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掃除の時間

 夜の街、ネズミに似た顔の男が逃げるように走り出した。震える足取りで、何度も転びそうになりながら駆けていく。


「ク、クヒヒッ、壊せないとは言いましたがッ、逃げられないとは言ってませんからねぇッ!」


 自分一人だけ事務所から逃げ出した男は、怯えたような笑みを浮かべながらひたすらに走り続け……気付いた。


「な、何だ……何で、こんなに人が居ないんだ?」


 暫く走っていると、明らかに人通りが少ない……どころか、誰も居ないことに気付いた。



「――――カァ、漸く気付いたか」



 パタパタと羽根の音があちこちから聞こえ、男が辺りを見回すと……無数のカラスが自分を囲んでいることに気付いた。


「最初っからお前らのことは調べてるから分かってんだが……どうやら、お前もクソッたれのクズらしいからな」


 男の足元から伸びた影が足を掴み、腕を掴み、地面に倒れさせる。


「ッ、なッ!? 誰だッ! ま、まさか……これもあの女ですかッ!?」


「ハズレだ」


 カラスが一鳴きすると、動けない男の体にカラスの群れが集っていく。


「やッ、やめなさいッ! クソッ、やめろッ!! やめろぉおおおおおおッッ!!!」


 翌日の朝日が照らす頃、その場所には肉片一つ残っていなかったという。






 ♦……side:老日




 朝日を拝み、背を伸ばす。めでたいことに、俺を殺しに来ていた連中は壊滅したとのことだ。カラスとメイア、それとステラに任せる形になったが、全員無事とのことで何よりだ。


「ステラ、そろそろ行く。例の場所を同期してくれ」


 そして、あいつらのようなソロモンの息がかかった奴らは既に幾つか見つけている。蘆屋から陰陽師の連中が怪しんでいる組織のリストを受け取り、使い魔達に調べて貰ったのだ。


「現時点でほぼ確定しているソロモン勢力の組織は三つですが、最も近いものからでよろしいでしょうか?」


「三つ全部同期してくれ。その程度なら負荷にもならない」


 答えると、主従のパスを経由して直接情報が伝わってくる。


「情報の同期が完了しました」


「あぁ、行ってくる」


 俺は透明化を発動し、玄関の扉を開けて飛んだ。




 ♢




 一か所目はビルだった。東京のど真ん中にある高層ビルだ。その高層階にソロモン勢力の会社はあるという。


「普通の会社にしか見えないな」


 無数に並ぶデスク。その上にあるパソコンと睨めっこしている社員たち。本当にただの会社にしか見えないが。


『ステラ、ここで間違いないのか?』


『はい。その会社内のデータは全て確認したので間違いありません。カラスとメイアの報告によると、この会社の社長が少し前に突然力を授かり、社員を初めに何人もの相手を洗脳しているとのことです』


 早速、俺が買ったパソコンを活用しているようで何よりだ。俺はまだ一回も使っていないんだが、まぁ良いだろう。


「しかし、洗脳か……」


 ぱっと見では誰も洗脳を受けている気配は無い。ただ、思考誘導はされていそうだな。恐らく、これのことだろう。


「一応、確かめるか」


 俺は社内のトイレに入り、人が来るのを待った。


「……来たな」


 俺は一人でやってきた男の背後に回り、その頭に触れた。


「う、ぁ……?」


 上手く思考が出来ない状態になっているのだろう。男は嗚咽のような声を漏らしながら、壁によりかかった。


「良し」


「……何、だ? 立ち眩みか?」


 出来る限り脳に負荷をかけずに最近の記憶をコピーした。その内容を見るに、この会社の社長は突然方針を大きく変更したらしい。そして、社員の誰もそれに対して疑いを持ちすらしていない。


「まぁ、明らかに怪しいな」


 さっきの男の記憶によって社長室の場所は分かっている。俺は迷わず歩き、そこに向かった。


「ここか」


 社長室に入ると、全面のガラス張りを背に座る男が居た。壮年の男だが、洗脳の気配も思考誘導の気配も無かった。


「取り敢えず、閉めるか」


 俺はこの社長室に人払いと防音の結界を張った。


「一人、邪魔だな」


 俺は社長の横に控える男に指先を向け、意識を落とした。


「なッ!?」


 急に倒れた男に社長は驚き、立ち上がる。


「アンタに、聞きたいことがある」


「ッ、誰だッ! どこだッ!?」


 混乱した様子の男は色んな場所に指を向けては睨みを繰り返している。中々滑稽だが、あれは思考誘導を乗せているのか。


「無駄だ。俺を認識出来ていない状態で思考誘導を使ってもな」


「ッ!? 何故私の力を知っているッ!」


 焦りの表情を浮かべる男。これでそれだけ焦るということは、思考誘導以外には大した力も無いのだろう。


「だが、ある程度の企業の社長がこの能力を持っているというのは確かに恐ろしい話だな」


 部下は一人も逆らわず、取引先もほぼ言いなりのように出来るだろう。思考誘導は細かい指示までするのは難しいが、社長の命令に違和感を持たせないというだけならそう難しくないからな。


「アンタ、ソロモンって名前に聞き覚えはあるか?」


「無いッ! 何の話だッ!?」


 嘘では無さそうだな。ソロモンの名前自体は出していないということか。今のところ、直接ソロモンの手にかかっている組織でソロモンの名を知っているのは俺の足止めに来た宗教団体くらいだな。


「そうか。まぁ、記憶を見させて貰うか」


 俺は男を気絶させ、頭に手を当ててその記憶を見た。

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