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黄金色の魔法陣

 水中から見える黄金色の魔法陣。美しく、異質。巨人が自分を狙っている状況であるにも関わらず、少女は目が離せなかった。


(……何、あれ)


 うつくしい。きれいに、かがやいている。きらきら、きれいだ。


 思考が単純化され、ただ見惚れてしまう。拳を振り上げていた巨人も自身の身に迫る異常に気付き、拳を振り落とすことをやめて逃げ出そうとする。


「……ぁ」


 黄金の魔法陣が、光った。そこから光が落ちてきた。その魔術の広大な範囲には少女も入っており、黄金の光は少女も纏めて呑み込んだ。


「き、れい……」


 黄金の光の中、少女はそう呟いた。黄金色に輝く流星群の中に居るような、不思議な光景。絶大な威力を誇るこの光は、巨人以外を消し飛ばすことは無かった。


「……ッ!?」


 光が止んで暫く、少女は状況を思い出した。水中に居る自分と、倒すべき巨人だ。


「ぷはッ! ハァ、ハァ……きょ、巨人はッ!?」


 辺りを見回すも、居ない。


「ね、ねぇ! 巨人はどこ行ったのッ!?」


「多分、だがよォ……死んだぜ。さっきの光で、よォ」


 全体的にやさぐれている見た目の若い男に尋ねた少女。帰ってきた言葉で、漸く起きた出来事の整理が付いた。


「ッ! そうよッ、あの光……!」


 ただ美しく、見るだけで冷静な思考力を失ってしまうような光の柱。あれは一体、何だったのだろうか。あれを浴びた巨人の身に何が起きたのだろうか。いや、何故あれを浴びた自分の身には何も起きていないのだろうか。


「……神、様?」


 天から降り注ぎ、巨人だけを滅した美しい光。それはまるで神の下した天罰、若しくは奇跡のようだった。






 ♦……side:老日




 新潟に現れたという魔物。今回の事件の中でも一際厄介らしいこの事象の処理をすべく、俺は新潟の糸魚川市に来ていた。


「……アイツか」


 糸魚川の街から見える海。その海岸線には氷の巨人が居た。その身長は七十メートル近く、遠目からでもかなり大きい。


「確かに厄介そうだな」


 身体中から白い体毛が生えた巨人は、更にその上から氷の鎧で覆われている。巨人の周辺の海は完全に凍り付いており、遠くからは霞のように見える程の冷気が溢れ、更に巨人を中心に強烈な嵐が吹き荒れている。あの中に入れば単なるあられでは済まない傷を負うだろう。


「それに……違う意味でも厄介だ」


 民間人は既に避難しているようだが、獲物が大物なだけあって狩猟者はかなり居る。その中にはかなりの力量を持つ者も居そうだ。


「透明とは言え、ここに突っ込んで巨人を殺すのは不味そうだな」


 さっきの一級ハンターの例がある。このまま首を斬りに行けば気付かれてもおかしくない。


「魔術を用いるにしても、大規模な物や痕跡が残るものは……いや」


 大規模で痕跡が残る物であっても、それが自身の痕跡で無ければ問題ない。


「あまり気は乗らないが……これを使うか」


 俺は虚空から()()()()()を取り出した。野球ボールよりは少し大きい程度のサイズのそれには華美が過ぎる程の装飾が施されている。


「『目覚めよ』」


 球体に魔力を流し込むと、黄金色の輝きを放ち出す。既に資格を満たしていることは分かっていたが、こっちでも使えるようで何よりだ。


「『我こそ天帝。星は傅き、月は微笑み、太陽は眩む』」


 対象はあの巨人、それだけだ。他は無い。


「『黄金の輝き、宝石の煌めき。如何なるも届かぬ』」


 巨人の頭上、遥か上空。そこが強く光る。


「『民よ、国よ、大地よ、世界よ』」


 光は少しずつ渦を巻くように広がり、黄金色を空に描いていく。


「『震えよ。(つくば)え。手を組みてただ祈れ』」


 それは、巨人さえもその範囲内に収める巨大な黄金の魔法陣。


「『……(こうべ)を上げよ。そして、見よ』」


 氷の巨人は異常に気付き、逃げ出そうとするが魔法陣は巨人の動きに合わせて動き、逃れることは出来ない。


「『これぞ、天誅だ』」


 黄金色の魔法陣が、眩く光り輝いた。



「『――――聖天帝王誅罰の魔術(エシ・ゴッフリーツ)』」



 氷の巨人が居た場所に、光の柱が立った。黄金色に輝く、大きな柱だ。神々しく神秘的に、そして威圧的にその柱は輝いていた。


「天誅か……嫌いな言葉だな」


 光の柱が消え去る。そこに、氷の巨人の姿はなかった。






 ♦……side:???




 想定よりは魂を集められていないが、それでも目標数には届く。問題は、ない。


「第二段階の準備も完了した……後は、起動するだけだ」


 それが終われば、いよいよ最終段階となる。


「赤い男か……気にはなるが、もうどうでも良いな。老日勇も」


 もう直ぐ、俺の目的は達せられる。その後で俺を誰かが殺しに来ようが、全く問題ない。何度死んでも現れる赤い男、謎の力で悪魔や魔物を殺し回っている老日、どちらも気にはなるが、それを知ったところで最早、冥途の土産にしかならないだろう。


「漸くだ。漸く、誘い込めた」


 第一段階。それは贄の準備だ。竜殺しを殺す為に必要な戦力の確保。


「あぁ、もう直ぐだ……もう直ぐだぞ」


 第二段階。それは竜殺しの位置確定だ。奴を完全に結界で包囲し、逃亡を防ぐ。


「まだ猶予はあるな。急ぐ必要はない」


 最終段階。それは竜殺しの抹殺だ。持ちうる全てを使って、アイツを殺す。俺の復讐を成し遂げる。


「悪魔を召喚したら……行くとしよう」


 もうここに帰って来ることも無いだろう。ソロモンの奴は、今どう思っているだろうな。驚いているか、怒っているか、笑っているか、それとも……全て予想通りだったか。


「……何でも良い」


 どうせ、今日で俺の全てが終わるんだからな。そして、アイツの全ても。

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