとの約束のお時間かと…」
「まあ、もうそんな時間なの?気が付かなかったわ」
「バルテン男爵と約束を?」
「そうなんですの…お兄様の仕事が終わるまでにお茶会も終わるだろう、と思っていたので…一緒に帰る約束を」
「そうか…それでは兄君を心配させてはいけないな…ここからなら大蔵部の部屋も近いが…私が行くと文官たちを驚かせてしまうだろうな」
「はい、ですので私はここで失礼させていただきますわ…。とても楽しい時間でした」
「本来なら御令嬢ひとりで行かせるなんてことできないが…。ああ、待ちなさい。リーバー」
「はい、王弟殿下」
静かに、まるで部屋の壁と一体化したように佇んでいた青年が姿を現す。服装からおそらく王宮の警備兵だろう。
「私が鍵は返しておくから、ダスティン令嬢を大蔵部の部屋まで送ってほしい」
そんなことまでしていただかなくても、大丈夫と言おうとしたが大蔵部までの道はわからないし、ほかの部署も多くひしめき合っていると聞いているので間違えてしまうかもしれないことを考えると断ることはできなかった。
「何から何まで本当に殿下に助けられましたわ…。本当にありがとう存じます」
「いやいや…とても良い時間を過ごせたことへのお礼だから気にしないでほしい。バルテン男爵にもよろしくと伝えておいてください」
こういった方のことを貴公子というのね、とマリアンナは心の中で何度も頷いた。
テオドール二世に「まずはお互いを知ってそれから婚約に関しては考えればいい」と言われたことはすっかり忘れていた。
貴賓室を後にして、大蔵部の執務室まで歩く。その途中でマリアンナを探していたベルナルドと出会い、そこで合流することができた。
「リーバー、妹の案内ありがとう」
「いえ、私の役目ですので。では御令嬢、バルテン男爵、御前を失礼します」
彼がいなくなるのを見送り、では帰ろうかとしたところでパメラが目をぱちくりとさせているのに気がついた。
「パメラ?どうかしたの、なにかあったかしら?」
「あ、いえ…その、私が無知で申し訳ないのですが…バルテン男爵とは…ベルナルド様のことですか?」
「ああ、そうだ。バルテン男爵は私のことだ」
「予備爵のことパメラに話す機会がなかったわね」
「お嬢様の侍女だというのに、ものを知らず申し訳ございません」
「いいのよ、いつでも何かわからないときは聞いてね」
「ああ、私たちには気兼ねなく尋ねてかまわない。さて、予備爵というのは簡単にいうと我がダスティン伯爵家の予備の爵位だ」
爵位はなにか功績を称えて贈られることが多い。国のため献身を続けている貴族であればそういった機会は多くなる。よほどのことがなければ今持っている爵位よりも上のものは贈られることがなく名乗ることはない。
そういった爵位を予備爵と言う。もちろん爵位をいただいた際に領地もいただいているので、そこは管理しているが伯爵家で行なっている。
「で、予備爵はどういう時に使うかというと、だいたいは後継に名乗らせる。後継になるものは領地経営を任されていたり、俺のように大蔵卿である父の部下として出仕している。当然だが私のことをダスティン伯爵とは呼べない。かといって伯爵令息と呼ばれるほど幼くはない」
「なるほど…」
「そして私はすでに妻子がいる、彼女たちに貴族として爵位のない生活はさせられない、ということでダスティン家の予備爵であるバルテン男爵を名乗っている」
「だから正式にはお兄様とお義姉さまは男爵と男爵夫人なのよね。でもなにごともなければお兄様はお父様の後をお継ぎになって伯爵になるから、正式な場以外ではあまり呼ばれないんじゃないかしら」
「ご教授くださりありがとうございます…。お手間をおかけして申し訳ございません」
またバルテン男爵を頂戴いたしたときに付随した領地もまたベルナルドの領地として、そこの収入はベルナルドの采配に任されている。これは父であるアイザックが次期伯爵として生活していた時と同じでダスティン家の伝統だった。
