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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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綺麗な赤色

 会計を済ませ、外に出た俺は七里に別れを告げようとして、やめた。


「待て」


「あ? 何だ?」


 俺は七里を路地裏に連れ込み、念の為に人払いの結界も張った。


「おい、俺殺されないよな?」


「そんな訳無いだろう。これだ」


 俺は虚空から真っ赤な大剣を取り出した。僅かに透き通ったそれは鋼や鉄というよりも宝石のように美しい。


「おい、これは何だ……? あと、何の説明も無く何もない場所から取り出すのやめてくれねぇか?」


 怪訝そうな目で大剣を見る七里。


「剣だ。金属や宝石のように見えるかも知れないが、それは木で出来てる。生物由来の素材の方が闘気を通しやすいからな」


「あぁ、確かに木目があんな」


 紅蓮結晶樹という赤い宝石のように煌びやかな木。葉や実は魔力を良く通し、他の部分は闘気を良く通す。魔界と呼ばれる闇の大陸に生息する特殊な樹木だ。


「その剣は闘気を増幅し、斬った相手から生命力を吸収する。生命力を闘気に直接変換することは出来るな?」


「出来るが……これ、くれるのか?」


 俺は頷き、大剣を七里に押し付けた。


「あぁ、使え。あと、これも合わせてな」


 大剣を押し付けて手が空いた俺は、更に赤い宝石のアミュレットを渡した。


「そいつは持ってるだけで闘気の吸収変換効率を高め、常に生命力を活性化させる。無くすなよ」


「いや、無くすわけねぇが……良いのか?」


「あぁ、死ぬなよ。その日が来たら、どうせ戦うんだろ?」


「確かに、そのつもりだが……分かった」


 七里はアミュレットを受け取り、バッグに収納した。


「受け取っておくぜ。ありがとな」


「あぁ、そうしてくれ。どうせ俺は使わないからな」


 ニカッと笑う七里に、俺は黒い布を渡した。


「それで剣は隠しておけ。それを巻いておくだけで人から意識されづらくなる」


 認識を僅かに歪める効果があるが、そこまで強い効果では無いので既にその大剣を認識しているものなら殆ど効果を受けることは無いだろう。


「それと、その剣は勝手に再生するから多少乱暴に扱っても問題ない。闘気を利用すれば再生を早めることも出来る」


 他にも色々と刻まれてはいるが、意識しておくべき効果はそれくらいだろう。


「……マジでありがとな。助かるぜ」


「誰も使わずに腐っていくよりはよっぽど良いからな。気にしなくて良い」


 俺は人払いの結界を消し、さっさと路地裏を出た。


「それに、これも貰ったからな」


 俺はそう言って焼肉屋で受け取った茶色い封筒を見せた。


「これ、相当入ってるだろ? 数十万は確実に」


「まぁな。だが、正当な金額だぜ? これでも協会の職員だからな。相場は分かってる」


 地球の価値で言えば、流石にこの金額でも足りないだろうが、俺が持っていても何の得にもならない上に、どこかに売るのも気が引ける。寧ろ、俺としては渡せて満足してるくらいだ。


「じゃあ、またな」


「あぁ、今日はありがとな。焼肉食いに来たつもりが、とんだオマケが付いて来たぜ」


 笑う七里に手を振り、俺は家へと歩き始めた。


「歩きで良いか」


 家はそこそこ近場だからな。歩いて帰れる距離だ。


「……何だ?」


 小学生くらいの子供とすれ違う瞬間、何か違和感を感じた。そして、明らかにバッグの重量が減っている。


「悪い、ちょっと止まってくれないか?」


「ッ、な、なんだよ」


 俺は子供の肩を掴んで引き留め、一度目を瞑り、そして開いた。透けて見える子供のポケットには、しっかりと俺が七里から受け取った封筒が入っていた。


「こういうことはもうやめろ。良いな?」


 俺は封筒をポケットから引き抜き、鞄に入れた。


「わ、分かった……」


「契約成立だな」


 俺は子供の手を掴み、契約した。


「しかし、どうやったんだ?」


 普通にスられた訳では無い筈だ。それなら、流石に気付くからな。


「い、異能だけど……俺、もう行くからね!」


 小学生は走って去っていった。しかし、異能か。違和感としてしか察知出来ないのは問題だな。それに、この現代社会の歪さも実感した。


「小学生が異能でスリか……ヤバいな」


 まだ道徳の授業も終了してない子供が他の誰も持ち得ない特殊な能力を所持する可能性があるという事実、恐ろしいな。もし願うだけで人が殺せるような能力が子供の手に渡ってしまったなら重大な事件になるかも知れない。


「俺にはどうしようもない話だな」


 帰って寝るか。




 ♢




 寝室のベッドで寝ていると、何かが俺の背中をコツコツと(つつ)き、俺は目を覚ました。


「……何だ?」


 目を開けると、そこには銀色の機械で出来た小鳥が止まっていた。


「ステラです。リビングに来て下さい」


「あぁ」


 ステラの子機らしい小鳥が飛び立って行った後、俺はベッドから起き上がり、リビングに向かった。


「どうした?」


 リビングに行くと、カラスとメイアも待っていた。


「会議です、マスター」


「何の会議だ?」


「ソロモン対策会議でございます。主様」


「あぁ、ソロモンか」


 俺は絨毯の上に座り込み、ガラス張りとなっているベランダ側の壁に体重を預けた。


「ある程度情報が集まったので、それを基に対策を立てましょう」


「あぁ」


 リビングの奥側に置かれ、パソコンと繋がっているステラの体が浮き上がり、空中に画面を投影した。

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