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ナゲヤリ・ファンタジー  作者: 谷橋ウナギ
第一章 魔王編
9/29

第九話 魔王ザメク


    1


 魔王城から、駆け出るクサナギ。そしてクサナギに抱えられたチビ。しかし、脅威は未だ二人組を巻き込もうと背後から襲い来る。

 石で作られた魔王城。渇き果て荒れ果てた暗い大地。それらがバラバラに粉砕されて、巻き上げられ、球体状となる。


 魔王城を中心として起きた、異変の範囲は広がり続けた。つまり巻き込まれたくないのなら、逃げ続けるしかないと言う事だ。


「どああああ! おいチビ! なんだこれ!?」

「我が知るか! とにかく今は逃げよ!」


 勇者クサナギは口論しつつも、全身全霊で走り続けた。

 一瞬でも立ち止まろう物なら、地面と共に吸い込まれてしまう。


 この現象はどこまで続くのか? 無限に広がるようにも思える。

 しかしクサナギは驚いた。急に現象が停滞したのだ。


「お、止まった?」


 そこでクサナギはブレーキをかけ後ろを振り向いた。

 すると確かに吸い込みは止まって地面は落ち着いた──ように見える。だが完全に停止してはいない。吸い込まれた物が集まっている。


 大地には抉られたクレーター。その天に、滞留する球体。砕かれた物達が渦を巻いて、小さな球体へと集束する。


「うわー。なんか凄くいやな予感」


 この後一体何が起こるのか? 何故だかクサナギにも感じられた。

 集束しきった物体が、今度は破裂して拡散をする。


「のわああああ!?」


 その砂のバーストに呑み込まれ、クサナギ達の姿は掻き消えた。


    2


 二百年前──魔王ザメクは勇者リーン・ファウルと戦った。

 当時のザメクの姿はと言えば人型ではあるが異形のキメラ。頭は山羊。翼はドラゴン。足は馬。胴は黒い獣毛。


 勇者リーンはそんな化け物に、たった一人きりで対峙していた。ここに至るまでに仲間は倒れ、残された希望は彼しか居ない。


「我は支配者。究極の支配者。その我に何故その剣を向ける?」


 その勇者にザメクは質問した。

 低い声だが、威嚇ではない。心底不思議に思っていたのだ。


「人の子も魔族の子も皆同じ。完全なる支配を望んでいる。我にその魂を預ければ、最早未来を案ずることはない」


 まるで複数の声が重なって造られたような──不気味な声だ。

 しかし勇者は怯んでなどいない。それは魔王にも理解出来ていた。


「私達は悩み傷つきながら、未来を自らの手で掴み取る。お前の言う事はその選択を、そして未来を無価値にしてしまう」


 勇者は諸刃の剣を構えた。それに切り札も隠し持っている。

 しかし魔王は迎え撃つだけだ。究極の支配者だと示すため。


「では勇者よ。ここで朽ちるが良い」

「否! 私が貴様を討ち果たす!」


 この後の出来事はほぼ全ての人類、魔族が知っていることだ。死闘の末命と引き換えに、勇者は魔王を封じたのである。

 犠牲となった人は数知れず。犠牲となった魔族も数知れず。だがどちらも学習できなかった。故に今──ザメクが蘇る。

 魔王を封じた勇者の祈りは忘却の内側で朽ち果てた。


    3


 魔王城跡地に集まった砂。それは弾け周囲に拡散した。

 勇者クサナギ達も覆われたが、それで傷を負ったりはしていない。


「ぺっぺっ! あー口がジャリジャリする」


 多少口へと砂が入ったが、クサナギもチビもピンピンしている。

 もっとも今現在は──である。魔王ザメクはこの世界に降りた。


 穿たれたクレーターの中央に直立する人のような物体。しかし、それは金色に輝いて周囲を眩く照らし出している。


「で、アレがザメクか?」

「恐らくは……」

「絵本見た奴とだいぶ違うな」


 クサナギはその“魔王”を見て言った。

 魔王は二百年前の時とはまるで違った外見をしていた。確かに人間に似た形状だ。大きさも人間と大差は無い。しかし体は金色の水晶。僅かに透ける眩い金色だ。その素材は金属のようであり、また若しくは硝子の様でもある。


「ふいー。ま、計画通りだ。どうせ奴を殺しに来たんだしな」


 しかし怖じ気づいている暇は無い。クサナギも使命は心得ている。


「待て勇者よ。渡したい物がある」


 だが、チビが一旦引き留めた。

 彼は収納魔法を発動し、口の中から短剣を取り出す。


「これは勇者リーンが使った物。封印の短剣と同じ物だ」

「あー、絵本に書かれてた奴だな?」

「その通りだ。弱らせ、使用しろ」


 かつて勇者リーンが使用した、魔王を封印する秘密兵器。

 柄も鞘も装飾が美しく、特別な物だと主張している。


「サンキュー。じゃ、叩き潰してくるわ」


 クサナギはその短剣をしまうと剣を手に持って──そして歩き出す。


「すまない。クサナギ。我の力では……」

「良いからお前はそこで見てやがれ」


 その背にかけられたチビの言葉をクサナギは意気揚々と返した。


「セシリアちゃんを口説き落とすにも、生きた証人が必要だからな」


 かくして新たなる勇者と魔王。二人は対決へと導かれた。


 入手アイテム:封印の短剣


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