馬車に乗ってからもパメラは熱心にベルナルドに爵位についての疑問を投げかけては丁寧に返す兄の言葉を聞きながらマリアンナは今日の出来事を振り返っていた。
まるで夢のようなことばかりで、現実感がない。本当に国王陛下とお茶会をして、王弟殿下に庭を案内していただいたのかしら。
今日はもう詳しいことを説明する気力も体力も尽きているので、兄に伝えるのは明日にしたほうがいいだろう。ベルナルドもそれに気づいているのか、マリアンナに話を振ってくることはなかったし、お茶会でなにがあったかを尋ねることもなかった。
夕食のときに相談しよう、と思っていたのだが身軽な格好に着替えて、ソファーでお茶を待つ間に眠ってしまったらしく、マリアンナが目を覚ましたときにはなんと次の日の朝だった。
「え…うそでしょ…」
「お嬢様、おはようございます」
「え、ええ…おはよう、パメラ…その今何時なのかしら」
「十時になりましたお嬢様」
完全に寝過ごしている。どうして誰も起こしてくれなかったのかしら。いいえ、これは責任転嫁ね、悪いのは私だもの。
「朝ですら、ないわね…」
「お嬢様を起こすべきか迷いましたが、ベルナルド様に疲れているだろうから寝かせてあげてほしい、と頼まれましたので」
「もう…お兄様ったら、私を甘やかさないでほしいわ」
「それだけお嬢様のことを心配されていたんですよ。お食事にされますか?」
「ええ…できれば軽いものでお願いね」
「かしこまりました。こちらでお召し上がりになりますか?」
「いいえ、食堂でいただくわ」
「ではそのように伝えてきて」
パメラのそばに控えていたメイドに告げるとパメラはマリアンナの身支度を始めた。
腕の良い侍女は主人の意向を汲み取り、適切なドレスを選ぶことができる、というがパメラは完璧だった。長く一緒にいるから、というのもあるが何も言わずともマリアンナの望んでいた楽に着ることのできるデイドレスを用意してくれた。
こんな時間になってしまったので当然だが食堂にベルナルドの姿もなければアデレイドの姿もない。食事を終えたらアデレイドを探すことにする。昨夜の失態について謝罪しなければ、いくら疲れていたからと言って夕食を食べることなく眠ってしまうなんて大失態だった。
「お義姉様はどこにいらっしゃるかしら」
「奥様はサロンで日光浴をされております」
「ありがとう。パメラ、サロンに行くわよ」
「かしこまりました」
「お義姉さま、いまよろしいかしら?」
「あら?マリアンナ、起きたのね。おはよう」
「おはようございます、お義姉さま、オードリーもおはよう」
外に出たら寒いけれど、少しでも日差しを浴びさせたいと思ってアデレイドはこの時間帯にはオードリーと一緒にサロンの窓際に座っている。
「よく眠れたかしら、マリー。めずらしく早寝さんだったわね」
「ええ、とってもよく眠れましたわ、お義姉さま。でも起こしてくださればよかったのに…」
「貴女に無理をさせたくない疲れているだろうから寝かせておいてやりなさい、と言ったのはベルよ。そして賛成したのは私」
そう言いながらアデレイドはオードリーの寝かせられているゆりかごをゆらゆらと揺らしながら話す。
「普段と違うことをしたんですもの、マリーがくたびれるのも無理はないわ。今日もゆっくり過ごすのよ」
「わかっています…。それにしてもお二人は私を甘やかすのがお上手ですわ」
「ふふ、いつもは甘やかさせてくれない義妹がかわいいから仕方ないわね」
「それでは昨夜の私は甘やかされてしまったんですね」
「そうよー。だからこれからも頼ってね?そうだわ、お茶会どうだったの?」
どう、と聞かれると答えるのがむずかしい。一番記憶に残っているのは陛下が突然王弟殿下っとの婚約打診をしてきたことだが、それを無造作に話ししていいものか、たぶんよくはないだろうと思うとお茶会での話の印象的な出来事はあまりない。
