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魔術の雨

 空に浮かぶのは無数の魔術。その中でも目立つのは巨大な鋼鉄の拳だ。あの質量、当たれば死だな。


「ハァッ! ッ、アブねぇッ!」


 巨大な鋼鉄の拳を回避した瞬間、その裏からホーミングしてくる光の矢が迫ってきた。ギリギリそれは弾けたが、その瞬間にチリチリと細かい氷の粒子が降っていることに気付く。


「クソッ、ちょっと喰らっちまった……ッ!」


 氷の粒子。闘気で弾いたつもりが、ガス欠寸前のそれでは全てを防ぎ切れなかった。俺の肌に触れた氷の粒子は噛みつくように皮膚に食い込み、凍傷がじわりと広がった。


「ッ、ダメだ、これは……やべぇ」


 上にはまだまだ魔術の雨が降っている。炎の槍、闇の蛇、光の剣、全てを対処し切れるのか分からない。


「ハァ、クソッ!」


 炎の槍を避けた。熱気がチリッと肌を焼く。飛び掛かる闇の蛇を切り裂いた。闇が溢れて視界を埋め尽くす。その闇の中から光の剣が飛び出し、俺の肩を僅かに斬った。


「ッ!? これは……ッ!」


 俺の足元でパチパチと静電気のような感覚がした。


「避け――――ッ」


 雷が落ちた。それを完全に避けることは、出来なかった。身体中が焼けるようで、半身が痺れていて動かせない。


「ぐ、ぉ……」


 立て。立たないと、死ぬ。気合いだ。それで、俺はここまで生き残って来たんだろ。


「……ぁ」


 立った。立てた。ギリギリ、何とか。だが、もう遅かった。轟々と燃える炎の球体が俺の眼前に迫り……


「……ッ、は」


 消え去った。何かにかき消された火球。それと同時に、俺の眼前に何かが立ったような気がした。


「何だ? いや、これは……」


 見えはせず、音も匂いも気配も無い。魔力も闘気も感じない。だが、そこには何かが居る。違和感がある。


「老日か?」


「何で分かった?」


 声がした。老日の声だ。同時に、俺を守るように球状のバリアが展開されたのが分かった。


「勘だ」


「……」


 俺が答えると、溜息を吐く音がした。視界を埋め尽くすような炎の波がバリアに触れて消えていく。


「まぁ良い。取りあえず、こいつが例の異常個体だな?」


「そうだ。人間を吸収してその知識と技術を得るらしい。放っておくとやばいことになる」


 俺達が話している間にも、無数の魔術がバリアに触れては消えていく。どんな強度してんだ、このバリアは。


『オイ』


 異常個体の甲高い声が聞こえた。


『ナニモノダ、オマエ』


 アイツらも全く俺と同じ疑問を抱いていたらしく、そう問いかけた。


「最近、良くその質問をされるな」


 老日は質問に答えることはせず、そう呟いた。


『オマエハ、キケンダ』

『ドウヤッテコノクウカンニハイッタ』


 そうだ。確かにこいつ、どうやってここに入ったんだ? そんな簡単に入れる訳ではないと思うが……まぁ、答えないだろうな。


「取り敢えず、終わらせるか」


 全ての魔術を受け切り、バリアが解除された。


『キケンダ』

『テッタイスル』


 瞬間、この空間が崩壊し、上空に浮かんでいた二体の魔物の片方が真っ二つに切り裂かれ、片方は転移で逃げ出した。


「ッ、クソ……逃げられたか」


 あのクソ目玉の転移能力で全力逃亡されれば、流石に追いつけはしないだろう。


「だが、取りあえず生き延びることは出来たな」


 当初の目的は果たした。遠くでは魔物の群れとハンター達が戦っている。ぱっと見だが、ハンターの方が優勢に見える。異常個体を逃がしたのは痛いが、一先ずは勝利と言っても良いだろう。


「しかし、強いとは思ってたがここまでだとは思わなかったな……」


 老日勇。明らかに熟練の戦士であることは分かっていたし、どこか底知れない雰囲気もあった。が、ここまでの強さを秘めていたとはな。だが、このレベルの人材がハンターになってくれたのは間違いなく喜ぶべきことだ。何より、俺よりは強そうだ。一級レベルで強いかも知れない。


「七里」


 背後から声が聞こえた。


「今日の俺のことについては誰にも話さないで欲しい」


「あぁ、良いぜ」


 答えると、見えない何かが俺の手を掴んだ。


「契約完了だ」


「それは良いんだが……異常個体がどこに行ったかは分かるか?」


 アイツに潜伏されるとかなり面倒なことになる。大体の方角だけでも知っておきたい。


「もう殺した。アレで全てか?」


「……追いつけたのか?」


 アイツの転移はかなりの頻度で使える上に、視界内ならばどこまでも飛べる筈だ。追いつくのは、かなり難しい。


「あぁ」


「そうか。そりゃマジでナイスだが……ハハッ」


 いやぁ、ヤベェな。こいつ、マジで何なんだろうな。魔術を使ってるってことは分かったが……魔力を全然感じられねえんだよな。


「それで、異常個体はアイツで終わりなのか?」


「恐らくはそうだ。どこまで信じて良いか分からんが、奴らはそれを匂わせるようなことを言っていたな。当然、調査の必要はあると思うがな」


 俺が答えると、老日は相槌を打ち、それから、手のような感触が俺の胸辺りに触れた。


「だったら、もう俺は帰るが……まだ群れは残ってる。後は任せるぞ」


 その言葉と同時に、俺の胸に大量の闘気が流れ込んできた。身体中が燃えるように熱く、煮え滾っていく。


「ッ、これは……ッ!」


「流し過ぎたか? このくらいだと思ったんだが」


 平然と言いやがる老日に、俺は笑った。


「いや、ちょっと驚いただけだ……任せろ、あのくらいの群れ、一瞬で終わらせて来るぜ」


「あぁ、それと報酬は要らん。金に困る気は正直してないからな」


 報酬か。確かに、報酬の支払いで存在が露呈する可能性もあるな。


「いや、今度会った時に俺から渡してやるよ。個人的にな」


「そうか、じゃあ……またな」


 その言葉を最後に、老日はどこかに消えたのだろう。俺は魔物の群れを見据え、大剣を肩に乗せて飛び出した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公格好いい。 [気になる点] 七里さんの怪我は? [一言] 面白いです。
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