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沙汰

 男の記憶が直接流れ込んでくる。普通ならこれだけでかなりの負荷になるが、俺なら問題ない。


「……なるほどな」


 力に関しては間違いなくソロモンから受け取っているな。前に記憶を覗いた時にも聞いた声だ。力を受け取った代わりに、ソロモンの悪事を隠蔽したり、金を渡したりしているって感じか。


「殺しは、していないか」


 そして、こいつの悪行だが……先ず、直接的に人の生き死には関わっていない。ただ、思考誘導を使って好き放題しているし、それによって人生が大きく歪んだものも居るだろう。遊び感覚で気軽に使っているみたいだからな。もしかすれば、こいつのせいで人生が終わった者も居るかも知れない。


「沙汰を下すってのは良い気分じゃないが……」


 こいつに関わった会社は軒並み被害を受けてるだろうな。そもそも、他人に対して悪意を持って思考誘導を使っている時点で悪人であることには違い無いんだが……そうだな。


「アンタも、同じ目にあってもらうか」


 俺はこいつとソロモンの間にある契約を魔術によって破壊し、代わりに洗脳の魔術を男にかけた。簡単に解けることはない。自分の力で解くとか、偶然や時間で解けるなんてことは絶対に有り得ない。


「起きろ」


 気絶した男を蹴ると、ぴしゃりと起き上がった。


「アンタが今までにかけた思考誘導は全部解除しろ。そして、そいつらがアンタによって負った損害を可能な限り補填しろ。それが終わったら死ぬまで人の為に生きろ」


「はい」


 簡潔な返事。これが洗脳だ。こいつの人格は今、大きく歪んだ状態にある。俺が洗脳を解除するまで……素のままの人格に戻ることは無い。常に俺からの命令が大きく思考を占め、それを目標に動き続ける。人格が消失した訳ではないが、人格の上に命令が存在し続ける歪な状態だ。


「まぁ、ある意味でアンタは死ぬ訳だが……どう捉えるかは、好きにすればいい」


 尤も、こいつは自分の変化を知覚することすら出来ないだろうが。


「じゃあな」


 最後に、俺はソロモンの魔力にだけ反応するトラップを男の中に仕掛けて高層ビルを去った。




 ♢




 次の場所は、茨城の外れにあるアパートだ。


「ここか」


 俺は扉に身を寄せ、魔術を唱えた。その効果によって扉をすり抜けた俺は部屋の中を観察する。


「かなり散らかっているな」


 ゴミ屋敷一歩手前って感じだ。ステラの話だと、ここに三人組のハンターが住んでいるらしい。


「これが、例の魔法陣か」


 転移魔法陣だ。人間用には調整されていない物資の転送用だな。


「……タイミングが良いな」


 気配が真っ直ぐ近づいて来ている。この部屋に染み付いた気配と同じだ。家主だろう。だが、焦ることは無い。既に俺は透明だ。


「……」

「……」

「……」


 誰一人喋ることなく、死んだ顔で三人が家に帰ってきた。


「完全に洗脳されているな」


 その理由は明らかに洗脳だ。既に聞いてはいたが、これは間違いないな。


「なるほどな」


 この三人は異界で熱心に魔物を狩っては協会や他の買取屋にも一切持って行かず、家の中に運び込み続けているとのことだ。カラスやメイアの調べでは、運んできた魔物をあの魔法陣でどこかに転送しているとの話だった。その転送先は恐らくソロモンだ。


「魔物の死体、か」


 その用途は多岐に及ぶ。単に素材として何かを作る、対価として何らかの術を使う、死霊術に利用する……本当に何でも使えるだろう。


「まぁ、今回は単純だな」


 せっせこと無言で魔物の死体を魔法陣に乗せていく三人。


()()()


 三人の意識が落ち、地面に倒れ込んだ。


「さて、後は……」


 記憶を確認して洗脳を解除するだけだな。記憶の確認は一人だけで良いか。


「……まぁ、概ね聞いてた話と同じだな」


 記憶の確認を終えた俺は、地面に倒れた三人の洗脳状態を解除し、魔法陣に視線を移した。


「行くか」


 魔法陣の転送先。流石に直接ソロモンの居所まで飛べはしないかも知れないが、取りあえず行ってみるのもアリだろう。


「少し書き換えるだけで良いな」


 人間でも飛べるように、魔法陣を書き換え、その上に乗った。


「起動」


 魔力を流し、魔法陣を起動させた。




 そこは恐らく異界の森の中。転移した俺を囲んでいたのは幾つもの魔物の死体。どうやら結界の中らしく、無意識的に人が近付かないようになっている。


「分かってはいたが、期待したような痕跡は無さそうだな」


 転送先のこの場所から更に誰かが運搬するんだろうが、流石にそれを待つのは億劫だ。ただ、監視用の魔術を使っておくのはアリだな。


「取り敢えず、もう少し調べ……」


 この場所を守っていた結界が、突然黒く変質し、内側に向けて縮み始めた。


「圧死させるつもりか?」


 俺の侵入を検知したのだろう。結界は俺を圧死させるように高速で収束していく。


「……無意味だな」


 圧縮される結界を斬り、開いた穴から脱出した。まぁ、俺用のトラップというわけでも無いんだろう。


「良し、次だな」


 全てが圧縮し潰れた今、調べることは難しい。それに、侵入が検知された以上、運搬役も来ないだろう。最後の現場に向かうとしよう。

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