「ああ、そうですわ。陛下自らケーキをとってくださって、とっても困りました」
「それは、困るわね…。私もどうしたらいいかわからないわ」
普通はそばに控えているメイドがすることで自分たちのすることではない。もちろん、気のおけない友人たちと一緒に過ごしているときであれば自分の手ですることもあるが、今回はそれに当たらない。
「マリーは変わろうとしなかったの?」
「もちろん、私がやります、と言ったのですが陛下が王妃殿下にもやっているから、と仰って…それで断るなんてできませんでしたわ」
「まあ…。両陛下が仲睦まじいのは喜ばしいことだけど…マリーは困ったでしょうね」
マリアンナが困りながら所在なさげにしている姿が想像できたのかアデレイドはクスクスと笑っている。
「淑女の鑑への道、にはそんなこと書いていませんでしたから、私以外の方でもきっと困ってしまったと思いますわ」
『淑女の鑑への道』というのはタイトル通り、貴族子女のための教本でこれさえ読めば淑女としての振る舞いは完璧になる、という謳い文句で貴族の家々に広く分布する本である。ただし、この本が作られたのが百年ほど前なので少し情報が古いのに改訂されていないという少し欠陥があった。
それでもこれを読めば一通りの淑女の振る舞いができるようになる、と信じられ、今でも愛読されている。
「今なら私が教えてあげられますわ。陛下にケーキをとっていただいたときの対応について」
「ふふふふ、そうね、もし次がありそうだったら教えてもらおうかしら」
ほかにはどんなことがあったの、と言われて思い出す。色々と話をした。
普段なにをして過ごしているのか、どんなお茶菓子が好きか、そういった取り止めのないことをいつまでも話をしていた。いま思えばもしかするとマリアンナの素行の調査をしていたのかもしれない。
国王陛下に嘘をつくような度胸、マリアンナにはない。
「ほかにはどんなお菓子が出たの?お茶は?」
「レモンケーキに、ブルーベリーのタルト。おいしいサンドイッチもあったわ」
「スコーンは?」
「もちろん、ありましたよ!胡桃の入ったスコーンはとってもおいしかったわ!」
「あら素敵ね!今度、うちでも胡桃の入ったスコーンを作ってもらおうかしら」
「こんなこと大きな声で言えないけど、クリームはうちのほうがおいしかったの」
「ふふふ、ダスティンの牛乳やクリームはおいしいものねえ」
農業が盛んな平野の広がるダスティン領は畜産も盛んに行われている。そのため伯爵領にいるときは毎日新鮮な牛乳が飲めるし、バターもクリームも特別新鮮で良いものが領主の元へと届けられている。
王都にいるときはそこまで新鮮な牛乳は飲めないけれど、クリームやバターなどの加工品はできるだけ領地から持ってきたものを使っているので、ダスティンのタウンハウスに出てくる焼き菓子はとてもおいしい、と評判なのだ。
「こうしてお菓子の話をしていると食べたくなってきちゃったわね」
「ばあや、なにかあるかしら?」
「かしこまりました、若奥様、お嬢様。すぐにご用意いたします」
お茶菓子を楽しみながら、穏やかに当たり障りのないお茶会での出来事を話しする。初めて入った王宮はとても広かったことや、調度品の質の良さなど、話が弾んでいる時のことだった。
「マリー、お前!王弟殿下との婚約とはどういうことだ?!」
「おかえりなさいませ、お兄様」
顔色を何やら赤くしたり青くしたりと彩り豊かにさせながらベルナルドがサロンへと飛び込んできた。
「あらベルナルド、今日は早いわねえ」
夕方くらいになると思っていたのに、とアデレイドがのんびりと言うや否やすやすやと眠っていたはずのオードリーが泣き出してしまった。
「あらあら、オードリーびっくりしたのね…せっかく眠ってたのに急に大きい声を出すなんてお父様はひどいわね」
