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異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。  作者: 暁月ライト


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舞う桜、閃く金。

 ヘラヘラと笑う男、その全身をくまなく探る御日。


「ッ、これ、は……」


 アレは生物だ。動きには法則性、規則性がある。闘気や魔力という感覚的に把握可能なエネルギーがある。どこがどこに連動し、どれだけの出力があるのか。筋肉の動き、骨の厚み、臓器の位置、全てを理解すれば、それらは透けて見える。


「三つ、四つ……それに、筋肉も……何、これ」


 その肉体は異常だった。恐ろしいまでに短期の生存しか考えられていない。飢えへの備え、体温の調節、繁殖、全てを捨てている。


「完全に、戦闘用の構造……」


 圧倒的な筋肉率、複数存在する脳や心臓、逆に存在しないのは消化器官類だ。この怪物の体は自在に変形変質し、その肉体のどこからでも獲物を消化吸収することが出来る。


「どうしたぁ? やっぱり逃げるか~?」


 この異常な構造を可能にしているのは多量の魔素と、改造された細胞、そしてエネルギー源である魔力だ。


「……先ずは、脳」


 五つも同時に存在している脳。頭に一つ、残りの四つは体のあちこちに散らばっている。だが、幸いにも……数は足りている。


「同時に、五つ」


 四枚の花弁と、刀。これで、全く同時に五つの脳を破壊できる。


「そっちから来ないならよぉ……こっちから行くけどなぁ!?」


 飛び掛かって来た赤い男。しかし、御日はそれを待っていた。


「っしゃ、オラァ!!」


 空中で拳を振り上げる赤い男。その瞬間こそが、最も無防備だ。



「――――散って」



 自由に身動きが取れない空中。拳を振り上げ、防御が間に合わない姿勢。紛れも無い隙。


「がぁッ!?」


 瞬間、御日の体から赤色のオーラが沸き上がり、一瞬で刀を抜きながら跳ね上がるように姿勢を起こし、強く踏み込んで男の頭を破壊した。

 同時に吹き荒れた桜の花弁が男の体を貫き、他の四つの脳も破壊した。


「……ふ、ぅ」


 短く息を吐く御日。一瞬で全体の半分以上の闘気を消費したことで消耗し、疲労感が押し寄せている。


「ッ、まだ再生してる……ッ!?」


 未だ燃える体。全ての脳を失っても、肉体が反射的に再生している。このままでは、この男は思考能力を取り戻し、また御日を襲うだろう。


「斬って。斬り続けて」


 桜の花弁が躍動する。黒い軌跡を残しながら、四枚の花弁は高速で動き、赤い男の体を切り刻み続ける。再生した傍から破壊され、男は思考能力を取り戻すことは無い。


「……勝った?」


 これで、詰みのはずだ。これは異能ではない。飽くまでも魔力等のエネルギーを用いる再生。ここから能動的な行動が出来ない以上、赤い男には死しか待っていないだろう。



「――――緊急事態の発生を確認」



 炎が弱まっていく赤い肉体から、あの男の声が……しかし、感情の籠っていない声が、聞こえた。


「意思の確認、不可。肉体の再生、不完全。終了プロトコル、case:4に決定」


 機械的な言葉。これは、思考ではない。これも、反射だ。


「自爆プログラムを起動します」


「ッ!」


 言葉と同時に、男の体から赤い光が溢れる。


「戻ってッ!」


 膨れ上がる男の体。四枚の花弁は御日の下に戻り、その体を囲むように展開してバリアとなった。御日も残りの全ての闘気を防御に回す。


「プログラムを完了」


 瞬間、周辺のビルを崩壊させるレベルの大爆発が巻き起きた。






 ♦




 とある場所の地下、幾つもの培養槽が浮かぶ暗い空間の中。一人の男が起き上がった。


「んー、んー……あ~、そうか」


 男はどこか寝ぼけた様子で声を上げた。服は着ておらず、寒がるように肌をさすった。


「成る程な~、脳を全部破壊されたって訳かぁ……んー、やるじゃねえか」


 伸びをして、用意されていた服を身に纏い、男は笑みを浮かべた。


「んじゃ、行くか」


 男は歩き出し……一言、言葉を付け加えた。



「――――セカンドトライ」



 男は意気揚々と東京の街に繰り出した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公のスタンス、考え方が好き。そして強い [気になる点] 異世界でのことが語られないけど、よほど嫌な思いをしてそれが今の行動指針に繋がってるのは感じられる。そのあたりも今後明かされていく…
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