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ナゲヤリ・ファンタジー  作者: 谷橋ウナギ
第三章 制圧者編
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三章 第五話 惨劇


    1


 金属マンと戦った翌日。朝七時にクサナギは帰還した。転送装置を利用して、洞穴に横たわるチビの元へ。

 当然監視のアオイも一緒に。

 クサナギはその横で手を上げた。


「たっだいまー! おうチビ眠そうだな!」

「クサナギよ。お前は?」

「すっきりだ! いやーこの時代のベッドは良いな。昔より断然ふかふかしてる」


 帰還したクサナギは上機嫌だ。

 監視のアオイは不機嫌だったが。


「ベッドがあるのはわかるけど……寝具売り場で寝ないでくれない?」

「アオイちゃんも寝りゃ良かったじゃねーか」

「あんな場所で寝られるわけないでしょ……!」


 アオイの顔には隈ができていた。昨日は一睡もしていないのだ。

 しかしクサナギは気にせず眠った。クサナギを止められる者など無い。


 ──と、その時だった。クサナギは一人の巫女に気付いた。チビの前に立つ美しい少女。セシリアと同じ髪の色をした。


「旅に出るわ。探さないでくれ」


 彼女を見てクサナギは呟いた。

 悟ったのだ。彼女がセシリアの遠い遠い子孫であるのだと。


「安心してくださいクサナギ様。私は、ティアラ・ダイアモンドです。セシリア様の親戚の子孫……直系の子孫ではありません」


 だが本人がそれを否定した。

 クサナギも旅に出ずに済みそうだ。


 もっとも驚きは続いていたが。外見はそれほどによく似ていた。


「しっかし、セシリアちゃんに似てるなー。雰囲気はアオイのが近いけど?」

「光栄です。そういう勇者様も、伝承より余程端麗ですわ」

「ふっふっふ。俺のナイスガーイはこの時代でも通用するらしい」


 やはり中身は違う。セシリアなら冷たい視線を向けていたはずだ。そう、アオイのように。しかしティアラはニコニコとした笑顔のままである。

 ついでに言えばティアラは髪の毛を後ろで複雑気味に編んでいる。まあ髪型など変えられるのだが、雰囲気には寄与する物がある。


 と、ここまでは和気藹々としたくだらない雑談に終始した。だがいつまでもふざけていられない。クサナギには話すべき事がある。


「とまあ雑談はこのくらいにして。おいチビ、俺に用が有るんだろ?」

「その通りだ。勇者、クサナギよ。我らには共通の議題がある」


 チビもクサナギに同意した。

 その議題とは? 互いに知っている。


「あの金属野郎についてだな。ありゃなんだ? 新種の生き物か?」

「我々は制圧者と呼んでいる。人類にとっての新たな敵だ」


 チビはそう言って語り出す。他所で起こった惨劇の様子を。

 至極、落ち着き払った有様で。ただしチビの視線は鋭かった。


    2


 パーム・ビーチ──クリアな青い海。白い砂が美しい観光地。水着を着た観光客の群はこの時も日差しを楽しんでいた。


 このビーチがあるのは南の島。赤道付近にあるパーム島。時差によりクサナギが寝ていた頃、このビーチは真っ昼間だったのだ。


 そしてその時分に事件は起きた。ヤマト州で起きたような事件が。

 砂浜の砂から湧き出るように──出現した金属で出来た人。クサナギが倒した金属マンと同型の存在だ。おそらくは。


 ただ外見に多少の差異がある。あくまでも“多少”だが違いがある。頭部には角が無く目が三つ。体の線も細く腕が長い。

 もっとも、性質は同じである。人を殺戮するという性質。周囲の人々が備える前に、その殺戮は即座に始まった。


 最初は一般人。観光客。次に警察。そして軍に変わる。その全てを殺戮し続けた。一切休むことなく延々と。


 彼の殺戮は現在も続く。よって人は島から脱出した。

 斯くしてパーム島は制圧者の──彼の制圧した地と成り果てた。


    3


 洞穴ではパームに於ける話、ポイント・グラウの話もなされた。

 しかしそれでも不十分ではある。制圧者に関する情報は。


 解っているのは“人々にとって害になる存在”という事だけ。もっともそれがクサナギにとっては最大の問題となるわけだが。


「つまり、俺にその制圧者だかをぶっ殺してくれってことなのか?」

「そうして貰えるのなら有り難い。このままでは人は殲滅される」


 クサナギの懸念に対して、チビは嘘を吐かずに誠実に答えた。

 とは言えクサナギには足りていない。命を賭ける理由たり得ない。


「いっつも思うんだが、何で俺が?」


 そこでクサナギは不平を述べた。

 クサナギも内心気にはしている。自らを傷付けた制圧者を。しかし決め手が無い。それは元来クサナギの持つ気質に由来する。


 こう見えて平和主義なのだ。ごくごく普通の木こりなのである。

 それを彼女が勇者へと仕立てた。セシリアという少女の存在が。


「セシリアが必要か?」

「必要があったら、生き返らせてくれるのか?」

「我はただ“必要か”と聞いている」

「まあそりゃ断れねえ。セシリアなら」


 クサナギは答えつつ腕を組んだ。

 チビの言葉からは想定できる。セシリアと会うことが出来るのだと。だが人間は五千年生きない。故にクサナギですら困惑した。


 一方チビはクサナギの答を──“断れない”と聞いてほくそ笑む。


「では会わせよう。お前を。セシリアに」


 そしてチビは魔法を行使した。

 巨竜の体が光り輝いて、瞬く間にサイズを縮めて行く。かつて破壊神と戦ったおり、彼が取っていた人間の型に。


 それはそれで驚かされたのだが、クサナギはもう一つ驚いた。人間サイズで地面に立つチビ。その足下にあった四角い床。二、三メートル四方のその床は装飾された扉のようである。


 その扉に魔法陣が現れ、それが消えると扉がひび割れた。そして割れ落ちた先に現れる。地下へと続く暗く長い道が。


「着いてこい。その覚悟があるのなら」


 チビはクサナギに向けてそう言った。

 彼の全身には古傷がある。五千年前には無かったものだ。

 それがクサナギにまた感じさせた。経過した五千年という時を。


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