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竜殺し

 ♦……side:竜殺し




 罠だったか。見事に山の中に誘い込まれた俺は、空まで覆う漆黒の帳に囚われた。


「何か……来ているな」


 気配が五つ、こちらに近付いてくる。どれも強大な気配だ。



「――――よォ、よォ、よォ」



 最初に現れたのは赤い装束と甲冑に身を包んだ兵士のような男だった。


「俺ァ、ゼパル。アンタァ、竜殺しだろ?」


 ゼパルと名乗った男は赤い柄の剣を俺に向けて言った。


「竜殺し……確かに、そう呼ばれている」


 俺から名乗ることは許されないその名は、俺が犯した罪の象徴だ。



「――――ゼパル。先行するなと言っただろう」



 次に現れたのは、蒼褪めた馬を駆る男だ。後ろで纏められた長い髪は途中から蛇の尾となり、うねっている。


「バティン、アンタの能力なら直ぐにでも来れただろ?」


「馬鹿め。戦闘を始める前に能力を見せることほど愚かなことは無い」


 バティンとゼパル。残りの三体が現れる前に襲い掛かるべきか? いや、だがこちらから仕掛けるのはリスクが大きすぎるか。



「――――まだ始めるなよおぬしら。約定を果たさねば自由は得られぬぞ」


「――――さっさと終わらせて暴れるぞ。今日は収穫祭だ」



 同時に現れた二体。旗と槍を持った老齢の騎士と、紫色のローブを纏った体格の良い男だ。



「――――お前たちでやっておけ。これでは狩りにすらならない」



 最後に現れたのは、灰色のマントを纏い、緑の帽子を纏った狩人だ。手に持った大きな弓を構えることすらせず、五体の中では最もやる気がなさそうに見える。


「バルバトス……おぬし、これは遊びでは無いのだぞ」


「そうだな、エリゴス。これは遊びではない。だが、狩りでもない。安心しろ、お前たちが全員死んだら俺がそいつの相手をしてやる」


「遊びでも狩りでも何でも良いが、早く終わらせるぞ。この後の殺戮こそが本番だからな。作業だと割り切って手伝え」


「断る。グシオン、俺はお前のような低俗とは違う」


「何だと、貴様……?」


 年老いた騎士がエリゴス、ローブを纏った筋肉質の男がグシオン、そして狩人のような男がバルバトスか。

 名を聞いたことがある悪魔も居るな。それだけ、高位ということだろう。


「ここで争うなよ、愚者共。先にやるべきことがあるだろう」


「如何にも。先ずはこれを見せないかん」


 老齢の騎士、エリゴスが懐から取り出したのはスマートフォンだった。


「ほれ、こうすれば良いんだったか?」


 エリゴスがスマートフォンは操作し、画面をこちらに見せた。真っ黒な背景の中に、誰かが映っている。


『覚えているか?』


 低い声。だが、聞き覚えがある声だ。


『覚えているか、竜殺し』


 液晶に映った人影。その姿を、俺は確かに覚えていた。


『お前の罪を。そして、俺達を』


 覚えている。忘れもしない。


『分かってるだろ。お前は、竜殺しじゃない。お前は俺達を犠牲にして逃げただけのクズだ』


「……その通りだ。本当に、すまなかった」


『ッ! ふざけるなよ……ふざけるなッ!』


 画面の中の男は……ショウは画面に近付き、凄まじい形相で俺を睨んだ。


『何故お前は真実を話さなかったッ!? 俺達の存在をッ、無かったことにしたかったんだろッ!!!』


「……何度も、話した」


 俺は今まで何度も罪を告白した。真実を話した。だが、世界はそれを認めない。俺は秘宝に呪われている。もう、英雄であることしか許されていないんだ。


『嘘を吐けッ!! 俺達を殺したのはッ、お前なんだぞッ! あの穴の中から生き延びることが出来たのは俺だけだッ! 他は全員食われたんだッ、お前のせいでッ!! だが、誰もその真実を知らないだろうッ!?』


「……あぁ」


 全部、その通りだ。竜の巣の奥地で財宝や異界出土品(アーティファクト)を集めた俺達は、最後の最後で簡単な罠に引っかかり、眠れる竜を起こしてしまった。

 そして、荷物を多く収納できる魔道具を持っていた俺は全ての秘宝を持って真っ先に逃げ出し……自分だけ生き延びた。それから、その秘宝達を使って俺はあっという間にハンターとしての地位を上げ、一級になった。

 だが、そのことを幾ら話そうと、世界は都合よくそれを信じず、忘れ、否定する。そして俺を英雄に仕立て上げるんだ。きっと、これが俺に対する一番の罰なんだろう。


「今なら、分かる。あの時俺が残って……竜の巣で手に入れた秘宝達を使っていれば、俺達は全員助かっていたかも知れない」


『ッ!! お前……お前ッッ!!!』


 そうか。そういえば、この惨状はショウが起こしたことなのか。俺のせいで、また人が死んだのか。


「……そう、か。俺のせいか」


 俺は、クズだ。どうしようもない。だが、俺を責めてくれる者は誰も……いや、そういえばショウは何故、俺の罪を覚えていられるんだ?