「うっ…すまないオードリー、アデレイド…。ばあや、オードリーを頼めるか」
「はい、かしこまりました若様。ですが若様、父親になったのですからもう少し落ち着きを持ってください。」
「それは、その…本当にすまない…頼んだ」
ばあやと呼ばれる女性はマリアンナたちが生まれるよりも前からダスティン伯爵家に仕えている家人である。祖父の代からずっとメイドとして働き、今はダスティン家の家政婦長である。そういった背景もあり、ベルナルドどころか父のアイザックすら頭が上がらない人物だ。
アデレイドの腕の中で泣きじゃくるオードリーをばあやは受け取ると、あやしながらサロンから出て行った。彼女に任せればすぐに泣き止むこと間違いなしだ。
「それにしても、マリーったら!王弟殿下との婚約ってどういうことかしら?求婚されたの?」
「ああ、そうだ!話が逸れてしまったが…どういうことなんだマリアンナ。このことは父上は知っているのか?」
「その質問に答える前に。私の口から伝えられなかったことを謝りますわお兄様」
本当は帰ってきて少し休んだ後に伝えるつもりだったが、眠ってしまって叶わなかった。それを言い訳にするつもりはないし、おそらく伝えずとも伝わったはずだ。
「すまない、マリー…お前が疲れていて話す暇がなかったことを責めたかったわけではないんだ…。いじわるなことを言ってしまったな」
「いいえ、そんなことありませんわ。お兄様は領地にいるお父様の代わりに私の心配をしてくださっただけですもの。そしてそれならお兄様に伝えておくべきでしたわ」
心配だから、というだけではない。伯爵家の当主が領地にいる以上、王都での名代はベルナルドになる。そのベルナルドが事態を把握してないというのはよくないことだ。
「でもお兄様、私は昨日伝えそびれてしまいましたが、どなたからその話を聞いたんですの?」
大方予想はついているけれど一応確認をしなければならない。
「陛下より直接お伺いした。だが、詳しいことは聞かされていない…ただ、王弟殿下とマリーの婚姻を、都合がよければ進めていきたいと聞いただけだ」
いきなり陛下の結論だけを聞かされた形になり混乱しながらもベルナルドは帰宅し、マリアンナに直接説明を聞かねばと思った。
「まず誰よりも、何よりもマリアンナの気持ちを聞きたいと私は思ったんだ」
「お兄様ありがとうございます…」
お茶会に行って、セリムとの婚約解消になってしまったこと、その原因が国にあったことの責任はすべて国王である自分にある、と言ってくれた。そこで婚約相手の候補の一人として王弟殿下はいいのではないか、と紹介された。
「うーーーん、それは…とても急じゃないか…?」
「そうなんです…。ですので、お父様かお兄様に相談して、というか意見を伺わなければいけないと思っていたんです」
いきなり婚約者候補として、レオンハルト王弟殿下が現れるとは思っていなかった。
「王弟殿下か…確か、近衛騎士団の副団長をされていたはずだ…」
「あらそうだったんですの?ということはブライアンお兄様の上司の方?」
「直属ではないと思うが…。あと、剣の達人だったはずだ…陛下もお認めになっているくらいの腕前だぞ」
「じゃあお兄様とどっちがお強いのかしら」
「マリー、それブライアン様にも王弟殿下にも言っちゃダメよ」
「そうですか?」
「しかし王弟殿下か…王族…」
野心のある貴族であれば飛びつくようなことだし、普通の貴族であれば王族との縁を結べることを喜ぶことなのだが、ダスティン伯爵家は違う。喜ばしいとは思うけれどそういった野心とは無縁であるし、これ以上を望む理由もない。
伯爵領は豊かな土地とすばらしい経営により安泰で、ダスティン伯爵家は歴史ある家門であるという自負がある。王家への忠誠心は揺らぐものではなく、縁を結ぶという発想もない。
