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忍者

 忍者は静かに両手を組み、印を結んだ。


「忍法、分身の術……聞いたことくらいはあるでござろう」


「あぁ」


 忍者の体が無数に増えていく。その数は優に百を超えている。その気配はどれも本物のようで、遠目からでは見分けが付かない。


「なるほどな」


 気配も含めてどれも本物のように見えるのは、闘気を利用しているのか。生命のオーラである闘気を混ぜ合わせることで、どれからもが本物のような命の気配がするって訳だ。


「この術自体は魔術か? いや、それだけじゃないようにも見えるが」


「混ぜ物でござるよ。忍者とは闇の稼業。使えるものは何でも使うのが信条でござるゆえ」


 近くに居た忍者が答えた。ここまで近付けば流石に分かるが、こいつは偽物だな。飽くまで闘気はコーティング、表面だけだ。


「纏めて消すか」


 俺は四方八方から飛び掛かって来る偽物を切り裂きながら、魔術を唱えた。


「『山刈りの嵐(メテンドゥ)』」


 教会の内部で魔術の嵐が吹き荒れ、滅茶苦茶に椅子や机、転がる死体を傷付けながら分身を刈り取るようにかき消していく。


「後ろでござる」


 背後。嵐の中から現れた本物に剣を振るうと、代わりに小さな袋が現れて身代わりとなった。


「ッ」


 切り裂かれた袋は内側から爆発し、細かい鉄の破片を撒き散らした。だが、この程度なら問題無いな。


「なんと頑強な皮膚。それを受けても傷すら付かぬとは……流石に驚いたでござる」


「俺も、少し驚いてる」


 術の性能、隠形の技術、俺の攻撃に反応できる身体能力……こいつ、一級レベルで強いかも知れないな。


「少し、派手に行くでござるよ」


 隣で囁いた偽物を斬り殺すと、教会の天井辺りから渦を巻く柱状の炎が嵐の中心に居る俺に向けて放たれた。


「なるほどな」


 炎は嵐に呑まれ、拡散していく。撒き散らされる炎は嵐の中心に居る俺にも襲い掛かり、一瞬にして俺の周囲を火炎地獄に変えた。凄いな、一瞬で教会がドロドロと溶け、燃えていく。単に温度が高いというより、燃やすという性質を強化された炎なのだろう。


「上手く利用されたな」


 嵐を利用し、炎を撒き散らす。全方位を炎に囲まれてしまえば、流石に回避は出来ない。俺は嵐を消し去り、自分の体に付着した炎を払った。


「確実に火事になりそうだが、良いのか?」


「火吹きの術でも無傷でござるか……火事は良いんでござるよ。どうせ、この周辺には誰も住んでおらんでござる」


 まぁ、それもそうか。


「『喇叭男の火消し(ニヒルビィ・ソウファ)』」


 喇叭の音が鳴り響くと同時に、この教会を燃やしていた炎が完全に消滅した。被害状況的には割と手遅れではあるが、俺には関係ない。


「……どういう絡繰りでござるか」


「さぁな。少なくとも、アンタには分からないさ」


 何しろ、向こうの逸話を利用した魔術だからな。


「取り敢えず、一つ分かったでござるよ」


「何がだ?」


 俺を取り囲む分身達が、一斉に飛び掛かってきた。


「小手先の技では傷すら付かないってことでござる」


「そうかもな」


 俺は剣を振り払い、飛び掛かって来た分身達を一息に消し去った。


「つまり、拙者が直接切り付けてやらなければ、意味が無いということでござる」


「だったら、早く来たらどうだ?」


 そろそろ、この忍者の本体の場所を特定出来そうだ。そうなれば、俺の勝ちは決まりだろう。


「そこまで言うなら、しょうがないでござるな」


 分身の放った言葉と同時に俺の足元が蠢いた。そして、地面に穴が開き、そこから忍者が飛び出した。


「土竜の術でござるッ!」


「いや……」


 俺を拘束するように四方八方から飛び掛かって来る分身。そして、地面から飛び出した忍者。だが、これは……


「フェイクだな」


 俺は、四方八方から同時に飛び掛かる分身。その内の一体が本体と入れ替わったことに気付いた。


「ッ! これでも狩れないでござるかッ!」


 俺は入れ替わった本体の忍刀を弾きながら結界を展開し、忍者の懐まで迫った。腕を斬り落とすように剣を振るったが、狙いがバレていたのかギリギリで回避された。


「なッ、変わり身が使えんでござァッ!?」


「あぁ。ただの転移とは違うらしいからな。少し手間取ったが」


 この教会を囲うように展開した結界は転移を……そして、この忍者の変わり身を防ぐ。


「どうやら、アンタは本体みたいだな」


 ここまで近ければ流石に本物か偽物か分かる。そして、こいつは本物だ。俺は鬱陶しく迫る分身達を切り捨て、本体への道を開けて行く。


「これで、終わりだな」


「まだでござるッ!」


 忍者の体から闘気と魔力が溢れる。気配を隠すことにリソースを割く気は最早無いらしい。


「しかし、珍しいな」


 最初の試験官もそうだったが、気と魔力を競合させず、同時に扱える使い手がここにも居たか。流石、使えるものは何でも使うと言っていただけはあるな。


「『歪曲の術』ッ!」


 俺が忍者の腕を斬り落とそうとすると、空間が歪み、俺の剣はそこに呑み込まれた。剣を引き抜くと、刃はぐちゃぐちゃに歪んでしまっていた。


「チェンジだな」


 一応、空間の歪曲を食らっても曲がらない剣にしておこう。


「『臨兵闘者 皆陣列在前』」


 剣を入れ替えている俺の視界の奥、忍者は素早く印を結び、自身を強化する術を唱えた。陰陽師の術だと思っていたが、まぁ何でも使うと言っていたからな。


「『魔呪霊氣刀』」


 魔力、闘気、霊力、そしてどす黒い呪力の入り混じったオーラが刀に馴染んでいく。


「とんでもなく器用だな」


「光栄でござるよ」


 忍者は身を低く屈め、一瞬で俺の眼前まで迫った。

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[一言] 前話と内容が重複してます。
[気になる点] それな
[気になる点] 内容前話と同じでは?
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