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ナゲヤリ・ファンタジー  作者: 谷橋ウナギ
第二章 破壊神編
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二章 第三話 破壊神バトロス


    1


 超巨大陸亀型破壊神、バトロスは草原に現れた。陽光を弾く尖った甲羅。鋭いくちばし。血走った瞳。

 そのバトロスは足を引っ込めて、クサナギを体の下敷きにした。


「クサナギ!」

「待てセシリア! 迂闊だぞ!」


 クサナギを心配するセシリアに、チビが警告をして引き留めた。

 それは正しい。バトロスは再び足を出して体を持ち上げた。そして頭を二人の方に向け、口を開けて魔力を収束する。


 口の中から覗く白い光。それが攻撃なのは明かだ。

 チビはセシリアを庇うべく──自らの肉体を盾とする。


 もっとも、そんな必要は無かった。


「人を埋めるな! このデカブツがー!」


 土から飛び出してきたクサナギのアッパーカットが顎を打ち抜いた。

 バトロスの頭は上方を向き、開いていた口はしっかりと閉じる。しかし既に魔力は臨界だ。バトロスの口の中で破裂する。


 轟音の後バトロスは倒れた。口から煙を大量に吹いて。


「まったく。おかげで超泥だらけだ。洗濯する手間も考えやがれ」


 一方のクサナギは嘆きながら、そのバトロスの頭を蹴飛ばした。

 だがまだ決着には至らない。バトロスが態勢を立て直す。


「うお。頑丈な奴。まあ良いか。鈍いし逃げられる心配もねえ」


 そこでクサナギはトドメを刺すため、甲羅の上方へと跳躍する。

 山のようなバトロスの更に上。そこからクサナギは甲羅に落ちる。右拳に勇者のエネルギーを、これでもかと集中させながら。


「死して今夜のスープの出汁になれ!」


 そして叩きつける。その拳を。バトロスの硬く分厚い甲羅へ。

 だがそのパワーは規格外だった。エネルギーが甲羅を裂いて砕く。当然その下の体もである。バトロスが青い血を撒き散らす。


 この後は──セシリアの仕事だ。


「今だセシリア!」

「はい! わかっています!」


 チビに指示される必要など無い。セシリアは短剣を抜き、掲げた。


「破壊神バトロス! その魂と、悪しき心をここに封印する! カイ・フェウ・エルメート!」


 そして唱えると破壊神──バトロスの体が粒子となった。元の光る粒子に戻されて、暴風と共にナイフに食われる。


 封印の短剣は機能した。機能して破壊神は消え去った。その様子を見ていたクサナギは、少しだけガッカリしてしまったが。


「あーこれじゃ出汁にはならねーな。結構、楽しみにしてたんだが……」


 野獣も良いところなクサナギだ。そんな理由から溜息を吐いた。


    2


 バトロスを封印した三人は直ぐに王国へは戻らなかった。むしろ大きなテントを設営し、この地点で一夜明かす予定だ。

 そのためにクサナギは薪集め。チビは食材を下ごしらえする。


 ただしセシリアだけは別である。彼女の仕事はバトロスの調査。


「なるほど。微かですが、感じられる……」


 彼女はほんの少し残された、バトロスの破片を手に持っていた。

 そしてそこから感じ取っていた。破壊神の意思を。その目的を


 ====


 そしてとっぷりと日は暮れた。

 三人は真っ赤な焚き火を囲み、広げた敷物へと座っている。


「ではディナーだ。大地に感謝して……」

「うまうま!」

「勇者よ。最後まで聞け」


 チビの祈りなど全く無視して、クサナギは晩飯を取り始めた。

 芳ばしいパン。優しげなスープ。適度に焼いた厚いステーキまで。チビが魔法で持ってきた食材。それを彼が調理したものである。


「お前今すぐこれで稼げるな」

「褒め言葉として受け取っておこう」


 クサナギとチビはくっちゃべりながら、並べられた料理にがっついた。

 しかしセシリアだけは食べていない。その上、神妙な面持ちである。


「二人共、食べながらでも良いので少し話を聞いていてください。今日、最初の破壊神バトロスを調査して知ったことを伝えます」


 セシリアは一度食器を置くと、二人に向けて説明をはじめた。


「事前に魔王から得ていたとおり、破壊神は彼が生み出しました。魔王の破片が大地の力を吸い上げて一つの存在となる」


 破壊神とは詰まるところ何か? 非常に重要な情報である。

 だがクサナギが話の腰を折る。クサナギには意味のある質問で。


「そもそも魔王ってなんだったんだ? 訳わからんことばっか言ってたが」


 クサナギは肉を呑み込んで聞いた。


「魔王は魔族の賢者ヌムードが儀式によって生み出した支配者。当時の魔族領は饑餓によって苦しい時代を迎えていました。しかし、魔族の支配階層はそれを救わず食料を取り立てた。よって魔族達の意思を集めて新たなる支配者を生んだのです」


 するとセシリアも素直に答える。この情報にも意味があるからだ。


「しかしヌムード本人を含めて魔王は魔族ですら殺しました。従わぬ者を全て抹殺し、理想とする世界を実現する。魔王は純粋な支配者でした。強く、人を人とも思わない」


 そこまで言うとセシリアは目を閉じ、そして再びぱっちり目を開けた。

 “ここからが本題”と言うように。


「ですが破壊神は全く違う。彼等に他者を従える気はない。破壊する事が目的なのです。魔族ですらもその対象でしょう」


 セシリアが二人に伝えたかった──恐らくこれが話の本題だ。


「だが何故魔王がそんな存在を……?」

「おそらく敵対者を屠るために」


 チビの疑問にセシリアが答える。


「魔王は二度勇者に敗れました。これでは支配など成立しない。そこで自らに敵対する者、その全てを葬るつもりでしょう」

「支配する事のみが目的か」

「ええ。例え魔族すら滅びても」


 セシリアとチビは深く考えた。人間と魔族、それぞれの業。

 一人呑気なのはクサナギだけだ。それがクサナギの良い所である。


「ほーん。まあ全部倒せば良いだろ。ところでチビ、ジュース出してくれ」


 チビが投げたジュースの入った瓶。クサナギはそれをキャッチして飲んだ。

 策を練るのは二人組の仕事。クサナギの仕事は闘争である。その原則が代わらない以上は、呑気にジュースをラッパ飲み出来た。


    3


 翌朝。テントは撤収完了。澄んだ空気が気持ちいい限りだ。

 クサナギ達三人はそれぞれに移動する準備を整えていた。問題はどこに向かうかだ。クサナギにもまだそれはわからない。


「で、セシリアちゃん。次はどこに行く? 破壊神その2をぶっ殺すのか?」

「いえ。まずは王都に戻りましょう。態勢を整えて次の敵へ」

「了解。じゃ、ジュースも補給だな」

「それとお茶も……何でもないです」


 セシリアは少し頬を赤く染め、照れ隠しのため先に歩き出す。

 こうして一体目の破壊神──バトロスの討伐は幕を閉じた。


 入手アイテム:バトロスの残渣


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