「少なくとも王弟殿下を厄介払いしたい、という意図ではないだろう…。あのお二人の仲は良好だし、殿下本人のお人柄も良いと私は聞いている。詳しく聞くならブライアンを呼んだ方がいいだろうな…」
お茶会でも兄弟仲は良さそうに見えたので、そこは問題ないとマリアンナも感じている。
「だから仮にこの婚約が成立したとしても、輿入れ自体は問題ないと思う。排斥に巻き込まれたり、などはないだろう」
そういった視点はなかったけれど、確かに言われてみれば邪魔になった王位継承者を排斥する、などの際に婚姻相手も一緒に排除される可能性はある。下手をすれば一族郎党にまで及ぶ可能性だってある。
「いまの王位継承権は、王弟殿下が第一位になる…そんな方に輿入れするとなると……家格としては…まあギリギリ…ギリギリか…?」
「あら、ダスティン家は領地の広さはともかく家門としての歴史で考えれば四公爵家より古いと聞いていますよ」
「王国ができる前からダスティンはこの土地にいたからなあ…元はただの豪族だ」
歴史と家格を重んじる貴族社会であれば、ダスティン伯爵家ならば文句を表立っていうものはそう多くはないだろう。言ってくる可能性があるとすれば公爵家からだが、王弟殿下に嫁げるような子女はいないはずだ
「ただ、問題があるとすればロダン侯爵だろう」
「ああ…うーーん、そうねえ、ロダン侯爵はちょっと心配だけど…ベルが心配するほどのことはないんじゃないかしら」
マリアンナだけを置いてけぼりにしてベルナルド夫妻だけがうーんと唸っている。アデレイドは大丈夫と言って、ベルナルドは心配しているがどういうことだろうか。
ロダン侯爵、と言ってもデビュタントを済ませていないマリアンナは当然面識はない。ただこの国の貴族であればどんな貴族であれ情報を載せる必要のある貴族名鑑で名前だけは知っていた。
「確か…宮廷貴族の方、ですよね?」
「そうよね、マリーはあまり知らないわよね。宮廷貴族はわかるわよね?」
「はい、領地を持たず、王宮の要職を勤めることを専門とした貴族の方達ですよね」
領地持ちと違って領民や税収などはなく、宮廷から支払われる給与と名誉を誇りとしている貴族だ。
「そう、宮廷貴族のなかでは今の筆頭といってもいいのがロダン侯爵家だ。侯爵の妹君が先王の第二妃として嫁がれ、そして第三王子殿下…ああ違うな今はクラウス王弟殿下がいらっしゃる」
「ああ…つまり、ロダン侯爵はクラウス殿下の王位継承権を、と?」
「いやそこまでは考えていないだろうから。大丈夫だとは思う…思うんだ。すまないマリー余計な話をしてしまったな」
「あ、いいえ…今まであまり深く王族の方達の関係性など考えておりませんでしたので、勉強になりましたわ、お兄様」
「そうか…よかった…」
「あの、ところで…お兄様にお聞きしたいことがあるんですが、このお話についてどう思われましたか?」
「どう、というと?」
「ダスティンのためになりますか?」
じっとマリアンナはベルナルドを見つめる。最初は驚いたような顔をしていたがベルナルドは少し考える顔をした後にニコリと笑った。
そしてマリアンナの前にすっと膝をつき、目線を合わせる。
「そうだな…ダスティンにとって悪いことではないと思う。だが、マリー。これは兄としての言葉だが、お前がどう思ったか、どうしたいか、ということも考えてみなさい」
無意識に膝の上でぎゅっと握りしめていたマリアンナの手にベルナルドは大きな手を重ねてきた。
「え…私の、ですか?」
「ああ…きっと父上も同じようなことを言うとおもうぞ」
兄の手の温かさと大きさに少し安心を覚える。でもどう考えているか、なんて言われてもあの一度しか会っていない状況で答えなんて見つけられるかしら。
「おそらくだが陛下のあの様子では急いでいる感じではないと思う。だからじっくり考えてみなさい」
「わ、かりましたわ…お兄様」
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