『そうだ。俺はお前を殺す為だけに、沢山の人間を殺戮し……五体の公爵を召喚した。三、四体に収まるかと思ったが、便乗してきた奴らによって死人が増えた』


 やはり、そうだったか。ソロモンの力を借りて、この事件を為したのだろう。もしかすれば、俺の罪を覚えていられるのもソロモンの力かも知れない。


『死ねよ……死ねよ、シン。俺は、もう……どうやってもお前を許せない』


「……悪いが、死ねないんだ」


『知るか……俺が、殺してやる』


「災厄がこの世界に迫ってる。それを止めるまで、俺は死ねない。そういう、定めなんだ」


 俺が言うと、ショウは表情を失った。


『英雄気取りか、お前』


「そんなつもりは無い。俺が決めた運命じゃないからな。それに、今日また俺のせいで沢山の人が死んだ……だから、そうして償う必要があるのも、事実だ」


『傲慢だな。お前のせいで沢山の人が死んで、お前のお陰で沢山の人が助かって……何様のつもりだ? 神にでもなったつもりか? お前の気分次第で人が助かったり死んだりするのか? ふざけるな……ふざけんなッッ!!!』


 ショウはまた表情を歪ませ、俺を睨んだ。


『……お前の言葉は、空虚なんだよ。本当は、どうでも良いと思ってんだろ。全部。あぁ、もう、良い。お前は、殺す。もう、話す気にもならない』


 ショウはカメラに背を向けた。


『殺せ、悪魔達。そいつを殺せば、後は自由だぞ』


 エリゴスが通話を切り、スマホを捨てた。


「ハハッ、結構なクズみたいだなァ? アンタ、悪魔向いてんじゃねえのか?」


 笑うゼパルを無視し、俺は剣を構えた。


「行くぞ」


 俺は体に纏った無数の装備の力を活性化した。


怒りの魔剣(グラム)


「へぇ、おもしれェ」


 剣を振るうと赤紫色の斬撃が飛び、少し離れたゼパルに迫った。


「剣の能力かァ。実際に斬った時と同じ威力の斬撃を飛ばせるってとこだろ?」


突き刺すもの(フロッティ)


 一瞬でゼパルに距離を詰め、違う剣を取り出して思い切り心臓を突き刺した。心臓の位置は、透視の指輪の効果で透けて見える。


「ぐッ、はァ……二本目だとォ? しかも、防御を貫通して……ッ!」


 良かった。この心臓はちゃんと心臓として機能していたらしい。


「随分、好き勝手やっておるな?」


 エリゴスが現れ、その槍を真っ直ぐこちらに突き出して来る……その未来が見えた。


「見えた」


「なぬッ!?」


 十秒程度の未来視が可能な俺にとって、不意打ちは無意味だ。戦闘が始まった時から、俺は常に数秒先の未来を見ている。


「貴様ら、適当に戦うなよ。公爵が五体は必要だと判断されたということは、私達が一対一で争えば勝ち目はない相手ということだ」


「そうだぞ。そいつは、少し厄介だ。どうやら、未来が見えるらしい。他にも色々と秘密がありそうだが……俺でも、それ以上は見えなかった」


 俺の未来視を見破ることは出来たようだが、秘匿の力を持つ道具も持っているからな、全ての力を確かめることは出来なかったようだ。


「……増えるか」


 未来が見えた。結界の中に無数の悪魔。この五体よりは位が低い奴しか居ないが、この数は厄介だ。


「増えるだけじゃなくてよォ、こっからは本気でやらしてもらうぜェ?」


 ゼパルの真紅の装束と甲冑、その隙間から炎が溢れた。


「遊びは終わりだァ、ヒト風情」


 ゼパルに続くように、他の悪魔達も膨大な魔力を解き放っていく。


「ここからが、本番か」


 もしかしたら、死ねるかもな。

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― 新着の感想 ―
[一言] この場にバエルとフラウロスがいれば鉄血になっちまう...
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