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ナゲヤリ・ファンタジー  作者: 谷橋ウナギ
第一章 魔王編
5/29

第五話 昨日のドラゴン


    1


 ドラゴンはまるで芸術のような美しい卵から生まれ出でる。水晶が照らす彼等の聖域──驚くほど巨大な洞窟で。

 チビは殻を破って誕生した。たった数年前のことである。


 体を振った後に目を開けると、そこには見上げる程巨大な母。


「可愛い坊や。目覚めたのですね?」


 その母はぐるると喉を鳴らした。

 しかし言葉の意味は理解出来る。ドラゴンの言葉は、魔力なのだ。


 母は黒い鱗のドラゴンで、犬のように体を丸めていた。爪は鋭く、角は猛々しく、翼はガレオン船の帆の如し。

 もしこの巨体が宙を舞ったならあらゆる生物がかしずくだろう。


「貴方は?」


 その母に、チビは聞いた。

 すると母が笑顔で返答する。


「私はマグディリス。貴方の母。残り少ない竜の生き残り」


 圧倒的な存在感からは、想像だにできない暖かさ。

 彼女はチビを見下ろして続けた。


「そして貴方はその私の子供。竜族の王。名前はグラドルグ」


 グラドルグ──それがチビの名前。まだ小さな未来の竜の王。


「我はグラドルグ。グラドルグ?」

「そうよ可愛い子。さあこっちに来て? それとも先に食事が良いかしら?」


 マグディリスが微笑みかけてくる。

 その前にはスープのようなものが。


「ごはん!」


 グラドルグはとてとてと、そのスープに走って飲み始めた。

 黄金色の光る澄んだスープ。それを一心不乱に飲んで行く。

 マグディリスはその様子を眺めて、愛おしそうに、目を細めていた。


    2


 洞窟の中をパタパタと飛んで、母の寝所に帰るグラドルグ。

 彼が生まれてから五年が経った。しかし肉体はまだまだ小柄だ。

 それでも一生懸命に飛んで、自らの母の元に飛来する。


「母上。ご機嫌はいかがですか?」

「大丈夫。心配は無用です」


 そのグラドルグが問うと、母親は、目を開け気丈に振る舞って見せた。

 だが嘘だ。彼は知っている。母は日に日に衰弱していると。


 あらゆる生命には寿命がある。それは巨竜と言えども変わらない。やがて母は大地に帰るだろう。それが“生きる”──と、言う事なのだ。


 それでも彼は心苦しかった。しかし今は成すべき事がある。


「どうしましたか? 私の愛しい子」

「今朝、巫女から知らせがありました。魔王に復活の兆しがあると」


 グラドルグは険しい顔で言った。

 その言葉がドラゴンにとって持つ、重さをグラドルグは知っていた。


「そうですか。やはり封印を……」


 一方、それを聞いたマグディリスが大きな瞳をゆっくり細める。


「魔王ザメクはかつて我々と、ドラゴンとも敵対していました。あの者との戦いで同胞は、命を燃やし、そして散っていった」


 それは二百年ほど前の事。魔王ザメクは魔族を配下とし、この世界に対して牙を剝いた。

 同盟を組んだ人とドラゴンはその脅威に対抗して激突。双方に膨大な死者を出した。ドラゴンもだ。多くが滅び去った。


 だがザメクは消滅していない。ただ封印を施されただけだ。封印が解かれれば瞬く間に、世界を戦火に包み込むだろう。


「これから我は山を降ります。人を助け魔王を挫くために」


 故に、グラドルグは宣言した。

 この日が来ることは理解していた。この日のために鍛練を重ねた。グラドルグには竜の王として、魔王を撃滅する義務がある。


「逃げても良いのですよ?」

「知っています。その上で、逃げたくないのです」


 グラドルグはマグディリスに返した。

 母は優しく、世界は美しい。闘争はグラドルグの意思なのだ。


「必ず魔王を倒し、帰ります」

「無事で。私の子、グラドルグ」


 パタパタと、飛び去るグラドルグ。母の視線は彼を追い続けた。その姿が見えなくなった後も。ずっとずっとずっと、追い続けた。


    3


 そして現在。森を抜けた先は地面がひび割れた荒野であった。

 天からは太陽光が照りつけ、容赦無く水分を奪い去る。植物は減り隠れる影もない。まるで地獄のような景色である。


 その荒野を行く勇者クサナギの、チビは隣を飛んでついて行く。


「あー喉渇いた。チビ。水をくれ」


 が、クサナギは急に立ち止まり、チビに向かって右手を差し出した。

 一見、チビは何も持っていない。カバンどころか小さな水筒も。

 しかしチビは確かに所持して居る。それは二人共知っていることだ。


「仕方ない。少々待っていろ」


 チビは言うと大きく口を開けた。

 だが口の中に水はない。代わりに魔法陣が現れる。紫で円形の魔法陣。これは物を収納する魔法だ。

 少しして水筒が現れる。無論チビの口には触れていない。


「おー有り難や。流石は荷物持ち」

「竜の王だと言っているだろうが」

「悪い悪い。まあ気を損ねるなよ。役に立ってるのは間違いないし」


 クサナギは水筒を受け取った。そして水をがぶ飲みしはじめる。

 彼が勇者だ。それは間違い無い。既に三暴魔を一人倒した。


 しかし──


「不安だ」


 チビは呟き、非常に大きな溜息を吐いた。


 入手アイテム:特に無し


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