プロローグ
初投稿です。
ここはラバグルート王国の王城にあるサロンのひとつ。香り豊かなお茶とおいしそうなお菓子やふんだんに果物を使ったケーキがテーブルの上には並んでいる。
こんなに素敵なお茶会にまだデビュタントを済ませていないマリアンナは初めて参加している。今すぐにでもそれらを口に運び味わいたいが、そんなはしたないことをしてはどうなるのかマリアンナには想像ができなかった。
「ふむ…ご令嬢はこういった甘味を好むと思ったのだが…気に入らなかったかね?」
「そ、そんな滅相もございません。すばらしい品々に目を奪われてしまって、申し訳ございません」
「そうか。そんなに堅苦しくせずとも良い。どれ、このレモンのパイは妃のおすすめであるぞ」
にこやかにレモンパイをわざわざお皿にサーブするのはこの王城の主であり、この国の国王であるテオドール二世陛下だ。そばに控えていたメイドたちが止める間もなく手際よくクリームまで乗せてくれた。慣れた様子なのが意外だった。
「国王陛下に盛り付けていただくなんて、光栄の極みですわ」
皿の上にはレモンパイとクリームにフルーツなどもきれいに盛り付けされている。サクサクのパイ生地とレモンの爽やかな甘味がマリアンナの口の中でハーモニーを作り出す。
「とってもおいしいです。」
「おおそれはよかった…妃にこうして盛り付けるのも余の役目なのだ」
ニコニコと笑う陛下にマリアンナも釣られて笑みが溢れる。自分が暮らしている国の国王夫妻の仲が良いのは良いことだ。
最初は緊張していたがテオドール二世陛下ができるだけ朗らかに話しかけてくれるおかげで緊張もほぐれている。
マリアンナの様子をしっかりと見ていたのだろう、一度姿勢を正したテオドールがマリアンナに向きあう。
「ダスティン伯爵令嬢よ、この度は我が国の政策のために婚約解消をさせてしまったことを申し訳なく思う。余は王である故、軽々に頭を下げることができぬが…うら若き令嬢に皺寄せをさせてしまったことは、余の至らぬせいである」
「そ、そんな!陛下のせいではございません!」
国王にこんなことを言われて冷静でいられるほどマリアンナは大人ではなかった。
そもそもコトの発端は王のせいではないし、致し方なかったのだ。一介の貴族令嬢であるマリアンナには国を揺るがすような、外交問題に対して意見も文句も言える立場ではない。
「この婚約破棄は仕方なかったのです…。それに一度すでに経験しておりますから、二度目も驚いていますが、気にしておりませんわ」
一度目は婚約無効、二度目は婚約解消。慣れっこだ。
そうマリアンナは自分に言い聞かせるしかない。だって自分のせいではなく、ましてや国王陛下のせいでもないのだから。
「マリアンナ嬢は評判に違わぬ淑女の鑑であるな…。しかし、それでは余の気がおさまらぬ。そしてまた王太后陛下も納得しないのだ」
「王太后陛下ですか…?」
「うむ…恩人の孫娘である其方に苦労をかけるなど言語道断!!と久方ぶりに叱責された」
ははは、と快活に笑っているが王太后に叱られる、恩人、とマリアンナには聞き覚えのないことがたくさん羅列された。真新しい情報を理解するよりも先にテオドール二世は話を進めてしまう。
「なので、余は其方のような淑女にふさわしい婿を見つけねば、と思い今日ここに呼んである。御令嬢のお眼鏡に叶うと良いのだが」
「婿……ですか…」
はぁ誰の?と言わなかっただけよく堪えたと思う。あとでマリアンナはこの日のことを思い出した際にそう思った。
そのくらい急展開で、あまりに突拍子のないことであった。
「さてそろそろ来るであろう…ふむ、ちょうどすばらしいタイミングだ」
重厚な扉が開いて、入ってきたのは近衛騎士団の制服を着た青年だった。
「紹介しよう。これは我が弟のレオンハルトだ」
紹介したい相手というのは王弟殿下のことだ、と理解した瞬間にマリアンナはくらくらとした。どうしてこんなことになってしまったのか。思わず思考が明後日に向かってしまった。
趣味全開で書いています。
たのしい。