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白星と黒龍

 全ての岩石が砕かれ、纏われていた炎が空中に散った。


「《僕のこの状態が解除されていないことからも分かるけど、魂の内側で起こった術に対しては干渉出来ない。これが一つ》」


 ダンタリオンの体に黒い鎖のような模様が広がり、そこから紫の炎が燃え上がる。そして、黒い瞳の内側が紫に光った。


「《もう一つは……》」


 ダンタリオンは自身の足元に落ちた式符から伸びる鎖を砕き、上を向いて跳んだ。



「《――――この結界はどう足掻いたってあの龍が居なきゃ成立しないってことさ》」



 空を舞う龍の眼前まで飛び上がり、その強化に強化を重ねられた身体能力で龍の顔面を殴りつけた。


「ォオオオオオオオッッ!!!」


 顔の半分が消し飛び、そこを起点に胴体まで紫色の炎が走る。龍は堪らず地に墜ちて行く。


「ッ、陽辰が一撃で……!?」


「止めるわッ!」


 いつの間にか再生していたメイアが飛び出し、墜落した龍に止めを刺そうとするダンタリオンに血の槍を投げつける。


「《あはは、無駄だって》」


 ダンタリオンは槍を指先一つで弾き、そして片腕を大きく掲げた。その手にはメラメラと紫色の炎が燃えている。


「《さぁ、チェックメイトかな?》」


 振り下ろされる拳。それが龍に直撃すると、龍の全身から紫の炎が噴き上がり……黒い龍は、結界と共に消滅した。


「……こ、れは」


 霧散する黒い世界。蘆屋の表情が、絶望に染まっていく。


「まだよッ、紅血の――――」


「――――《だから、無理だって》」


 メイアの周囲に浮かび上がった無数の紅血の矢。しかし、それが放たれるよりも早くダンタリオンがメイアの目の前に転移し、その拳を振るった。


「《……あれ、入ってこれないようにしてたと思うんだけど》」


 だが、その拳は空中で止まっていた。影から伸びる夥しい数の腕に捕まれているからだ。



「――――おい、大丈夫かお前らッ!?」



 現れたのは一匹のカラスだった。宙を舞う彼の周囲には無数の影で作られたカラスが飛んでいる。


「カラスッ!? やばいよッ、こいつは戦っちゃダメだ!」


「えぇ、逃げましょう。私達で相手するには荷が重すぎるわ」


「確かに、中々ヤバそうだなこいつは……」


 ダンタリオンは興味深そうな表情でカラスを見る。


「《どうやってここに気付いたのかな? 外との連絡は断ってたし、結界を認識することすら出来なかった筈だけど》」


「俺は目が良いんだよ」


 カラスは適当に応え、そして蘆屋とメイアの傍に舞い降りた。


「《目が、ね……いや、見るのが早いかな》」


 ダンタリオンはそう言って、カラスの記憶を覗いた。


「《……待てよ》」


 結界を見つけた際の記憶より先に見つかったその記憶。ダンタリオンは、冷や汗を垂らした。


「それと、お前ら……逃げるより先にやることがあるだろ。蘆屋は兎も角、メイアはよ」


「……何かしら」


 メイアは思い至らないようで首を傾げた。


「俺がここに居るってことは、既に結界は壊してるってことだ」


「……全く分からないわ」


 カラスは呆れたように短い首を振った。


「ボスを呼ぶことだよ。俺はこいつを見た瞬間に救援要請を出したぜ?」


 メイアは分かったような分かっていないような曖昧な表情をした。その様子に流石にカラスも違和感を感じ取る。


「《そいつは、ダメだ。だからこそ救援を呼ばないように常に()()し続けてたって言うのにさぁ……逃げないと》」


 ダンタリオンは諦めたように転移しようとして……発動しないことに気付いた。



「――――全員生きてるな」



 ダンタリオンの背後に現れた男。どこかくたびれた雰囲気のある男……老日は、そのままダンタリオンに向かって歩いていく。


「《ッ、こいつは……だ、だけどッ、あははッ!》」


 ダンタリオンは老日に振り向き、拳を構えた。


「《流石にこの状態の僕とまともにやりあえば――――ッ!?》」


 一瞬でダンタリオンの懐まで潜り込んだ老日、振るわれる剣。防御しようとクロスした両腕が一撃で斬り落とされる。


「《なッ、なッ、な――――》」


 言葉も出ないまま、ダンタリオンは八つ裂きにされ、粉微塵に切り裂かれて消滅した。


「中途半端だな。身体能力の強化にリソースを注ぐなら近接戦闘の技術も磨いておくべきだ」


 ダンタリオンの死因は、怠惰だった。魔術の行使は魔導書に任せ、近接戦闘は高い身体能力と強化に任せた、その傲慢と怠惰が呆気なくダンタリオンを殺した。









 黄金に輝く真鍮と鉄の指輪。真鍮の部分は天使を、鉄の部分は悪魔を象っている。


『明日だ……』


 指輪が揺れ、(しわが)れた声が響く。


『色々と足掻いているようだがな』


 周囲全てが暗黒に包まれた空間。それは魔術により隔離された亜空間だ。しかし、指輪を取り囲んでいたその景色は一瞬にして切り替わる。


『全て、無駄だ。異界の崩壊など余興、些事に過ぎぬ』


 祭壇の上に指輪がことりと()()()()()。そこは教会のようだったが、窓は一つも無く、濃密な魔力の籠った水で満ちていた。


『ルキフグス』


 名を呼ぶと、沈んだ教会に一つの影が現れた。


「何だ、ソロモン」


 黒一色の影そのもののような姿。ほぼシルエットのようにしか見えないが、頭からは捻じ曲がった三本の角が生えている。


『明日、この青き星を我が手中に収める』


「色々気付かれたと聞いたが、良いのか?」


『構わん。我の復活に備えて手を尽くしてはいるようだが……結局は無駄よ。この我が完全に復活することさえ叶えば、最早何者も逆らえん』


 黒い影は頷き、姿を消した。


『確かに完璧な筋書きからは遠退いたが……些事よ』


 指輪が小さく揺れ、嗄れた笑い声が響いた。

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